見慣れない校舎と、風景。
「へーえ、ここが並中かあ」
門から一歩、敷地内に入る。
校舎の周りには桜の木がたくさんあって、すごく感じがいい。前いた学校にも、古ぼけた桜の木が植えられていたからすごく気に入っていた。
俺は、桜の木がすきだ。
風が吹いて、スカートを翻す。前の学校の制服だけど。まだ、この新しい学校――並盛中学の制服は、届いていないのだ。
テンコウセイ、ってやつ。並盛町に越してきた俺は今日から、並中の生徒になる。
「んー、はりきってはやく着きすぎちまったかな。まだ先生に呼ばれてた時間まであるし…ちょっと散策してみっかー」
肩にしょっている木刀の袋の口をしめる。俺の実家は道場で、俺は3兄妹の真ん中だったから、俺が木刀を手にすることは必然といってよかった。何せ、赤んぼのころから俺は母ちゃんといっしょに父ちゃんとにーちゃんが鍛錬するのを見ていたのだ。父と、兄と、そして俺のちょっとだけあとに生まれて、すぐにすくすく育っちまった(たぶんすぐに俺の身長なんてこえてしまうだろう)弟と。鍛錬する日々は俺の宝物だ。こっちに越してきても、父ちゃんは教室みたいのをやると言っていたけど、すごくうれしい。引っ越したらおわりなんて、いやだし、俺は父ちゃんが稽古する姿を見るのがすきなのだ。ちいさいころからの、あこがれ。
「けっこう、きれいな校舎だよな、並中って」
――と、いろいろと回想しながら校舎内を探索しているうちに、ひと部屋、なんだかいい雰囲気の場所を見つけた。おおおなんか扉からして立派じゃん!かっけー!!
「んーと、なんだ?ここ…おお、えー、『 応接室 』」
…なんかあれだよな、お偉いさんとか親とかを接待する部屋だよなたぶん!扉を押しあけて、中へ。
目についたのは、観葉植物。マイナスイオンってやつかな!そして、黒い、革張りのソファーと、丈夫そうなローテーブル。すごいリラックススペースじゃんここ!転校早々いい部屋めっけー!俺ってついてる!!
「ふかふかだー」
手でソファーの座り心地を確かめてみると、見た目通り、抜群だった。いいなこれ!並中すごっ!
しっかし、名残惜しいけど、いまここでくつろいでいくのは、やめておこうと思った。あとちょっとで、俺の転入するクラスの担任のところへ行かなくてはいけない。
重装備(なんてーか、ドアノブが重い)したようなドアの、ドアノブをにぎって、まわす、「!?誰だお前!そこの女!」、なっ…そっちこそだぞ!?
「えっ俺は今日からここの生徒の、ってーんだけど…あ、制服がちがうのはまだ越してきたばっかで、買えてねーからで!」
ドアノブをまわしてあけると、出てきたのは廊下じゃなくて学ラン(あれ並中って制服2種類あんのかな?)を揃いもそろって全員身に纏い、頭をリーゼントに整えた、――ひとを見た目で判断するのはよくないんだけど――そのまんま言うと不良のにおいがぷんぷんな男子生徒たちだった。
俺のこと、見た瞬間にものすごく不審がられから俺もちょっとびっくりしちまったけど、それはもしかしたら俺の、このあたりでは見たことのない制服のせいなのかもしれないと俺は思ったので、とりあえず弁解してみた。たしかに強面だけど、話が通じないほどおかしなやつらではないんじゃないかなあと思った。とくに最初に俺を見ておどろいて声をかけてきた、この草をなぜか銜えているリーゼントは。
「そうか。……ならば仕方ないか――では忠告をしておこう。ここは、応接室。風紀委員の使用教室――いや、(…ほとんどは)委員長の部屋なのだ。つまり、おまえがいていいところではない」
そいつは器用に草をくわえたまま、そう言った。話し方は冷静で、やっぱり、見た目以外は至極まともなやつだった。
けど…なんで、応接室が風紀委員長ってやつの部屋なの?
