と別れてすぐのことだった。
この年代で、俺に言い寄ってくる女の子ならば特にそんなに変わることもないだろう。もちろんみんな可愛いし、やわらかくていい香りがする。そのあと今の子と付き合い始めたのもそんな気持ちからだった。



――ねえ黄瀬くん、どうして抱きしめてくれないの。


だからそう言われたとき驚いた。
あれ、と思う。俺、もしかすると、この子にたいして触れてすらない?


――そんなこと、ないっスよ?ほら、来てくださいっス


手招きすると彼女はふふ、と笑って、俺の頭を抱え込むようにして抱きついてきた。

ああそういえば、は相当な恥ずかしがり屋で、おいでとかなんとか言ったところで自分からこっちには来もしなかったんだよなぁ、ということを思い出す。仕方ないので、俺からいつも抱き寄せた。はじめはがそうしたいと思わないならいいやと思って、そうする必要も感じてなかったのだけれど、いつからか、俺からするようになっていた。そうしたくなっていたのだ。腕の中のやわらかな身体に力をこめると、おずおずと抱きしめ返してくる手。慣れてくると、安心して俺に委ねるようになったあたたかい身体。
俺が、
寂しかったから。
恋しかったからか。


彼女の甘ったるい香り。
――ちがう。そうだ。そりゃ、そうだ。みんなおんなじなんてウソだ。そんなわけはない。思いたかっただけだ。紛らわせたかっただけ。女の子に困ることはない。なのに俺が放っておけば考えているのはのことだ。


この匂いじゃない。
欲しい、きっとずっと欲しくてたまらなかったのだろう。今も。
視界を包む女の子らしい丸みのある腕にまで、ちっとも心動かされない自分に気づいて俺はこっそりと息を吐いた。





sepia





(20150511)