君と出会った日は希望などみえず、虹もかかってなどいなかったが、それでも確かに始まりの第一歩ではあったのだと、今更にして実感する。
 東方司令部はとても居心地がよかったけれど、それでも長居するつもりなどはなかった。それなのについつい居座ってしまったのは、君が帰ってくるのを待つのが、殊の外楽しかったためだ。かつてなら焦ったであろうそんなことも、今では良い経験だと笑って言える。
 こう言うと君は怒るのだろうが、これは進歩と呼ぶにふさわしいもので、そしてそれは全て君のおかげなのだと思う。君が先を先をと急いでばかりいるから、それを横で眺めていた私は、時折立ち止まって周囲を見回す余裕を取り戻すことができたというわけだ。
 ああ、どうか怒らないでほしい。なにも君を馬鹿にしているわけでないのだ。君のその、目標に向けて素直に頑張れるというその性格は、それ自体がひとつの才能ではないのかと、私は本気でそう思っているのだよ。私はとにかく斜に構えがちだから、君のそんなところが眩しく見えるのだ。言葉にする機会には、とうとう恵まれなかったが。


 実を言うと、徹夜などいくらでもしてきたくせに、ちゃんと夜明けを見たことはなかった。そんな余裕などなかったのだ。その証拠に、私はこれまで明け方の空の色は紫だと信じていた。
 しかし先日それが間違いであったことを知った。夜闇の濃紺と陽の橙は混じることなどない。
 そう、夜空は白むものなのだ。こんなに簡単なことに気づけなかっただなんて、笑い出したいほど滑稽だ。君がいてくれなければ、私は今も、夜明けの空は紫なのだと疑いもせず、周りを見る余裕もなく、ただ淡々と毎日を過ごしていたのだろう。
 そんな馬鹿で愚かな私をすくい上げてくれた君には、どれだけ感謝してもしきれない。


 君は今のままでも十分にすばらしい人だと私は思うよ。ただ、ひとつだけ、助言をさせてほしい。
 君を見ているとまるで数年前の私を思い出す。ただがむしゃらに周囲など省みず、目標のみを見据えて邁進していた頃だ。当時の私と今の君は目をそらしたくなるほどそっくりで、だからこそ私は口を出さずにはいられない。
 翼が折れたのなら治るのを、もげたのなら生え替わるのを待てばいい。這いつくばってまで進まなければ間に合わないようなものは、手にした瞬間に灰になってしまうだろう。本当に価値のあるものは、やはり翼を使わなければ届かない場所にあるものだ。
 それだけは覚えていてほしい。かつて私がそうされたように、それがきっといつか君を救うからだ。


 さて私はもう筆を置くことにする。優秀な部下たちの簡潔な報告書にばかり慣れてしまった私にはずいぶん長く思えるのだが、君にはどうだろうか。もし君がこの手紙を、歴史のように長ったらしく、君の銀時計のように重たく感じてくれるのなら、私もわざわざお節介をした甲斐があるというものなのだが。
 どうか一度、すべての義務や使命やその他の重荷を床に下ろして、周囲を見回してみてほしい。君の生には多くの人々が関わっているのだ。それを決して忘れてはならない。
 これを読んでいる君が今、君の人生のステージの上にひとりきりでないことを祈っているよ。