「あんたの言うことはわかるよ。でも、納得はできないなあ。ふつーはなに委員だって、たいていはこんな立派なとこ、使えないだろ!おかしくないか?風紀委員会だけ、こういう特別なのはさ」
「…しかし、」苦しげに眉間にしわをよせて、俺の質問に草のリーゼントが答えようとすると、「おい女ぁ!早く出てけって言ってんだろうが!ここは風紀委員が取り締まってるっつってんだろ!!」と、別のリーゼントが口をはさんできた。んん、こいつはちょっと話が通じないかもしんない。
「あーもう、風紀委員だから、っていう理由がよくわかんねーんだってば!教えてくれりゃ、俺だって――」
なんだか俺までいらいら。ちょっと乱暴な言い草になりながらその別のリーゼント、めんどーだからリーゼント2でいいや、そいつに返すと、「…っるせんだよ!!」と声を荒げて、おどろいたことに俺におそいかかってきた。おーいおい。
俺だから、まだいいけどさあ。
「おい!やめろ!こいつは一応女子だぞ!」とそいつに叫ぶ草のリーゼント。しかしリーゼント2は聞く耳もたず。「黙れ女ぁ!!!」まこと、草のリーゼントの言うとおりだと俺も思う。いくらなんでも、すぐに女に手をあげるのはどーよ。リーゼント2よ。
俺はもう仕方ないなあと思った。一応女子だけど。聞こえないならばなにを言ったってしょうがねえ。肩にしょっている袋の口を勢いよく引っ張った。
「…!!?」「なっ」
俺は木刀をふるった。おどろく草のリーゼントと、ふっとぶリーゼント2。そして目をまるくしながら観葉植物の鉢にぶつかると、すぐにのびてしまった。わー…、運悪いなあ。あれ痛そうだまじめに。
「っなにしやがるこのアマああ!!」「おいっおまえらっ」
俺がちょっとリーゼント2をかわいそうだなあなんて思っていると、あいかわらず草のリーゼントは待ったをかけているのに、リーゼントその他大勢はもうそんなことおかまいなし。なんか、塊になって殴りかかってきた。こりゃだめだ!
「だーから、草のリーゼントも言ってんじゃねえか!!女子に手ぇ出すのはサイテーだ!!お前らは一回、反省しやがれっ!!」
ごめん草のリーゼント!俺制御がきかねええ
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死屍累々。
「…あ、やべ……(やっちまったーーー)」
やっとのことで正気に戻ったら、もうそこには草のリーゼントと俺しか普通に直立している人間はいなかった。…俺、もっと精神的に安定しねーとまずいなあ。父ちゃんこっちでも教室開くことになってまじでよかった。草のリーゼントはあっけにとられてかたまっている。
とりあえず、床に積み重なっちまったやつらの手当て、してやんねーと!
「えっと…、ごめん。こいつらけがしちまってるだろうから手当してーんだけど、救急箱とか、保健室ってどこかな」
おそるおそる草のリーゼントに話しかけると、「……!、ああ、」
「――――――――――――――――――――――――――君、なにしてるの」
「…!、!!」草のリーゼントが答える前に別のひとがまた答えてしまった。そして草のリーゼントはなんでかおどろきすぎて、もういちどかたまってしまった。 ??
「俺?」
答えて、よくよくそいつを見てみる。あっこいつも学ラン着てる(リーゼントじゃないけど)。なるほど!
「悪い!ちゃんと話し合いですませよーと思ってたんだけど、そうもいかなくて、けっきょくやり合いになっちまってさ――つい、相手しちゃったんだ。あんた、こいつらと、草のリーゼントとおんなじかっこしてるってことは、仲間っつーか、風紀委員会のひとなんだよな?だったらほんとごめん。こんな、のばしちまうつもりはなかったんだけど」
俺はそう言って平謝り。俺がたたきのめすべきは、最初のひとりだけだったし、そいつだって、のばしきっちまうまでしなくてもよかったのだ。俺のコントロールが悪くて、観葉植物の鉢にあいつがアンラッキーなことにぶつかっちまったことがきっかけで、リーゼントその他大勢が襲いかかってくることになったんだし。だいぶ俺だってわるい。
すると目の前の、切れ長の目をした(きれーな顔!)男子生徒はなぜか、興味がなさそうな顔をしてから、
「ふうん……まあ 別にいいよ、そんなこと。それより」
と言うと、ぎらり、と目を光らせて、
「えっいいの!?」
俺が聞き返すと、
すこしだけたのしそうに、口のはしをもちあげた。
「…っ!!?」
そして、とっさのことだった。ぎりぎり。俺は木刀で、かろうじて、受けていた。
目の前の人物からの、攻撃を。
俺は一瞬、なにをされたかわからなかった。えええ意味不明!
「あんた…っ!――いや、あんたも…!?(どーなってんだよ風紀委員会って!)」
「( …ワオ)君を咬み殺せれば、ね」
俺は金属の短い棒を2本、木刀で受けていたみたいだった。わけのわからんことをつぶやかれて、茫然としていると、こいつのうしろで、やっと金縛りが解けたように、草のリーゼントが、「い、委員長…!!」と言う。
……は!?
開幕戦
(03/24,2011 Written by Aiko.//いつのだよ!!って感じのリクエスト企画…フィニッシュ!!!!リクエストくださった沙梨さん、ありがとうございました!一人称俺のヒロインってはじめてでたのしかったですー!はっしかしリクエストは風紀委員(全員)メッタ打ち…のはずが草壁さんだけ生き残ってしまいました…すみません…orz)
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