「おはよう、シロ」
「もう、10時過ぎでござるよ…」
「何だ、まだ10時過ぎなのか」
確か、部屋に戻ったのは5時頃だったかな。
「先生、酒臭いでござる」
「そんなに飲んでないんだけどな」
クンクンクン…
「おい! 何で股間の臭いを嗅ぐんだっ!」
「……ビールこぼしたズボンはさっさと洗濯した方がいいでござるよ」
「あ、すっかり忘れてた」
とりあえずズボンを脱ぐ。
今の所外出する予定はないので、下はトランクス1枚のまま。
「先生、れでぃの前でその格好は失礼でござる」
「この部屋の何処にレディーが居るというんだ」
「先生の目の前に居るでござる!」
目の前にはシロ。
目線を顔から胸、更にその下へと移す……。
「にーに、にーに…」
「……確かに、目の前に居るな(ニヤリ)」
「せ〜ん〜せ〜え〜〜〜〜〜っ」
わんっ! 〜輝く季節へ
第4話
「そうか…美神さんがアフロ……プッ」
俺は、昨日の事務所での顛末を聞いた。
皆、ひのめちゃんのお守に悪戦苦闘してたらしい。
間の悪い事に、俺の次にお守の上手いおキヌちゃんの帰りがたまたま遅かったため、美神さんが貧乏籤を引く羽目になったそうだが…。
「拙者、今回の事で先生の存在の偉大さを改めて感じたでござる」
「褒められても全然嬉しくない…」
好きで火炎放射受け止めてた訳じゃないし。
「でも、何で今日はひのめちゃんここに連れて来たんだ?」
「にーに、にーに…」
「まさか皆に内緒で勝手に連れ出したんじゃ」
「にーに、にーに…」
「大仕事が緊急で入ったので、拙者以外は皆出かけたでござる。それに」
「にーに、にーに…」
「ひのめ殿と先生を会わせたかったでござる」
ひのめちゃんが俺の手をにぎにぎしている。
「ひのめ殿は先生を必要としてるでござるよ」
「にーに、にーに…」
「……そうなのかな」
「にーに、にーに…」
「そうでござる」
「にーに、にーに…」
ちなみに、隊長以外の人間や人外は皆「にーに」だ。
シロを「わんわん」と呼ぶのは果していつの日になるのやら……。
「拙者、狼でござるぅ…」
おっと、口に出していたか。
今日は久しぶりに楽しい1日を過ごした。
まさか、子守がこんなに楽しいとは思わなかった。
でも、楽しい1日にも終りがある。
俺は、玄関に出て帰りを見送った。
「また明日来るでござる」
「にーに、ばいばい…」
また1人きりになった。
でも、いつもとは違う温もりが残っている。
幸せを反芻しつつ、眠りにつくとしますか……。
夕焼けと電波塔だけの世界……。
「この下には、何があるのかしら」
「多分、街があるんだろうな」
でも、見下ろしても街の灯りは見えない。
もしかしたら、何もないのかもしれない。
地面もないのに聳え立つ電波塔。
落ちる場所のない俺は、当てもなく、大空をプカプカと浮かぶ。
肝心な時に何もできなかった自分自身を揶揄するかの如く、ただプカプカと漂うんだ。
「でも、これは貴方が望んだ世界」
「………」
つまり俺は、自分の立場をわきまえてこの世界を選んだのだと。
それはこの世界を蔑んでいる事になる。
君を含むこの世界を。
君は気付いているだろうか? この僕の猜疑心に。
地面に落ちる事もなく、何もできずにただ大空を漂うだけの俺には、辿り着く先など何処にもない。
「先生、先生…」
ゆさゆさ…
「……ん? まだ7時になってない……」
良い子はまだお寝ん寝の時間。さ、寝よ寝よ……。
「先生、起きるでござる…」
ゆさゆさゆさ…
「頼む。あと1億年寝かしてくれ…」
「1億年も待ってたら、日本が沈没してしまうでござる」
