* ご注意
 初めて死ぬ気になったときに雲雀がいたらというパラレル(今更)
 沢田家がおかしい
 雲雀もおかしい
 だがいちばんおかしいのはこれがダブルパロだということだ


 


「リ・ボーン!!!オレは笹川京子に死ぬ気で告白する!」
 その光景を、雲雀は目を丸くして見ていた。
 得体の知れない新顔の赤ん坊が、得体の知れない銃で、並盛町民を撃ったのだ。イッツ死ぬ気タイムだなんて、ふざけたことを言いながら。撃たれた子供はなぜか白目をむき、額に炎をともして起き上がった──ここまではいい。並盛のものに手を出すなんて許し難いことだし、理解できない部分も多々あるが、今問題なのはそこではない。
 そう、問題は、今まさに復活した子供の、肉付きの悪い腹の下で揺れている、貧相なイチモツだった。雲雀も、リボーンも、お買い物中のご婦人方も、下校中の子供らも、外回り中だろうサラリーマンたちも、皆ただ呆然とそこを凝視している。彼が堂々と露出行為を行っているここは、並盛商店街のど真ん中。決して男子トイレなどではではないのだ。
 凍り付いた街の中、真っ先に動いたのは、やはり雲雀だった。
「ワォ、まさしく猥褻物チン列罪だ。ふたりとも応接室に連行するよ」
「待てヒバリ、故意じゃねーぞ。これは事故だ」
「知ったことか。原因も過程もどうでもいい。重要なのは結果だ」
 なぜ出したかではなく、今出していること自体が問題なんだと、雲雀は眼光鋭くリボーンを睨みつけた。
 雲雀としては今すぐここで咬み殺してしまいたかったのだが、そういうわけにもいかなかった。ふたりの責任など後でいくらでも問えばいい。雲雀は自分にそう言い聞かせ、暴れるツナを無理矢理引き寄せた。自分の学ランを着せ、シャツを脱いで腰に巻いてやり、間違っても捲れたりしないようにがっちりと抱き込んでしまう。全裸の少年がひとりだった状況から、半裸の少年ふたりが抱き合っている状況に変化したわけであるが、まるだしでないだけまだ健全だとも言える。
 雲雀はそのまま、ツナを引きずるように並盛中へと連れ帰った。なぜかリボーンも自発的についてきた。ツナの身柄が心配だったのか、それともツナがパンツをはいていない理由に知的好奇心が騒いだのだろうか。どちらでもいい、同じことだ。雲雀にしてみれば、リボーンを連行する手間が省けた、そのことに代わりはないからだ。


 応接室で我に返ったツナは、べそをかきながら必死に弁解した。
「お、オレのせいじゃありません!脱いじゃったのは、リボーンが死ぬ気弾なんて撃ったからで!つーかリボーン、何だよアレ、何で服が脱げるんだよ!?」
「人のせいにすんじゃねーぞ。普通は服が脱げてもパンツが残るんだよ!何でオメーはいてねーんだ、このエロエロのエロツナめ」
「変な呼び方するな!」
 ふたりとも完全に雲雀の存在を忘れている。もしかしたらリボーンは、ただおもしろがって忘れたふりをしているだけかもしれない。けれど、あの頭の悪そうな草食動物は、きっと本当に頭の中から雲雀のことを消し去ってしまっているのだ。間違いない。
 おもしろくない。雲雀は一つため息をつき、トンファーを思い切り壁に打ち付けた。
「ひぃっ」
 音と衝撃に驚いたのか、ツナが悲鳴を上げて身を縮める。その姿は、小さくなって体を護ろうと無駄な努力をする小動物に、よく似ていた。
「服が脱げた理由なんてどうでもいい。問題は君が下着をはいていなかったことだ」
「う、ごめ、ごめんなさいー!」
「別に、謝ってほしいわけじゃないよ」
「あぅ……で、でも……パンツ?下着?っていうんですか、そんなものふつう、はかないですよね?」
 はかないですよね、はかないですよね、はかないですよね──雲雀の脳内に、その一言がこだまする。ぱちくりと瞬きをして雲雀の反応を待つ彼に冗談を言っている様子はないから、きっとこれは本気の発言なのだ。なんだかいい加減頭が痛くなってきた。
「ヒバリさん、どうかしました?」
「いや……ちょっと、頭痛が」
「え!?だ、大丈夫ですか?」
 おろおろするツナに、雲雀はこめかみを押さえたまま、苦々しく言った。
「君がどう思っているかは知らないけどね……沢田」
「はい?」
「ほとんどの日本人は下着を着けていると思うよ。少なくとも並中の生徒は全員だ。君を除いてね」
 雲雀の台詞にツナは多大なショックを受けたようだった。顔色を真っ青にして呆然と立ち尽くしている。
 ツナは典型的な日本人、典型的な草食動物だ。群れることを好み、その群れに溶け込むことを好む。そんな彼にとって、自身がマイノリティであることは、とても大きなショックだったのだろう。そんなことを考えうんうん頷いている雲雀の耳に入ったのは、しゃくりあげるツナの声と、そして聞き慣れたファスナー音。次の瞬間、なんだか局部に風を感じて見下ろした雲雀は、らしくもなく動揺した。
「ちょ、きみ、なにを」
「ほほほほんとうだ!ヒバリさんもはいてる!!」
「咬み殺す……!」
 いつの間にかツナは雲雀の足下にひしりと身を寄せ、その社会の窓を全開にしてなにやらうちひしがれていた。そんな裏切られたような顔をされても困る。泣きたいのは雲雀も一緒だ。
「体育とかプールの授業とか、人前で着替えること、あったでしょ。なんで気付かなかったのさ」
 ツナは半泣きで答えた。
「オレとろいから、オレが着替え出す頃にはみんなもう出て行っちゃってて……それに、ひとの着替えを見るような余裕もありませんでしたし」
「あぁ」
 ものすごく納得のいく答えだった。
 ところで、股間からいい加減顔を離してほしい。ツナはまるで雲雀ではなく雲雀の股間と話をしているかのように、そこにぐっと顔を寄せているのだ。だが、そんなことを口に出せるわけもなく、結局雲雀は力ずくでツナの頭を押しやった。
「とにかくね、君のその『はかない習慣』は改めた方がいい。なんでそんなことになったのかは知らないけど……できれば、その、早いうちにね」
 雲雀の言葉に、ツナは神妙に頷いた。


