独白

私は彼と出合った時のことを憶えていません。いつ、どこで、どんな風に――全く思い出すことができないのです。はじまりに降りてくる雨粒のようなものです。気がつけば私の体は濡れていたのです。

彼ははじめから私を憎んでいました。私たちの生活は競争で巡り、優劣でいろどられていました。それが彼と私にとって不幸であったか、どうか、私は今でも判じかねています。彼を追い詰めたたった一つの目標は、私たちが唯一共有したものでした。それだけのために私たちは生きてきたのです。胸のすくほどの、愚かしさで。

彼は私を憎み、私は彼を理解しませんでした。私たちは語り合うことなく、ののしり合うことなく、笑い合うことなく、走っていました。ですからゴールに着き振り向いた時誰もいなかったとしても、悲しむことはないのです。喪失感などなかったのです。

ただ私は最近夢を見ます。夢には彼が出てきます。私の前に立ち笑っています。目の下にしわを寄せ口を歪め、私は夢だとすぐに気付くことができます。

彼が私に笑いかけることなど、一度もなかったのですから。

(20071208)

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