二年ぶりの再会は、予想していたほど気まずくもなく、感動的でもなかった。まるで夏休み明けの学生ように気軽に挨拶を交わして、今まで何をしていたとか変わってないだとか話をして。そうして皆疲れて寝てしまった。
 水平線まで遮ることなく見渡せる、水上ホテルのデッキ。その、屋内からは丁度死角になる海際の端に腰掛け、ヒイロはひとりビールを呷っていた。アルコールが回って火照る頬に夜風が心地よい。
「……ヒイロ?」
 声に振り向くと、壁に寄りかかるようにデュオが立っていた。
「こんな時間に何してるんだよ」
「べつに」
 お前は、と問う前に、濡れたままの洗い髪が目についた。湯冷めするような気温ではないが、それでも一度気にしてしまうともういけない。
 服が濡れないようにと首周りに巻いてあったタオルを抜き取って、ぱたぱたと水気をとってやる。デュオは目を細めて一言ありがとうとつぶやいた。
「身体を冷やすのは良くない」
「うん、わかってる。ほら服だってちゃんともってきたんだぜ!」
 得意気に言って袖を通す姿に思わず苦笑した。まだそんな些細なことを覚えていたのかと、喜びより先に驚いても、罰は当たらないだろう。なにしろ言った本人さえ、たった今思い出したくらいなのだから。
 本当はいつだって死ぬほど心配しているのだが、それを認められるほど大人にはなれない。今ばかりは、無表情な自分の顔に心底感謝した。
「なあ、隣いい?」
「今更だろう」
「まあそうだけど。お前って、俺にだけあからさまに態度違うだろ?嫌われてるのかなー、そしたらあんまり話しかけたりくっついたりしないほうがいいのかなー、とか、繊細な俺としては考えるわけ」
 長台詞を息継ぎなしで言い切って、デュオは笑う。
「……繊細」
「突っこむところ、そこだけなんだ」
 落胆したような声音がおかしかった。
「まあ別にいいけどなー」
 そう呟いて、デュオはまるで何もなかったのかのように、ヒイロの横に腰掛ける。身長差はまだあまりないが、海風にはためく袖からのぞく腕細さは明らかに違う。
 よく見れば顔色も悪く、うっすらと汗もかいていた。冷や汗だということは容易に想像がついた。昼のうちに、体調が落ち着かないのだと苦笑していたのを思い出して、血の気が引いた。もし彼の身になにかがあったら。離れていても元気で幸せでいるならいいと思っていたのに、その「元気」も「幸せ」もなくなってしまったら。
 急いで自分の羽織っていたシャツを脱いで、デュオに押しつけた。
「もう一枚、着ていろ」
「え、あ、サンキュな」
 シャツを受け取って目を丸くするデュオの頭にタオルを放り投げる。照れ隠しなのだが、これが件の「他人に対するときとはあからさまに違う態度」だと気づいてしまって、なんだかこめかみが痛む。
 それでも袖を通してくれたデュオは、寸法が合わないのか、ボタンを留めたりはずしたり、袖を捲ったりおろしたりと落ち着かない。しかし結局、前を全て留めて袖だけ肘上まであげる、いつものスタイルに落ち着いたようだった。
 ヒイロには丁度いいシャツも、デュオにはあきらかに大きすぎる。置いていくようでさみしい。こんなことを言えば、また幽霊でも見たときのような、変な顔をされるのだろうから、言わないけれど。
「ヒイロの服大きいなあ」
「ああ」
 会話が続かない。
 数年ぶりの再会。ふたりきりになれたならしたいことも言いたいこともあった。
 だが実際にそうなると何もできなくなってしまった。時刻は真夜中、デュオを連れ出すカトルも、自分を呼び戻すリリーナの声もない。こんな刻限に邪魔をする者は居ないし、困ったことに時間もたっぷりある。
 昔ならきっと嬉しいと思ったのに、今はただ辛い。
 バカンスに来てストレスを溜めるというのもどうなのだろう。
 ああもうどうしよう、悶々と夜は更けていく。とりあえず隣のデュオを窺って、気付かれないようにこっそり流れ星に願うのだった。