大急ぎでヘルシーランドに戻ると、ちょうど骸さまが庭にミントを植えようとしているところだった。
「骸さま!」
「おやクローム……どうしたんですか、その荷物」
「買ってきました。ミントを育てるのに要るの。ミントは庭より鉢植えがいいんだって」
わたしの言葉に骸さまは感極まったようで、土のついていない方の手でわたしを撫でてくれた。どうやら千種と犬はミントに関わらないことにしたらしいから、より嬉しかったのだろう。骸様が嬉しいとわたしも嬉しい。今日はいい日だ。
春光園のロゴの入ったビニール袋のなかから、まずネットを取り出した。虫除けのために買ったものだけれど、これだけ大きいのだから、少しくらいもらっても大丈夫だろう。骸さまの万能ばさみを使って、おおよそ鉢の大きさのものを二枚切り出した。
「どうするんですか、そんなもの」
「水はけをよくするのに、底に石を入れるの。最初にネットで石と土を分けておくと、後で植え替えをする時に楽なんですって」
「ほぉ」
一枚をまず鉢の底に敷き、その上に鉢底石を入れて、更にもう一枚のネットを敷く。
「それで、まずちょっとだけ土を入れて……」
「こうですか」
「その上に、土ごと苗を置きます」
ビニールポットからぽこんと苗を外して、骸さまが慎重に鉢の中央に置く。その周りにわたしが少しずつ土を足していった。どうかうまく育ちますように。骸さまと私と千種と犬で、奈々さんが出してくれたようなミントティーが飲めるくらいに育ちますように。そこにボスと奈々さんもいてくれるともっといい。
最後に水をたっぷりやって植え替え作業は終わった。初めてだから心配だったけれど、驚くほどあっさりと済んだ。
「それから、害虫対策もしないと」
骸さまは外見からは想像もつかないけれど、幼虫なんて全然平気な人だから、箸でつまんで駆除するのだって顔色一つ変えずにできるだろう。けれど、奈々さんの言うとおり、つくまえに予防するのがミントにとっては一番だ。
苗の周りにニームケーキを撒き、希釈したニームオイルを散布する。それからミントの生長を阻害しないようにフレームを組んで、ネットを被せた。隙間なく包み込むようにした方がいいと春光園の店員に言われたので、鉢の半分ほどまでを覆うようにしてネットをカットし、輪ゴムできっちりと止める。
「クロームは頼りになりますねぇ」
その言葉がなにより嬉しかった。
店員に教わった水やりのタイミングを骸さまにも教えて、それから、鉢植えとなった小さなミントを南側の日陰になるところに置いた。
「骸さま」
「なんでしょう」
「どうしていきなりミントなの?」
問うと骸さまはいつもの顔で、暇つぶしですよとだけ答えた。けれどその耳はほんのり朱い。
ああ、きっとボスがらみなのだろうとすぐに見当がついた。骸さまはポーカーフェイスはうまいけれど、ボスが絡むととってもわかりやすい。
さんざん聞かされて知っていたことだったが、ミントの生長はすこぶる早かった。
骸さまが買ってきたミントは、途中で切られた一本の太い茎の中程から、二本の枝が伸びて茂っていた。その枝に葉がつきすぎて、新芽に日光が当たっていないのだ。それで剪定を兼ねて収穫することにした。植え替えを行って二日目の朝のことだった。
「ドライハーブにして保存しましょう」
ハーブティーにするにはまだまだ量が足りないから、乾燥させて、量がたまるまで待つつもりだった。わたしが提案すると、骸さまもそれを了承してくれた。
春光園でもらった冊子によると、ドライハーブにするには、晴れた午前中に収穫するのが良いのだという。まさしく今が刈り時だ。
「このへんから行きましょうか」
ぱちん、ぱちん、と骸さまが二回はさみを入れる。まだそんなに大きくないから、今回の収穫はこれでお終い。害虫よけのネットをていねいに戻して、鉢をまた半日陰となる場所に置いた。
収穫したミントはいい香りがした。スペアミントだからメントールはほとんど含まれていなくて、香りも刺激的ではなくとてもさわやか。
大切なミントをカビで駄目にするなんて絶対に嫌だから、骸さまとわたしはそれを電子レンジで大切に乾燥させて、乾燥剤を入れた瓶にしまった。早く骸さまとボスとミントティーが飲みたい。たくさん貯まりますようにとお祈りをして、それを冷蔵庫にしまった。