 *


 ツナはとぼとぼと帰途についた。リボーンは雲雀と話があると応接室に残ったため、一人きりでの帰宅である。
 ショックだった。あんな町中で全裸になってしまったこと、それをひとに──雲雀に見られたこと、世の中の人は皆パンツをはいていて自分が異端なのだという事実、そして雲雀の言葉。
 ──その『はかない習慣』は改めた方がいい。
 そんなことわかっている。自分がおかしいのだから、できるだけ世間に合わせなければならないのだということなんて、ちゃんとわかっている。衝撃だったのは、それを雲雀に言われてしまったことだった。
 ツナにとって、雲雀は憧れそのものだ。雲雀は自分にないものをみんな持っていて、ああなりたいだなんて願うことすらおこがましい、そんな存在だった。その人にあんなことを言われ、呆れられてしまった──その事実がツナに重くのし掛かる。
(せめて、せめて、明日からはちゃんとパンツをはこう。それでヒバリさんに謝りに行こう……)
 この先変態と思われ続けることになろうとも、せめてけじめだけはつけたかった。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
「おおツナ、帰ったか!」
 家に戻ると、奈々と、珍しいことに家光までもがツナを迎えてくれた。
 奈々はやわらかそうなブラウスに膝丈のスカートをはき、きっちりエプロンまで着けている。だが家光は、タンクトップに腹巻きをつけただけのまるだし姿でごろごろしており、あまつさえ「帰ったら下を脱ぎなさい」だなんて言うのだ。この父親の教育方針にこれまで疑問を抱かなかった自分が、どこまでもうらめしい。
「なあ父さん、ききたいことがあるんだけど」
「ん?何だツナ」
「その……世間ではパンツをはいて暮らすのが普通なんだろ?何でうちはこんなことになってるんだよ!!」
 これまで疑問も抱かずノーパンでいた自分が、急に恥ずかしく思えてきて、ツナはきっと父親をにらみつけた。
 一方家光は、のろのろと起き上がって、はあっと一つため息をついた。
「そうか。いつかこんな日が来ると覚悟はしていたが……おまえももうそんな年になったか」
 そして腕を組み、厳しい表情で言い放った。
「これは沢田家の家訓なんだ。沢田家には、『男子たるもの肌着を纏うことなかれ』という、初代ボンゴレから言い伝えられた教えがあるのだ!!!」
「はぁ!?」
 またボンゴレかよ、ツナは思わず叫んだ。ようするに、ボンゴレさえなければこんな目に遭うこともなかったのだ。この瞬間、ツナは、連綿と続くボンゴレの業と、この意味のわからない家訓をぶっつぶすとかたく決意したのだった。
 そんなうんざり顔のツナを置き去りに、家光の話は続く。
「昔、ボンゴレ・プリーモが日本に来たということは知っているな」
「ちょっとだけリボーンから聞いたけど、でもそれとノーパンとどんな関係が……」
「あれはな、ツナ、酔っぱらってテンションの上がったプリーモが女物の下着を着用して帰ったことが原因なのだ!!」
「……え、ちょ、もしかして、ボンゴレ初代と二世の間であった『いろいろ』って……!」
 プリーモがなぜ日本に来たのか、そしてプリーモとセコーンドの間に何があったのか、ツナはまだ知らなかった。知らなかったが、きっとなにか、お家争い的な大きなできごとがあったのだろうと思っていたのだ。なのに、それなのにまさか──プリーモが移住した理由は、呆れた弟にイタリアから追い出されたからだとでもいうのか。帰化したのは、イタリアに帰れなくなったから?
「とにかくだな、沢田家の男子には、下着を纏うと災いが起きるという呪いがかけられているのだ……!!」
 意味のわからないローカルルール──ローカルと言うにはいささか規模が大きすぎるが──について、一体どう雲雀に説明しよう。ツナは途方に暮れ、目の前に座る父親を見た。すべて冗談だったという一縷の望みを込めて。だが、しかし、家訓について熱く語り続ける彼は、どこまでも真剣な顔をしている。
 ツナはとうとう、意識を保つ努力をやめた。もやのかかる視界の端っこで、父のイチモツがぶらぶら揺れているのを見た気がした。


