イタリアで、それこそ馬車馬か何かのようにマフィア稼業に精を出していたディーノの元へ、元家庭教師からメールが届いた。
(叱られるようなことしたおぼえは……ねーよな?)
緊張からきりきりと痛む胃のあたりを押さえながら、三度きっちり文面に目を通した。たとえ一言でも見落としがあると、後で非常に恐い目にあうことを、身をもって知っているからだ。
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Ciao、ディーノ。元気にしてるようだな。評判はティモッテオから聞いてるぞ、なかなか頑張ってるじゃねーか。ま、オレに言わせれば、まだまだ「へなちょこにしては」ってレベルだけどな。
さて、早速だが本題に入る。日本で最後の候補が見つかった。オレがそいつのかてきょーになることになったんで、そいつはおまえの弟弟子になるんだぞ。おまえもまあ、一家を預かる身としてはだいぶ頼りないが、一応現役のボスだからな。日本に来て、挨拶と、それからボスの心構えなんかを教えてやってくれ。
ちなみに、そいつの教育に関しては、オレは全権を任されている。おまえの予定くらいは考慮してやらないでもないが、拒否権はない。渡日の日程は来週末まで決めておけ。ホテルくらいなら都合してやろう。
それじゃあな。オレは今からおやつの時間だ。ママン(今の雇い主のひとりだ、会ったときにはおまえもそう呼ぶように)のエスプレッソは絶品なんだぞ。日本でしか飲めないのが勿体ないくらいだ。せいぜい羨ましがれ。
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読み終えてディーノはため息をつき、それから、添付ファイルのアイコンをダブルクリックした。リボーン独自の方式で暗号化されていたそれが、自動で復号されていく。新しくできたのは文書ファイルだった。
テーブルを駆使して履歴書風にレイアウトされた、無駄に手の込んだ(そしてリボーンらしい)それに、呆れながらも目を通す。Tsunayoshi Sawada──沢田綱吉、十三歳、日本の中学生。そしてボンゴレ現門外顧問の唯一の実子。わざわざこんなものを見なくたって、それくらいディーノだって知っている。とうに調査させたことだ。なにしろ同盟盟主の跡継ぎのことなのだから、他のファミリーに後れをとるわけにはいかないのだ。
だが、挿入されていた写真に、画面をスクロールしていた指がぴたりと止まった。
(う、わ……!やっべえ!)
日本人離れした茶色い髪は、瞳の色から察するに、おそらく生まれ持ったものだ。その優しい色彩にぴったり似合う、はにかんだ、淡い奥ゆかしい笑顔。まさしく、積極的すぎるアピールに疲れたディーノの理想の女性、ヤマトナデシコだ。
可愛い、本当に可愛い。こんな妹がいたらたとえ親友でも男など近づけないだろう。まして、恋人なら、ひとりで外すら歩かせられないに違いない。
プロフィールの性格欄には、わざわざ太字斜体下線付きで、「優柔不断、ヘタレ、根性なし、ダメツナ」と書かれている。普通に読めばそれらは欠点だ。だが、逆に言えば、簡単にものごとを切り捨てることがなく、ディーノのような失敗ばかりの人間の気持ちをくみ取ってくれ、ひとつのものごとに固執しすぎない、優しく慈悲深く穏やかな人間だということではないか。
なんだか妙に顔が熱い。ついでに動悸も激しくなってきた。
(なんだコレ)
ディーノがドン・キャバッローネになる前、ただの「へなちょこディーノ」だった頃に、同じような経験をしたことがある。だが、そのときよりもずっとずっと強く、写真とデータでしか知らないこの子供を手に入れたいと思うのだ。同盟ファミリーのボスをオトしてしまえば、キャバッローネファミリーが他のファミリーよりも優位に立てるだとか、そういった次元の話ではない。今この瞬間に彼女が他の男を見ているのでないか、ディーノが日本から遠く離れたイタリアでまごついているうちに誰かにかっ浚われてしまうのではないか、だなんて、本気で頭を抱えてしまいそうになるくらいに、本気なのだ。
ふと、学生時代に見たオリエンタルの絵を思い出した。蓮を手に水面に立つ、吉兆を持つ美女ラクシュミー。この可憐な外見、リボーンお墨付きのマフィア向きでない性格、そしてボンゴレの肩書き。彼女が就任すれば、その一声でイタリア中が平伏するに違いない。まさしく綱吉は己にとってのラクシュミーだ。もちろん、パブリックとプライベートの両面で。
プロフィールの次のページからは、延々と、隠し撮りらしい目線のあっていない写真が続いていた。ディスプレイの中で、ツナは周囲の人々と心底楽しそうに笑っている。緊張した面持ちの履歴書の証明写真との違いに、おかしいと思いながらも嫉妬せずにはいられない。
(学友が二人……おいおい、スモーキン・ボムなんてどうやって手懐けたんだよ!?それにヒットマンがリボーンにビアンキ、……ビアンキに殺されてねえって、やっぱりすっげーな。さすが女神様だ)
ああ、一体どうして自分がこの隣にいないのだろうか!しばらくディスプレイの前でうっとりしていたが、はっと我に返って大急ぎで手ずから航空券をリザーブした。嫉妬と焦りから、向こうに着いたら取り巻き共に少しばかりちょっかいをだしてやろうと考えながら。
sesso:maschio──性別:男、というひと項目にはとうとう気づかないままだった。