すう、と息をする。ふりそそいでくる陽のやわらかなにおい。 ごろりと横向きになると、わたしのからだに陽の光がとけてすいこまれていくような感じがする。 わたしはこのときがすきだ。心をぜんぶ、あずけてしまえる。いつも。 ああ、春だなあ。 「さん?」 「菊」 菊が近づいてきて、ねころがるわたしのとなりに腰をおろした。 下から眺めていると、菊のすだれまつげはとっても長いことがわかる。女の子みたい。 「わたし、春のこの時間、すごくすきなの。あったかくて、きもちいい」 「そうですね、日当たりがちょうどいい」 菊が庭をみて、やわらかく目を細める。 するときゅうん、と鳴き声がした。ぽちくんが走ってきて、菊のひざのうえにおさまる。菊はさほど気にせず、さっきからそこにぽちくんがいたみたいに自然に、ぽちくんをなではじめた。 くうん。ぽちくんが鳴く。きもちよさそう。 見ているとわたしはなんだかうらやましくなってしまって、菊のひざに手をのばしからだをよせた。 ふわり。 菊のにおいがする。わたしのいちばん、安心するにおい。 「あまえてるんですか」 「…うーん?」 「やきもちをやかれてしまったようですねえ、ぽちくん」 今度はその手が私をなでる。 ぽちくんは菊のひざをおりて、菊にからだをよせてまるまるわたしのおなかのあたりに落ち着いた。 ち、ちょっとくすぐったい…けど、あったかい。ぽちくん毛がふさふさだあ。ぎゅう、と抱きしめてみる。 きもちいいーとほんわかしていると、ぽちくんがきゃわん、と鳴いた。ふわふわー…。ふわー…。 「………ふあ……」 「ふふ、眠くなってしまいましたか?でも風邪をひいてはいけませんし、上に掛けるもの…」 「ううん、このままでいいの…ぽちくんであったかいもん」 腰を浮かしかけた菊を止めるように、その袂をちょっとひっぱる。 それを菊は予想してなかったみたいで、わ、と言いながらわたしのとなりにひざをついた。 胸にぽちくん、となりには菊。さいこうの環境だあ。 「おやすみー…」 目をつぶる。ああ、ぬくぬくで、しあわせで、すごく眠い。 「……、……」 そのとき、ちいさな声で、菊がなにか言った――気が、 * よっぽど眠かったのでしょうか、さんはもう夢のなかのようです。 きれいだな、と思った。やすらかな寝顔。 それがとても、美しかったので。 ――ひみつですからね、ぽちくん 寝息をたてるさんの頬に、そっと。 ――ちゅ 鼻先をくすぐる愛
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