 翌朝、並盛中の正門では、雲雀が仁王立ちをしていた。一緒に登校してきた生徒たちがお互い他人のふりをして校内に入っていく光景は、はっきり言って異常だ。ツナはそれを離れたところでどきどきしながら見ていたのだが、やはりダメツナ、あっさりと見つかってしまった。
「やあおはよう沢田綱吉」
「お、おはようございます!」
 限界まで腰を曲げて挨拶すると、雲雀は満足そうに頷いて、応接室へおいでと言った。
「反省文代わりに、経過を聞かせてもらうよ」
 ツナはうつむいた。雲雀なりの温情なのだろうが、しかし、報告できるようなことはなにもない。
 昨夜、意識を取り戻したツナは、すぐにパンツを買いに行きたいと奈々にねだった。けれど、
「ヒバリさん、ごめんなさい……」
「なに」
「だめだったんです。沢田家の血が、本能が、それははくな!危険だ!って、叫ぶんです……ぱ、パンツを見るだけで動悸と目眩が」
 並盛駅前のスーパーマーケットの二階、紳士肌着売り場へ、行くことは行ったのだ。もちろん下着を買うために。だが、結局それはできなかった。グンゼ、BVD、福助からカルバン・クラインにラルフ・ローレンまで……様々な下着が並ぶ売り場で商品をひとつ手に取った瞬間、ツナはひどい不調に見舞われ、ぶっ倒れたのだ。
 殴られるのではないか、びくびくと身を縮めるツナの手を引きながら、雲雀はひとつため息をついた。
「そんなことだろうと思ってね、僕もいくらか準備をしておいたんだ」
「え?」
「ようは下着らしくなければいいんだろう?」
 応接室の扉をがらりと開けて雲雀はそんなことを言った。執務机の上には、ツナでも片手で持てそうなほどのサイズの段ボールが載っている。
「押収品だから、サイズが合うといいんだけど」
 折り込んであったフラップを無造作に起こして、雲雀は中身を一枚ぺろりと取り出した。小さな布きれにひもやビーズまでついている。何も考えずにそれを広げ、ツナは小首をかしげた。
「何ですか、これ?」
「下着のようなそうでないような、はいているようなはいていないような、まあ……『折衷案的下着』というか、ね」
 雲雀にしてははっきりしない物言いだが、ツナは素直に喜んだ。ようは、あまり下着下着していない下着ならはいても大丈夫だろうという、雲雀の気遣いなのだろう。嬉しくて仕方がない。この厳しい先輩が自分のことをこんなに考えてくれたなんて!
 よろこびに頬をばら色に染め、その「折衷案的下着」を胸にきゅうっと抱きしめて、ツナは深々と頭を下げた。
「ありがとうございます!オレ、さっそくはいてきますね!!」
 そう言って応接室を飛び出した。向かう先は最寄りの男子トイレだ。初めてパンツをはけるかもしれない興奮と、雲雀の思わぬ親切に、ツナのテンションは上がりっぱなしだ。雲雀が何か言いかけていたことになんて、気づきもしなかった。
 トイレの個室に入るのに少しばかり抵抗があったが、そんなものはパンツへの想いにはかえられなかった。鍵を閉め、洋式便器に座り、いそいそとズボンを脱ぐ。
「あれ、このパンツ、ちっちゃ!妙に可愛いなー……うぅ、レースがかゆい……あ、タグがついてる。ま、いっか」
 後で雲雀に切ってもらおう。そんなことを考えながら、ツナはそれを両足に通した。タグにきちんと目を通していればそんなことはしなかっただろう。だが、今のツナは、はやく自分のパンツ姿を雲雀に見せたい、その一心で動いていた。
 下着をつけ、元通りズボンをはいて、ベルトを締め直すのももどかしく応接室へと戻る。途中で目を丸くする草壁とすれ違ったが、ツナの意識にはとまらなかった。今はとにかく雲雀に礼を言いたかった。


