あ、消しゴムとんだ。
角が取れてしまってまんまるくなってしまったわたしの消しゴムは、ころころころころ床をはしり、かつん、とだれかの席の椅子の足にぶつかって止まった。良かった遠くない。音をたてないように、腰を低くして消しゴムを拾う。
「ねー」
消しゴムの着地地点であるわたしのななめうしろの席の主の脚がしゃべった。誰だっけかと考えていると、その主がわたしに合わせるように腰を屈めた。金髪。黄瀬くんだ。
ごめんねじゃまして、と言うと彼はぜんぜんっスよ、と言った。
「ツいてるなって思ったくらいっス!」
「どこが?」
授業中で、静かにしなくちゃいけなくて、なのに気を散らせてしまったわたしになぜにツいてると言えるのだろう。以前から黄瀬くんはその明るい髪色といい片耳のリングピアス?といいわたしとしては遠くから見ていたいなという印象が強い男子だ。バスケ部で、モデルもやっているというタフさは尊敬するが。わたしだったら間違いなくバテるだろう。中学の時兼部したことあるけど一年で辞めたし。
「あんまり俺、さんと話したことないなって思ってて。なんかないかなーって考えてたら俺んとこにそれ、転がってきたんスよ!さんこっち向いたから、さんのなんだやったね!って」
「たしかに話してなかったね。まぁそんな関わりないしね」
「つめたいっスーーでもイイ!新鮮!俺クールな女の子って話したことない!」
「ああそう・・・変わってるんだね黄瀬くんは・・・」
相づちを打っているだけでも会話がすすむ。ようしゃべるな、と半ば脱力しつつ黄瀬くんを眺めるとにっかりされた。輝いている。世の中の女子はこういうのにやられるんだな。実際に自分にやられると確かにすげえ。
「でさーさんさん!」
「そっそうかい、えーと黄瀬くんそろそろやばいんじゃ」
「よく察したな。黄瀬、そうか当てられたいんだなさあ前に出て宿題にした問からやってもらおうか」
「先生!!?俺だけっスかー!?」
お前が話しかけまくってが聞いてやってるって構図がみえみえだったからな。そして黄瀬お前は寝てるがはいつも授業態度には申し分ない。日ごろの態度がものをいうな!先生がはっはっはと黄瀬くんの背中を叩きながら言って、わたしにはおつかれさん、、と労わってくれた。当てられるかと思った。ありがとうございます。黄瀬くんは涙目。
これに懲りたらわたしと話したいなどとは思いつくことはないだろう。
意外と、おもしろい子だと思ったことは胸に秘めておこうか。
消しゴム落ちた
(/121229 あい子)
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