誰もいないロッカールームだった。
赤司はわたしを壁に追い詰めている。ドアとロッカーの陰で、ちょうど死角になる位置だ。さすが考えている。ここならとっさに誰かが入ってきてもわたしを覆うように隠せばやりすごせるだろう。この時間じゃまずないと思うけど、警備員さんくらいしか。


冷静に状況を分析して平静を保とうとするが余裕はない。赤司がわたしにそんな猶予を与えるはずはないのだった。右をみても左をみても赤司の腕があって最終的にまた正面を見てしまう。結果赤司のペースで事が運んでゆく。





いかんと思いそむけたわたしの顎に赤司は手を添えて前を向かせる。


「赤司、赤司おねがい、やめて」
「やめない」


ポジティブに考えてもこの後のことを考えるといやな予感しかしなかった。相手は赤司なのだ。どこまでも進みかねん。なんだって赤司はわたしにこんなことをしだしたのだろう。と、いうか赤司わたしのこと女だと思ってたのか。すげえしごかれてるから他の男子部員の一部ぐらいの認識だろうとばかり思っていた。部員の一部ってなんか響きおかしいな。え、もしやわたし今日何かやらかした?でもよく気がつく玲央ちゃん先輩にだって注意されなかった。ドッキリなのか?でも赤司がのるのか?


赤司のドアップが目前に迫っていた。


「あ、赤司!」


目標一直線の赤司の気をそらせようとじたばたするが、それもできなくなった。
赤司はわたしを囲み器用にわたしの手首をぎりぎりと押さえつけながら、唇の近くにキスを落としてきたからだった。


そんなにやさしいキスが、できるのに。


「お前だって、僕に奪われたいと思っているんだろう?」


一言もわたしは自らを捧げるだなんて赤司に言った覚えはないよ。そう言いたいが手首に加えられている力は強くなる。うあっ、と痛くて目を瞑ったらそのまぶたにキスをされた。音をたてて、触れるだけの。
ねぇちぐはぐだよ、赤司。











鮮やかな誘惑








(title by capriccio)(20130111)