菊さんの手はとてもなめらかで、でも骨っぽかった。 触れながらあらためて思う。わたしの左の手を、すっぽりとおおうように握るそれは、男のひとの手だ。 そして、その手はすこし、ほんのわずかに、ふるえている。 「――さん、」 肩から、首にかけて。握られていないほうの手で脈をさがすように触れてみると、見た目よりも菊さんの肩はしっかりとしていることがわかった。 着物を着ていると、華奢にみえるのかもしれない。ああ、直接ふれられたらいいのに。いつか、ゆるしてくれるかな。 わたしの右の手が菊さんのくびすじにたどりつくと、菊さんの瞳が、ゆれた。 「すきです、すきです、」 すみません、と、ささやきがくりかえしくりかえし耳のうえからふりそそぐ腕のなか、わたしは菊さんの脈打つ胸の音をはじめて間近できいていた。とても情熱的な音。 かきいだかれる、という感覚をはじめて知った。背中にきつく、きつく、まわされた菊さんのしなやかな両の うで。 ――いとしい、いとおしい、 「、きく 」 ちいさくつぶやくと、キスをされた。 わたしは泣いてしまう。どうしてかそれは、とても神聖なものに思えたから。――誓いのように。 頭のてっぺんに、菊さんの唇を感じる。 そう、このときに、きっとわたしの運命は決まっていた。 脈打つ熱情
|