先生の、黒目がちな瞳がとてもすきだ。
底のないような漆黒を、覗きこみたくなるのだ。
「こら、集中切れてますよ、さん」
「うぅ」
でもそうするとすぐに気づかれてしまうから困る。教科書読んでてくださいってお願いしましたよね、と先生は穏やかにわたしをたしなめる。
どうしてだろうか。先生はたしかに、わたしがノートに解答した問題の式を、どこがどうしてそう導けてしまうのか解明するために注意深く観察していたはずなのに。目がいろんなとこについているの?
「先生にはかないませんわあ」
「それは嬉しいですね。負け続きでは、悔しいですから」
「へ」
「――なんでもありませんよ。さ、あなたの間違いの原因がわかりましたから解説します。これは、」
負け続き?それってどういうこと?疑問はいろいろわいてきたけれど、先生の真剣な解説が始まったのでシャットアウトすることにした。
わたしは数学ができないし、嫌いだけれど、こうして先生に教えてもらうのはすきなのだ。わたしだけに話す先生の声がきけるから。近くに座る先生。伏せ目がちの瞳をふちどる長い睫毛。
私の言葉に耳を傾け、なんとか最後の一問を解こうと彼女は奮闘している。
そんな彼女がかわいくて、ふとここが教室であることを忘れそうになる。ほら。そうやって、時折私をこっそりと盗み見たつもりになって、はにかんだりするから。
あなたにはかなわないのです。キスするたび、深みに引き摺られそうで、自分を抑えるのに必死だ。だいぶ重症化しているのだろう。あなたの視線にはすぐに気がついてしまう私ですから。
しかしそれはまだ言うまい、あなたがもう少し、大人になってから。その時がきたとしても私を必要として、あなたもまた私のように、ひどく溺れてもよくなるまでは。
これは愛だとぼくだけが知ってる
(title by エナメル /拍手ありがとうございました!!)
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