夜がおそろしくて仕方ない。
 大地が闇に覆われ、地上を照らすものが月の明かりだけになると、途端に暗がりからひとごろしめと糾弾する声が聞こえてくる。血に汚れたおまえに救いの朝などこないと責め苛む。
 かつて、まだツナのことを知らなかった頃には、夜は姿や気配を消してくれる最大の味方だった。だが、今やそれは幻騎士に決して甘い顔などしてくれない。夜も闇も、清廉な人間に眠りという安らぎを与えはしても、罪人にはそうではないのだ。
 幻騎士は自分のことをずっと、怨嗟の声など笑い飛ばして、清潔でやわらかなベッドでぬくぬくと安眠を貪れるような人間だと思っていた。どれだけ殺しても罪の意識など持たずにいられるはずだった。けれどそんなものは幻想に過ぎず、結局こうしていま、夜の到来におびえている。どれだけ精神を鍛えても無駄だった。
 人の作った光は何のちからも持たない。闇を祓えたのはたったひとりの子供の、へにゃりとした情けない微笑みだけだ。だが彼が眠ってしまえば、それはもうどこにもない。
 ひとりでいれば必ず浮かんでくる疑問がある。本当に朝は来るのだろうか。この長い長い夜は明けるのだろうか。もしかしたら、もう朝など来ず、あの子供の顔を見ることもできないまま、たったひとりこの闇の中で生きていかなければならないのかもしれない。長い長い人生の残りを、死という救済が訪れるまで、ずっと。
 いったい、あとどれだけひとりきりで耐えればいいのだろう。早く朝になれ。朝になれば、光にあふれた家のなかで、あの声を聞きあの笑顔を見ることができる。
 絶望の中で、救いを求めてゆるゆると腕を上げる。血にまみれているはずの腕は、まるで死者のそれのように、暗闇の中に白く浮かんで見えた。