「じゃあせめて、唐巣神父が貧乏脱出する日まで寝かしてくれ…」
「そんな日は永遠に来ないでござる」
ゆさゆさゆさゆさ…
「えー加減にせんかっ!」
「やっと起きる気になったでござるか」
「で? 何でこんな朝早くに来たんだ?」
ちなみに、昨日と一昨日は昼過ぎに来て夕方に帰った。
「せ、先生……」
「……シロ?」
「せんせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
「たった3日会えないだけだろ」
「でも、その間に先生が居なくなったら、拙者、拙者…」
「仕事が終るまで辛抱しろ。ほら、皆が事務所で待ってるぞ」
「せんせぇ〜(泣)」
全く、この馬鹿弟子はいらぬ心配をかけおって……。
とりあえず、出発の時間ぎりぎりまでシロの頭を撫でてやる。
シロが事務所に戻った所で、俺も旅支度をする。
「やるべき事は全てやっておかないとな…」
文珠を2個生成すると、そのまま目的地の一歩手前へと『転』『移』。
あっという間に到着。そこから、てくてくと山道を登る。
「……はぁ」
正直言って辛い。初対面のふりをするのはかなり堪える。
でも、あそこには、どうしても会わなければならない相手がいる。
「……当って砕けるしかないよな」
言うまでもない事だが、その相手とは、
「我らを倒さぬ限り!」
「この門をくぐる事まかりならん!」
こいつらの事ではない。
5秒後。
「倒したから、遠慮なく通るぞ」
これにて、鬼門の出番は終了。
タイミングを見計らったかのように、扉が開く。
小竜姫様……じゃない。
「誰でちゅか?」
パピリオだ。
やはり、俺の事は全く覚えていないようだ。
改めて、辛い現実に直面させられる。
「小竜姫様は?」
「天界へ出かけてるでちゅ」
「そっか…」
できるだけ会いたくない、と思ってたのに会えないとやはり淋しい。
我ながら、自分勝手な上に矛盾した考えだ。
「小竜姫に用があるなら、中で待ってるといいでちゅ」
いや、実はお前に用があったんだが、どうやって話を切り出そうか……。
やっぱ、始めは無難な所でゲームの話題からかな?
「私も暇だから、一緒にゲームやるでちゅ」
渡りに船だ。
「いいけど、どんなゲームがあるんだ?」
知ってるけど知らない振りをする。
さて、新作は何タイトル入ってるかな……。
「一杯あるから、どれでも好きなの選ぶといいでちゅ。ところで」
「?」
「まだ名前聞いてなかったでちゅ」
「おいおい、順番が逆だろ…」
「名前がないなら、私が付けてあげるでちゅ。今から、お前の名前はポチでちゅ!」
「ポチ…」
逆天号か……。何もかも皆、懐かしい……。
「じゃあ、そう呼んでくれ」
「よしよし、素直なペットは大好きでちゅ♪」
ペット扱いですら、今の俺にはささやかな幸せ。
だが、あらゆる意味で哀し過ぎる。
「久しぶりに楽しめたでちゅ〜☆」
……困った。
他人行儀な会話をする必要がなくなったのはとても嬉しいのだが、そうなったらそうなったで、どう話を切り出せばいいかが判らない。
とりあえず、パピリオの機嫌を損ねない事が先決かな……。
「あの、ここは…」
パピリオの行先は、
「一緒に入るでちゅ♪」
ある意味、お約束かもしれない場所。
「ここ、女湯なんだけど…」
……小竜姫様にバレたら、確実に滅殺されるな。
「私とポチしかいないから、何の問題もないでちゅ♪」
そう言うと、パピリオは俺の腕を掴み、そのまま女湯へ直行。
……ま、いっか。
少しは……成長……してるだろうな。
ムフッ♪
[平成16年9月1日更新]