口が悪くて乱暴なのに、照れ屋とかいうクセモノをすきになってしまいました。
ぶっちゃけありえない。ん?いや、MAXハートとかならないよ。


大学で同じゼミになった錦戸と言う男は顔はいいのだろうが大変ガラが悪く、一度おそらく彼の友人やなんかと待ち合わせをしていたらしい彼がやって来た相手に対し「おっそいわボケ!」と怒鳴っているのを目撃したわたしはおおいに震え上がり、それ以来彼の取り巻きの女子を遠目に見ながら彼らを避けていた。そういえばその子たちもとてもかわいいと思えるのに、錦戸氏はそのうちの一人にもやさしい言葉などをかけず大体うざったそうにしているように見える。なぜあんな恐ろしいひとに近寄るのだろう。わたしは怒鳴ったり怖そうなひとが苦手なのだった。どっちかというと口数が少なくてもやさしく、穏やかに笑ってくれるひとのほうがいい。


しかし悲しいことに、わたしは彼に惚れてしまったのだった。人生どう転ぶか本当にわからないものである。

ささいなことだ。連日の怒涛のレポート提出ラッシュからようやく抜け出し、研究室でラスト一本をバチバチやっていると、背後から「おい」という声がした。びっくりして振り返るとそこには錦戸亮ご本人が仁王立ちである。あれっ今までいたっけ?気配感じなかったんですけど???


「な、なんでしょうか・・・」
、ここんとこずっと遅くまで残ってるやろ。目のとこ、クマできてんで」


まじか。一目見てわかるくらいひどい顔してんのかわたし。化粧いつもより気合入れてやったつもりだったのだけれどだめだったらしい。まぁわたしがいけないんですけどね。さっさと出してしまえば、こんな締め切りギリギリになって苦しむことはなかったのだ。自業自得である。


「ひっどい顔やぞ。・・・・・・これ、間違って買うたから、やるわ」


栄養ドリンクだった。結構高いのに、間違えて買ってしまったとはつらすぎる。
普通になんだか申し訳ないというか可哀そうな気持ちになった。そうだ、今度その欲しかったであろう物をお礼としてお返ししようか。研究室内であれば、余計な目にも触れることはないだろう。


「あ、ありがとうございます。・・・えーと、一体何と間違われたんです?」


顔色を伺いながら尋ねると、錦戸氏は一瞬だけカッと見間違えかというぐらい頬を染めた。えっそっちの色を伺うつもりじゃなかったんですけど。えっ???
混乱にわたしが瞬きをしている間に彼はバッッと効果音が聞こえそうなくらいの速度で背を向け、出入り口の方にさっさと踵を返しながら言った。


「どっどうでもええやろそんなん!!いらんこと言わんともらっとけや!!!」


バン!と音を立てて錦戸氏は出て行く。
ここまではまだ、彼に対するちょっとした恐怖感みたいなものが消えていなかった。そしてそれを塗り替えるような気持ちを抱くなんて思ってもいなかったのだ。ドアが閉まっていく隙間から、彼の赤みの残る耳を目にしてしまうまで。


そして後日、わたしはばったり遭遇した錦戸氏の友人ズから彼の怒鳴りは照れ隠しであること、モテてはいるのだが女慣れしていないために扱い方もあしらい方もわかっていないということを知るのである。








N氏について





(20150511)