わたしはすごく消しカスを出す奴だ。
休み時間はまず机の隅に集めておいたそれらをゴミ箱に捨てにいく。忘れて友だちとお喋りに興じてしまうと、つぎの授業がたいへんなことになる。教科書に消しカスがぺったりついてたり、ノートにはさまってたりするのだ。それにすぐ気づけばいいが、後日気づいたときのテンションの下がり具合が半端ないので、極力わたしはそんなことにならないように最善を尽くすのである。
幸いにしてわたしは現在ゴミ箱にさっと行ける、一番うしろの席だ。








ある日ゴミ箱に持っていくとでっかい障壁がいた。


「・・・」


この緑の髪のでかいのは緑間くんだな。
ゴミ箱なんかの前に立ってなにしてるんだろう。


「ちょいちょい緑間くん」
「、ああか。なんだ」


緑間くんは非常に非常にでっかいので、ちっさいわたしには気軽に肩を叩くなんてのは不可能だ。仕方ないので、立っている彼に話しかけるときは、学ランの裾を伸びない程度に引っ張らせていただくことにしている。


「なんだじゃないよ緑間くん。消しカス捨てたいからちょっとそこいいかな」
「ああ、すまない」


わきによけてくれたが席に戻る気はないようである。そんなにこの青いゴミ箱に執着があるのだろうか。ぱっぱっと掌をたたいてほろう。
気になったので聞こう。


「そんなにこれ、見てて楽しいの?」
「いや、そういうわけではないのだよ。・・・き、今日のラッキーアイテムが、その」
「これなの?わーゴミ箱って・・・苦労するね・・・持ちにくいなぁ・・・っていうかどんなアイテムでも忠実に従うんだね、えらいわ・・・わたしだったら諦めるよ、それか別のチャンネルで見たのにする」


わたしの場合はいつも見てはいないしね。習慣はこの消しカス捨てくらいだからね。


「人事を尽くさねばならんからな」
「いいねぇ。わたし緑間くんのそういうとこいいと思うよ」


言うと緑間くんがめがねを押し上げた。がらがらと戸が開く音がする。予鈴本鈴鳴ってたっけ?


「先生来たね」
「ああ」
「いつチャイム鳴ったんだろうね、ぜんぜん聞こえなかったや。緑間くん楽しいから」
「俺も気づかなかったのだよ。・・・とだからと思う」
「はは、緑間くんもそういうこと言うんだーうれしいな!じゃねー」
「…世辞などでは、ないのだよ…」


返事のかわりに緑間くんはこくり、と首を縦に振る。唇がかすかに動いた気がしたが、ひとりごとだろうな、と思う。机はきれいになったし、緑間くんとも喋った。わたしの友だちはみんな緑間くんは近寄り難いっていうけど、わたしはそんなことないんじゃないかなって思う。さっきもそうだったけど、話しかけたら、こたえてくれるよ。





席に戻ると高尾が振り向く。言うまでもなくにやにやしている。俺のひとり言が聞こえていたのだろう。地獄耳か。


「なんなのだよ。言いたいことがあるなら言え高尾」
「いいのーー言って?ケナゲだなぁと思ってさ、真ちゃんが」
「その笑いをやめるのだよ」
「だって〜。真ちゃん今日のラッキーアイテムってさぁ」


俺とて。
俺とて、とっさに口をついて出たひとことを、に何の疑いもなく信じてもらえるなどとは思っていなかったのだよ。











消しカス捨てよう








(真ちゃんの片思い / 121230 あい子)