唐巣神父が、横島とタイガーを緊急召集した。

「諸君、大変な事態が起きてしまった」
「一体何なんですジャ」
「まぁ、少なくとも人類の危機という程の事じゃないだろ。な、ピート」
「………」
「せいぜい、この教会が存続の危機に晒されてるとゆー程度の事ジャろ」
「それはいつもの事だろーが」
「そんな個人のレベルに留まる話じゃない。多くの人の身体の危険がかかっているんだ」
「またまた、大げさな…」
「とにかく私の話を聞いてくれ。この件に限っては、恐らく君らでなければ問題の深刻さが理解できないだろう」

そう言うと、神父は一冊の雑誌を取り出した。

「えーと、『あなたの○ッパイ見せてくれませんか?』」
「横島君、お約束のボケは止めてくれ。そこじゃない。折り目を付けてあるページだ」

そこを開くと、ピートの特集記事が掲載されていた。

「けっ、これだから美形は…」
「しかもグラビアで4ページ…」
「2人とも、そんな目で見ないで下さいよぁ〜っ。僕だって、好きで取材を受けた訳じゃないんですから」
「あの取材はGS協会のお偉方がセッティングしたから我々の一存で断る訳にはいかなくてね。で、肝心なのはこの部分だ」

神父が指差した部分。そこには、

『―――彼は現在、通っている高校で除霊委員なるものを務めている。エピソードを1つ紹介しよう。音楽室に学校妖怪が現れた時の話だ。その妖怪は決して邪悪ではなかったが、人の迷惑省みずピアノを弾きまくっていた。説得しようとしたが全く聞く耳を持たなかったので、彼はピアノを演奏する事でその妖怪を平和裏に撃退した―――』

とあった。

「おい、これじゃお前1人で事件を解決したように聞こえるじゃねーか」
「だから記事書いたのは僕じゃないですってばぁ…」
「事実誤認がその程度で済めば良かったんだけどね。もう1度よく読んでみたまえ。肝心な事実が抜けてる事に気が付かないか?」
「肝心な事実?」
「一体何が抜けてるんジャ?」
「ピート君のピアノの腕前だよ」

ピキッ。

2人の顔が凍り付いた。
どうやら、彼らにも事態の深刻さが理解できたようだ。

「もしかして、アレですか」
「そう、アレだ」

神父は一旦深呼吸をし、恐怖の宣告をした。

「GS協会主催で、ピート君のピアノリサイタルを開く事になった」



という訳で、秘密会議が始まった。
なお、秘密を洩らした者が秘密裏に殺されるかどうかは、定かではない。

「中止、という選択肢はなかったんすか?」
「お偉方はピート君の演奏を聞いてないからねぇ……口で言っても理解できるかどうか。仮に彼らを説得できたとしても、チケットは全て完売してるんだ。その時点で中止を発表したら、ファンの娘達がどう暴走するか見当もつかない」
「確かに、あの手の連中は始末に悪いからな…」
「中止に踏み切れなかった理由がもう1つある」
「何ですか?」
「エミ君とアン君がチケットを入手してたんだ」
「………」
「とにかく、リサイタルは予定通り開催する。しかし、ピート君の演奏は決して聴かせない。対策はこれに尽きる」
「しかし、どうやってそれを実現すればいいんジャ…」
「そんなの簡単だろ。演奏は別の人間が行えばいいんだよ」
「それは私も考えた。ただ、肝心の替え玉がいないんだ。謝礼を支払う金はないし」
「リサイタルの収益は?」
「無論、慈善事業に全額寄付だ」
「神父サンが代わりに演奏すれば済む事ジャ…」
「来賓席で協会役員の相手をしなければならないんだ」
「しょうがない。俺が一肌脱いでやるか」
「横島サンがピアノ演奏できたとは初耳ジャ」
「何だその目は? 信じてないなら、証拠を見せてやる」

そう言うと、横島は教会のオルガンの前に腰掛ける。



「まずは、小手調べ」

シコ踏んじゃった♪ シコ踏んじゃった♪



「次は、『トッカータとフーガ』」

ちゃらりぃ〜♪ ちゃらりらりぃ〜らぁ〜♪



「極め付けは、これ」

め〜りさんのひ・つ・じ♪  めぇ〜めぇ〜ひ・つ・じ♪
じ〜んせ〜いら・く・あ〜りゃく〜もあ〜るさ〜♪




右手が『メリーさん』で左手が『黄門様』。この技を見せ付けられては、タイガーは沈黙する以外にない。無論、神父にも反対する理由はないので、会議は結論がまとまり、めでたく終了。
ちなみに、一言も発言のなかったピートは

「どうせ僕なんて……僕なんて…」

教会の片隅でイジけていた。










そして、リサイタル当日。

「……何でおたくと隣なワケ?」
「それは私の台詞です」
「ま、いいわ。折角のピートの晴れ姿をおたく1人のために台無しにしようとは思わないし」
「とりあえず、会場を出るまでは休戦としましょうか」
「えっと、曲目は……『モーツァルト・メドレー』とだけ書いてあるわね」
「さすがお兄様☆ 私と趣味が合いますわ」
「……勝手に言ってなさい」



「……という訳だから、お前はピアノを弾く演技だけしてろ。オーバーアクションも交えてな」
「ぶっつけ本番ですけど、本当にいいんですか? それに万一、僕のピアノから音が出たら」
「弦を全部外した上に、中に布団を入れてあるんだ。ピアノの音なんか出る訳がない」
「そろそろ開演の時間ですジャ。2人ともスタンバイを」
「分った」
「すぐ行きます」

横島は、舞台裏に隠されたもう一台のピアノへと向かう。
ピートは壇上へ。
タイガーは、精神感応で横島とピートの意識をシンクロさせる。これで、替え玉がバレる可能性はない。



演奏が始まった。















と〜れとれ♪ ピ〜チピチ♪ かに料理〜♪

ズルッ!!!

エミを含む観客の半数はズッコケた。
アンを含む観客のもう半数は、ただ呆然とするばかりである。
そして唐巣神父は……言わぬが花。





横島忠夫。
生粋の関西人である彼にとって、モーツァルトとは
『浪花のモーツァルト』キダ・タ○ーの事であった…。


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[平成16年9月22日更新]