ツナが考えに考えてつけた息子の名には秘密がある。
 ジョットに妻子があったのは事実だ。それは家系図という形で確かに伝えられているし、直系の子孫であるツナの存在そのものがそれを証明している。
 けれどツナにはそれが耐えられなかった。それほどまでにジョットのことが好きで好きでたまらなかった。彼が他の女と──だなんて、到底許し難いことだと、思ってしまったのだ。
 幾日も幾日もツナは悩み続けた。そしてある日、気付いてしまったのだ。自分と息子が、いるべきジョットの妻子に成り代わってしまえばいいのだということに。そう、ツナが息子に付けた「吉宗」という名は、ジョットからツナまで続く家系図の二番目にあった名前なのだ。
 時は常にひと方向に流れ続ける、未来が過去に影響を与えることは許されない。時代を超えての接触は、重大なタイムパラドックスを生むことになるからだ。たとえば、戻った先の2008年の世界に「沢田綱吉」という人物が存在していないなどということさえ、起こりうる。でも、そんなの些細なことだ。吉宗を抱くジョットの姿を見たあの日、ツナは心の底からそう確信することができた。
 産んだ記憶などない子供だ。それでも、あれだけ悩まされたのだ、自分の子だという実感だけは嫌というほどある。そして、その子供をジョットをつなぎ止めるための道具にしてしまったという自覚もまた、同様だ。それでもツナは、自分のとった行動が、吉宗にとっても最善の道だったといえる自信がある。
(どうか、幸せになってな)
 眠っている子供のあどけない頬をそっと撫で、それからジョットにもう一度頭を下げた。
 いつもあるはずの目眩は今度ばかりは起きず、男と赤子の姿は、突然強くなった風雨にかき消されたかのように見えなくなった。


 寝慣れた薄っぺらいマットレスの感触に、ツナは元の世界へと戻ってきたことを知った。
 驚いたことに、あれだけのタイムパラドックスを起こしたツナは、確かに存在していた。消えてなどいなかったのだ。そう、まるで、ツナの行動まですべて含めての「今」があるみたいに。
 そこまで考えて、ツナはぷるぷると首を振った。そんなはずはないじゃないか、これはただ運がよかっただけだ。いや、もしかしたら、あれはパラレルワールドか何かでのできごとだったのかもしれない。あるいは長い長い夢を見ていたのかも。
 できるならば三人で暮らしたかった。毎日傍にいて、支え合って、ささやかな幸せを共有したかった。
 ずきずきと胸が痛んだけれど、今更もうどうしようもないことだ。それよりも今は、これからのことを考えなければならない。並盛ではいま次々と並中生が襲われている。次に狙われるのは誰だろうか。ツナの数少ない友人たちではなければいいのだけれど──


 *


 そして、十年後の世界で迎えた十一月の初頭。ざあざあとひどい雨の降る日に、運命の刻がやってくる。


「……おまえを待っていた」