 *


 満面の笑みで応接室へと飛び込んできたツナに、雲雀は少しだけ微妙な顔をしたが、何も言わなかった。廊下を走るなとさえ言わなかった。鬼の風紀委員長にしては明らかにおかしいのだが、ツナは少しも気にせず、締めたばかりのベルトをがちゃがちゃと外し始めた。
「見てくださいヒバリさん!オレ、オレ、パンツはけました!ヒバリさんっ、本当にありがとうございます!!」
 するり、と、がばがばのズボンが落ちる。雲雀は息をのみ、それから視線をそっとそらした。だがツナはそれにも気付かない。
 ぴょこりと茶色い髪を揺らして頭を下げた彼は、ブレザーに下着に白靴下という卑猥なスタイルだ。それだけでも十分どうしようもないのだが、その上、その下着がまずかった。
 ツナの無毛の鼠径部を、天使の羽のようなに清楚な純白のラッセルレースが覆っていた。それは小さな逆三角形をしていて、上側の二点からは、細い細いリボンが腰へと続く。そして、下側に位置するその頂点からは、股間から肛門を通って腰までくるりとパールが連なっていて、その一つが淡い色の窄まりにきゅうきゅうと食い込んでいた。
 イチモツが小さいためにはみだしたりはしていなかったのが、せめてもの救いだ。懸命に布地を押し上げている様は、いやらしいというよりもいじらしい。
「……っ、それ、女物だけど」
「ええっ……う、でもオレこんなだし、やっぱりはけて嬉しいです!」
 けなげにそんなことを言うツナに雲雀は撃沈した。ああ、こんなことなら、もっとよく確認してから出してやるべきだった。どうしようもなさではあれと大差ないのだが、一応男物もあったはずなのだから。
 しかしツナはそんな男心を少しもわかってはくれない。
「ヒバリさん、その箱の中、まだパンツが入ってるんですか?」
「あ、ああ、まあね」
「それじゃあ、それ、いただいてもいいですか!?オレ、これならはける気がするんです!」
 今度こそもうだめだった。雲雀はツナを強引に引き寄せ、ソファに押し倒した。きちんと脱いでいなかったズボンが足に絡んで、ツナはろくに身動きがとれない。大きな目を驚きに丸くして、ただ雲雀と天井を見つめている。
「あの箱、どこからもってきたか、解って言ってる?」
「はへ!?」
「……いい、なんでもないよ」
 続きはためらいとともに飲み込んで、続きに集中してしまおう。決断した雲雀は呆然とするツナからブレザーをはぎ取り、抜いたネクタイで手首を縛って、ワイシャツもボタンをぶちぶち飛ばしながらはだけてしまった。
「明日から毎日、僕に下着を見せに来ること。そうしたらアレ、無償であげるよ」
 どうせ、学校のそばにあったアダルトショップからの押収品だ。その店舗も、風営法をたてに雲雀がつぶしたのでもうない。文句などどこからも出ないはずだ。
「本当ですか!?」
「うん。それから、今はいてるのより布地が小さいのもあるから……さすがに、勃ったらはみだしちゃうよね?」
「え?」
「だから、すぐに勃ったりしないよう、僕が鍛えてあげるよ」
「え?えぇ?」
 箱の中、下着に埋もれるようにはいっていたそれを取り出し、電池残量を確かめる。駆動音はなかなか大きいし振動もきちんとある。製品付属の電池にしてはなかなかだ。
 今になってようやっと不穏さに気付いたツナがばたばた暴れるが、もう遅い。スケルトンピンク色のローターを手に、雲雀はにやりと笑った。


 *


 それからというもの、ツナは必死で努力した。そう、努力だ。ダメダメで無気力なそれまでのダメツナからは想像もできないくらいにがんばった。
 上級生と戦うことになったときも。イタリアからの帰国子女に襲われたときも。クラスメイトとともに屋上からダイブしたときも。雲雀の「その下着を他人に見せたら咬み殺すからね」という一言を胸に、死ぬ気弾なしで切り抜けた。何回か死にかけたが、それでも雲雀の恐怖には勝てなかった。そう、今や雲雀は、憧れや恩人を通り越して、恐怖の強姦魔と化していた。
 そんな状態だったから、骸戦でパンツ一枚にならなくてもいい特殊弾が出てきたとき、ツナは安堵のあまり気絶してしまったのだった。小言弾万歳、ハイパーモード万歳である。