アッチモ コッチモ コピーダラケ♪
オリジナリティ ナイ ナイ…
プチッ
オーディオの電源を落す。
四人囃子フリークの女友達からCDを借りて部屋で聴いていたが、他の人には意味のない言葉の羅列にしか聞こえない他愛もない歌詞が僕を憂鬱にする。
「行ってきまーす」
『妹』が何処かに出掛ける。行き先を尋ねるなんて野暮なマネはしない。多分、彼氏と一緒なのだろう。少なくとも、既に『女の子』を卒業している事は確実だ。オンナの匂いが感じられる。
彼女がいなくなると、家には僕1人。何もする事がないので、本棚の下の段で埃を被っている百科事典のうちの一冊を無作為に選び出し、何も考えずに中を開く。そこにあったのはゴーギャンの代表作。
『我々は何処から来たのか? 我々は何者か? 我々は何処へ行くのか?』
……大凶を引き当てたような気分だ。
僕にとって最も憂鬱な哲学的命題。僕の在る意味。その解答は1つしかない。
一流には少し及ばない高校を卒業し、一流には少し及ばない大学に進学し、不可も優も良もない凡庸な成績で4年を全うし、そして、一流には少し及ばない会社に就職する。これが僕の当面の人生設計。そのうち半分は既にクリア済みだ。
「当面」と形容したが、僕にはその先はないだろうから形容としては不正確。
いや、そもそも僕の人生ではないのだ。これは、『彼』のために用意した人生。
そんな僕が自分自身の生を堪能できるのはオンナを味わう時だけ。
「今日はいつもより激しかったわね。何か嫌な事があったの?」
「いや別に……。ごめんね、僕ばっか満足したみたいで」
「いいのよ、こういうのも悪くないから。でも、2回目からはいつも通り優しく…ね?」
「うん」
僕は、今夜の相手の脚を再び全開にする。
そして彼女の中心部を視姦しつつ愛撫し、望むがままに中を掻き回すのだ。
………。
……。
…。
「それにしても、中に出すの好きよねー。デキちゃったら責任取ってよねっ」
「大丈夫。僕って種ナシだから」
「ホントかしらー」
本当である。精子など1匹も泳いでなんかいない。
「じゃあ今日はもう帰るね」
「泊ってけばいいのに…」
「明日は1限にゼミがあるんだ」
「ちぇ、残念…」
パタン。
彼女の住むマンションを出る。
擬音にならないスクーターのエンジン音が真夜中の静寂を切り裂く。
真夜中という名の虚無に、僕は独り。
キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン
ゼミが終った。隣の席の悪友が馴れ馴れしく話し掛けてくる。
「須羽、お前も今日は授業もうないだろ? だったら、これから一緒にナンパでも」
「悪い。今日はこれから大事な用事があるんだ」
「また女か? 俺にも少し分けてくれよ」
「そんな用事じゃないよ」
「嘘吐け。俺が知ってるだけで3人もいるじゃないか」
「だから、今日は本当に違うんだってばぁ」
「まぁ、どっちでもいいけどな。それにしてもお前、本当にモテるよなぁ」
「君みたいにガツガツしてないからだよ」
「納得いかんぞ! 金も容姿も頭の中身も大差ないのに、この違いは何だっ!」
「じゃ、お先にー」
「何で世の中は不公平で満ち溢れているんだぁぁぁっ!!!」
不公平? 自分に正直に生きられる癖に贅沢言わないでよ。
僕には自分の人生なんて存在しないんだから。
動物園。チンパンジーの檻の前で僕は佇む。
『彼』の1番の親友は、ここにはもういない。
風の噂では、もう既に子供がいると聞いているけど……。
「待った?」
「いや、時間通り」
ブラウン管に映らない日はない彼女が僕の目の前に。
謎の男と密会……となれば、ゴシップジャーナリストが見逃す訳がないのだが、
「『彼』はまだなのね?」
「うん」
「それじゃ…」
正味30秒の白昼のランデブーでは捏造記事すら作れない。
彼女はそのまま、自分の世界へと戻って行く。
彼女の視線は、『僕ではない彼』がいると思われる方向へと終始向けられていた。
僕にとって、1ヶ月のうちで最も辛い時間である。
何で、『僕』は存在するんだろう?
『彼』の身代りでしかないのなら、『僕』という自我は必要ないじゃないか。
ミツ夫君、早く帰って来てよ。
お願いだよ……。
そして、僕は今夜も『彼』に復讐をする。
「今日はお口で我慢してくれる? その代わり、今度会う時は必ず…」
「うん、いいよ」
また1人、モノにした。これで19人目。
帰って来て、おでこをくっ付けた時の『彼』の表情が見ものだ。
「いっぱい、出たね…」
「じゃあ、僕もお返ししないとね♪」
「えっ!? それもしかして挿れるのっ!?」
「勿論だよ。そのために作られた道具なんだから」
「お、お手柔らかに…(汗)」
僕は、『彼』のために存在する道具だ。
でも、この程度のしっぺ返しは許されてもいいだろう。
「す、凄かったぁ…」
「大丈夫? ごめん、ちょっとやり過ぎた」
「いいの……気持ち良かったから許してあげる…」
一応、『遊び』だと前置きはしてあるけど、そのうち何人かは本気になったとしても不思議じゃない。別に僕は困らないけど……。
「もしかしたら本気になっちゃうかもしれないけど、その時は宜しくねっ♪」
「ははは…」
『彼』はどうかな? 僕のように要領良く立ち回れるだろうか?
「実は、こんな物も用意してるんだけど」
「えっ!? 縄って、もしかして」
「安心して。ムチやロウソクは用意してないから」
「安心できる訳ないでしょ!!」
「経験も豊富だし」
「関係ないわよ!」
もっとも、僕と『彼』が入れ替わったら、関係は長続きしないだろうね。絶対僕よりもヘタクソだから。所詮は身体で結ばれた関係。
「どう? 縛られるのも悪くないでしょ♪」
「もう、普通の女には戻れないのかしら…」
それにしても、本当に早く戻って来て欲しいよ。もういい加減飽きてきた。
早く、普通のコピーロボットに戻りたい……。
『……次は芸能ニュースです。星野スミレは落目ドジ郎との交際を完全否定…』
彼女だって、絶対に心変わりしないとは断言できないんだからさ。
後悔しても、知らないよ?
[平成16年10月21日更新]