※兄妹の境界をほんのり越えちゃってますので苦手な方はご注意ください 新聞の朝刊に挟まっていた広告の中に、「バスで行くなんとかツアー」なるものが一覧になって載っているものがあった。そういえば、たしかに蝉はもう鳴いてはいないし、暦上は秋だ。 庭の秋桜が、しっとりと佇んでいる。 いろいろと各業者がプランを練っているものなのだなぁ、と感心しながらじっくりと見ていると、背後から声がかかった。 「ずいぶんと熱心ですね。なにを見ているんです?」 どうぞ、と卓に運んできた湯飲みをゆっくりとわたしにすすめながら、菊が興味深そうにたずねる。 「あ、いただきます。これですか?バス旅行とかそういうものの広告みたいで」 広げて手渡すと、へぇ、と菊は神妙に頷いた。お出かけしやすい季節になってきましたもんねぇ。涼しくなって。お茶をすすりながら菊は言う。わたしもお茶をのみこみながらええ、と答えた。 「どこか、行きたいですね。ふたりで」 「そうですね。これなんてどうです?日帰り…はわたしたちにはできないと思いますけど、ちょっと足をのばして、京都とか」 指し示しつつ見上げると、ねぇ、、と独り言のように名前を呼ばれたので、はて、と目線だけでそれに答える。ぶつかったのは、物足りないような、どこか遠くを見るような視線だった。吸い込まれそうな漆黒の檻。わたしはそらさない。 そんな兄を受け入れることを、わたしは望んだのだ。 。指を絡ませながら菊は続ける。持っていた湯飲みのせいか、そこからはじんわりあたたかさが伝わってくる。 「それもよいですが、もっと遠くへ…行きたいですねぇ」 「遠く…ですか?」 「はい。誰にも邪魔されないところ、ですよ」 囁かれる耳の裏で、わたしだけが知っている兄を感じる。 逃れられない現実も。 「ふふ…ええ、わたしも行きたいです――兄さま」 たわごとあそび
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