本当は嬉しいとさえ思っていたんだ。幼い頃の写真を眺めながら思い出す。隣ではウィンリィが、眠い目を擦りながらエドの腕を仕上げている。ひときわ大きい音がガァンと響いて静かになった。ついうとうととして、何か道具を腕に落としたのだろう。
「ウィンリィ、起きて!」
「んーごめーん……アルがいてくれて本当たすかるわ……」
のそりと首をもたげた彼女はぱちんと頬を叩いて、金ヤスリを握って作業に戻った。
彼女がアルをこうして徹夜に付き合わせるのは、鎧の身体が睡眠を必要としないからだ。しかし、ロイには、それでも眠った方が良いといわれてしまった。
身体がないから眠くはならないけれど、五感を遮断して意識を休めないと、こころが疲れてしまうのだという。彼の気遣いがありがたくて、それからアルも「眠る」ようになった。エドやウィンリィにはついつい隠してしまうのだが。
「ねえアル、なんか喋ってよ。また寝ちゃいそう」
「なんかって……そうだ、ウィンリィは僕と兄さんがこうなって、本当はどう思ってる?」
「何それー?」
「本音だよ本音。兄さんいないし、僕にだけ教えてよ」
悪戯っぽく云うと、ウィンリィは呆れたように溜息をひとつついた。
「エドは手足なくしちゃったし、アルはそんなんなっちゃったし。反省してちっとは大人しくなるかと思ったわよ!……相変わらず無茶ばっかだけどね」
言いながらスパナでアルの腕を叩く。ひどい音が響いたが、それなりに手加減はしていたのか、兄やピナコが起きる心配はなさそうだ。
アルは苦笑しながら落としてしまったアルバムを拾い上げた。写真の中の自分たちは、屈託なく笑っている。
「僕は、もうこれでずうっと兄さんと一緒にいられるんだって、少し安心したんだ……酷いよね」
「別にいいんじゃない?」
「どうして」
「だってあたしだってそう思ったから。あんだけ心配して無茶につきあってやってるんだもん、報酬代わりにそれくらい思わせてくれなきゃ、割に合わないわよ!」
口調は怒っているようだが、表情はそうでもない。覗き込むアルに気づいたのか、彼女は抽斗からオイルとぼろ布を取り出した。
「付き合わせといて何なんだけどさ、暇だからそういうこと考えるのよね。手入れでもしてなさいよ」
見た目は自分たちと同じティーン・エイジャーだが、やっぱり女の子の方が精神年齢は高いんだなあ。そういえばエドと記憶のことで大喧嘩したときも助けてくれたのは彼女だったし、出産騒ぎの時だって、兄弟だけではどうにもならなかった。以前誰かからそう聞いたときは半信半疑だったが、今になって心底納得した。
ウィンリィがいてくれてよかった。
「ウィンリィって大人だよね」
「えー、ズルいだけだよ。結局自分のこと赦してるわけだしね」
「でも僕助かったし……ああそうだ、僕もね、実は寝るんだよ」
彼女はどんな反応をするだろうか。少し興味を持って付け足すと、あっさり「しってる」と返されてしまった。
「ホントは、腕壊した責任取ってエドを付き合わせるべきかって思ったんだけど、やっぱり幼なじみとしては、ちょっとでも睡眠とって大きくなって欲しいじゃない?だからアルにお願いしたのよ」
ははは……かろうじて漏れた笑いは、砂漠の砂よりも乾いていた。
このさき何百年かかっても、女の子には勝てそうにない。