パピリオに無理矢理女湯に連れ込まれた俺は……
「脱ぎ脱ぎするでちゅ〜☆」
まるで、お人形さんのように……
「キレイキレイするでちゅ〜☆」
……これ以上の描写は勘弁してくれや。あとは脳内で各自補完してくれ。
わんっ! 〜輝く季節へ
第5話
「ふぅ…」
「極楽、極楽でちゅ〜」
世俗の垢を洗い流し、スッキリした所で湯槽に浸かる。
「これでキレイなね〜ちゃんがいれば言う事ないててててててっ!!」
「私じゃ不満でちゅか!」
ううっ、大事なトコロを抓られてしまった…。
「で、話は変わるけど、おねーさんいるか?」
「全然話変わってないでちゅよ」
「いや単に肉親がいるかどうか訊ねただけなんだけど」
「下心あるとしか思えないでちゅ」
「で、結局いるの? いないの?」
「一応いるでちゅ。なかなか会えないでちゅけど」
パピリオの顔が少し寂しげになった。
「ちなみにおねーさん、胸大きい?」
「何で私の胸見ながら聞くでちゅか!」
よしよし、こいつには愁いを帯びた笑顔は似合わない。
「やっぱ小さ過ぎて、物足りないってゆーか何とゆーか…」
「失礼でちゅ! パピリオの胸には未来があるでちゅ!」
『ルシオラちゃんみたく、もう終わってないでちゅ!』
「ルシオラ…」
「ポチ、ルシオラって」
しまった。つい口走ってしまった。
どうすればあいつの話題に持ち込めるかを散々腐心してたというのに……これじゃ、今までの苦労が水の泡だ。
「………」
マズいな。どうやら、不信感を与えてしまったみたいだ。
いざとなったら、『忘』の文珠でリセットするか?
できれば、そんな手段は使いたくないんだが……。
「……誰でちゅか?」
その必要はなかった。
パピリオに聞きたかった事。
その答えは、呆気なく返ってきた。
それも、予想を遥かに超えた最悪の形で。
「風呂上がりはリンゴジュースが1番でちゅ〜」
「………」
「何か元気ないでちゅね?」
「い、いや何でも…」
俺だけじゃない。ルシオラの記憶もこの世界から消えかかっている。
いや、ルシオラの記憶は事実上消えてるのと同じだ。
何しろ、パピリオですら覚えていないのだ。
恐らく、覚えてるのは俺1人。
「ポチ、晩ご飯でちゅよ〜☆」
「……カップ麺かよ。まあ、食えるだけマシか」
ズルズルズルズル…
「美味しいでちゅか〜☆」
「うん、美味しいという事にしておこう」
ルシオラは、俺のためにアシュタロスを裏切り、俺のために命を落した。
つまり、俺抜きでルシオラを語る事などできる筈がない。
では、俺を忘却しつつあるこの世界は、どう辻褄合わせをするのか?
俺は、その答えを知りたかった。
「今夜はもう寝るでちゅ」
「をい、まさか一緒に寝る気か?」
「もう1つ布団用意するのは面倒でちゅ」
「別に俺は布団なしでも構わないんだけど」
ルシオラごと俺を忘却。これが、この世界の下した結論。
いや……違う。これは恐らく……
『女の子の強い願望は、本当にお菓子の国を生み出してしまいました』
俺が下した結論なのだ。
『そして、女の子はこの世界からいなくなる…』
行先はお菓子の国ではなく、単なる破滅なのかもしれない。
『ま、そんなのは些細な問題だ』
『些細なのか?』
『そうさ。破滅願望そのものに比べたらな』
子供じみた叶わぬ夢と破滅願望は隣合せ……っていう事なのか?
「ムニャムニャ……ポチ…お散歩でちゅ……」
「………」
俺は一体、何処へ行こうとしてるのだろう?
見上げると、いつもと違う空になっていた。
その空は、誰とも交わる事のない違う方向に続いていた。
俺は帰るべき場所に帰れなくなっていた。
そして、手遅れになってから気付くのだ。
自分には帰るべき街があったのだという事を。
それはとても悲しい事。
だって、真実の温もりはそこにある筈だったのだから……。
「それが今の貴方の本音なの?」
「………」
俺は、最後まで頑張ったつもりだ。
あの時、頑張って、自分の街に居続けることを願ったんだ。
でも、それは別にこの世界を否定しようとした訳じゃない。
この世界の存在を受け止めた上で、あの場所に居残れるんじゃないかと思ってたんだ。
でもダメだった。
「そんな事わざわざ言って欲しくないよ…」
ただ、もっとあの時頑張っていれば、
本当に自分をあの場所に繋ぎ止められたのか、それが知りたかったんだ。
「どうして?」
可能性があったかどうかは問題じゃないんだ。
ただ、可能性があったとしたら、悔しいじゃないか。、
俺が『絆』と思ってたものは所詮幻想に過ぎなかった……という事なんだから。
君はどう思う?
「多分…無理だったと思う」
「………」
「この世界は貴方の中で始まっていたんだから」
「やっぱりそうか…」
「うん…」
「でも、それが無理でも、この世界を終わらせることはできたかも…」
「………」
「いや、できるかもしれない」
「この世界は終わらないよ」
「だって、既に終っているんだから」
「ふわぁ……」
新しい朝が来た。希望の朝……ん?
ペタペタ
誰だ? 頬を叩いてるのは。
それにしても、やけに冷たい……。
ペタペタ
えーと、目の前にいるのは……
「起きましたか?」
小竜姫様?
そうだ、ここは妙神山だったな。すっかり忘れてた。
それにしても、全然目が笑ってないな。
まるで、挨拶代わりのセクハラをしようとした時と同じ目つきだ。
しかも、神剣までこっちに向け……
え゛っ!?
「覚悟は…できましたか?」
「覚悟って、一体何の…」
「仏罰を受ける覚悟に決まってます」
本気だ……あの目は完全にマジだ……。
「ちょっと待って下さい! 仏罰って何の事っすか!?」
「この状況で言い訳ができると思ってますか?」
「この状況って…」
今、俺は布団の上にいる。
布団の上には、もう1名。
パピリオが、眠っている………
ぱんつ一丁で。
「待ちなさぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」
「待ちませぇぇぇぇぇぇぇん!!」
……果して、パピリオが目を覚ますまで無事逃げ切れるだろうか?
[平成16年9月1日更新]