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「どちらさまでしょうか?」
桜ヶ丘病院の看護師控え室に響いた、12月末の外気温よりなお冷ややかな声音。
眼前の青年の端麗な面立ちを一瞬にして硬直させた、ものみなを凍てつかせる吹雪の
ような響きのその一言を、紗夜は軽々と口にした。
「は、はは、面白い冗談だな。ただいま紗夜」
「ここは関係者以外立ち入り禁止ですので、すぐに出て行っていただきたいのですけど」
満面に冷や汗を噴き出させながら、なおも取り繕うように言い募る彼だったが、怒気を
含んだ硬い声と射るような眼差しをもって、紗夜はそれに答える。このやり取りが、
文字通り命をかけて想い合った二人の会話と誰が信じられようか。
「いや、怒るのは無理ないと思う、紗夜の誕生日にも帰ってこられなかったし、それは
ほんとに悪かった、謝る。でもさ、ちゃんと理由はメールでも書いたし、如月に言って
説明してもらったはずだよ……な?」
「ええ、ちゃんと説明していただきました。龍麻が、高校生のフリしてどこかの学園で
学園生活を楽しんでるって」
「だ、だからな、それには事情が……」
「あのですね龍麻」
「……はい」
普段は可憐で清楚な紗夜の容貌が、今は鬼神もかくやと思わせるほどの迫力に満ちて
ずいと迫り、龍麻は思わず後ずさる。その瞬間の彼の脳裏には、『遺跡』で邂逅した、
紗夜の宿星と同じ名を持つ化人の姿があったかもしれない。
「事情はわかりましたし、仕方ないと思います。……お馬鹿さんだとも思いますけど。
皆さんのうちの半分は、そのことを聞いた途端におなか抱えて笑ってましたよ」
「残り半分は?」
「涙流して笑ってました」
「……あいつら後でまとめて秘拳黄龍だ」
「言える立場ですか! 」
叱り付けられてしゅんと首をすくめる龍麻を、紗夜は睨みつけながら吐息をつく。
「私がこんなに怒ってるのは、そういう事件に巻き込まれちゃったからじゃないん
ですよ。……もっと早く片付けて帰ってくることができたはずでしょ、ってこと
なんです」

「ま、まぁ……そうかもな」
もじもじと視線をそらす龍麻に、紗夜はなおも言い募る。
「如月さんからもいろいろ伺いましたけど、自惚れじゃなく思いました。多分、
私たちを……いいえ、私一人だけでも呼んでくだされば、その『遺跡』とやらの
一番奥まで、そんなに時間をかけずにたどり着けたんじゃありませんか? 」
龍麻はその難詰に答えず、ただ黙って肩をすくめた。
紗夜は自らの比類なき絶大な戦闘能力を冷静に正しく認識し把握している。
常世を導く己の『唄』をもってすれば、話に聞いたその『遺跡』を踏破するのは
さほど困難なことではなかっただろうと彼女は考えていたし、そして事実それは
間違ってはいなかった。それどころか紗夜に限らず、百戦に練磨された仲間の
魔人たちの力を借りれば、月日をかけずに探索を終わらせることは可能なはず
だったのである。
「いやその、な、ちょっと事情があって、ゆっくりしなきゃいけない理由が……」
「ええ、如月さんから伺ってます。可愛い女の子がいっぱいいたそうですからね」
「ま、待て、違う! それは違う! いや違わないけど違う! 」
端正な顔を青くして狼狽する龍麻が慌てて紗夜の言葉をさえぎった。事象をつかさどる
無敵の黄龍の器にあるまじき動転ぶりで。
「つまりその、わけがあるんだよ、時間をかけなきゃいけなかったわけが」
「ですからそれをお尋ねしてるんです。……どうしていつまでもその「事情」とか
「わけ」とかを説明してくれないんですか? そんなに私に言えないようなことなんですか」
一歩前に進み出て語気鋭く問い詰める紗夜に、龍麻は額の汗をぬぐった。眼を泳がせ、
助けを求めるように周囲を見回すが、あいにくと控え室にいるのは彼ら二人きりである。
「いつもの龍麻らしくありません。理由があるならはっきり言ってくれるのが龍麻でした。
それなのに……」
詰問する紗夜の口調が、いつしか悲痛な響きを帯びていた。
彼女の怒りは、龍麻の長きに渡る不在ではなく、自分たちが呼ばれなかった不手際でも
ない。ただひとえにそれは寂しさだった。重大な出来事なのに自分に隠し事をされていると
いうこと、それが紗夜にとっては哀しいのだ。怒りだけではなく、何よりも寂しく、そして
辛い。
長い睫毛を悲しく伏せた紗夜の様子をまじまじと見つめて、軽く自らの額を叩き、龍麻は
意を決したように口を開いた。
「……わかった、言うよ。……ある人と、一緒に過ごしたかったんだ。あ、そいつ
男だからな、変な想像するなよ? 」
怪訝そうに柳眉をひそめた紗夜に、龍麻は言い辛そうにしながら、それでも続ける。
「そいつはさ、……『ある人』に似てた。俺の、とてもよく知ってる人にね。
……そいつは、……『いずれ俺を裏切るため』に、俺に近づいてきたんだ」

音を立てて、空気が、きしんだかのような一瞬。はっと顔を上げた紗夜があえぎ、
息を呑む。龍麻は痛々しそうにその姿から眼をそらしながら、言葉をつむいだ。
「けだるそうな、ものぐさそうな態度でさ。それでも俺に何かと世話やいてくれるんだ。
けど、そいつの目は、まなざしはいつもどこか苦しそうで、辛そうだった。俺はそいつと
同じ目をした人を、知っていた。自分の行動が自分自身で許せなくて、でもそれを
やらざるを得ない、ってジレンマに苦しめられてる眼をね。……だから」
龍麻はふっと息をつき、眼を閉じる。
「だから、俺には最初からすぐにわかったよ。そいつは、同じなんだと。以前に俺に
近づいてきた『ある人』と、同じことをしようとしてるんだと。
……最後の最後に俺を裏切るために、そいつは俺の近くにいるんだと」
紗夜が、震えた。小さな、しかしとめることの出来ない震えが彼女の華奢な体を
襲っていた。その白皙のかんばせからは瞬時に血の気が失われ、澄んだ大きな瞳は
焦点を定められずに虚ろに翳る。
「俺は、決めた。『あのとき』の二の舞は演じるものか、って。あのとき、俺は
救えなかった。助けることが出来なかった。だから今度は、今度こそは助けたいと
思った。そいつを助けてやりたいと。あのときみたいに、何もできずに見殺しにする
なんてことは絶対にするもんか、って」
龍麻はゆっくりと眼を開け、顔を上げて、紗夜を真っ直ぐに見つめ返した。彼女の、
涙に濡れた瞳を。
「そのために、俺はそいつと一緒にいたかったんだ。そいつの苦しみをわかって
やれて、そいつを救えるくらいに、そいつと親しくなれるように」
訥々と言葉を終えた龍麻は、あわてて紗夜の前に歩み寄り、その小さな小さな肩を抱く。
今にも崩れ落ちてしまいそうな小さな肩を。
「ああ、こんな風にしてしまうつもりはなかったんだよ紗夜。せっかくしばらくぶりに
会えたってのにいきなり泣かせちまうとか、何やってるんだろ俺」
優しく柔らかく抱きしめてくれた彼の腕の中で、紗夜はすすり泣きながら、
消え入りそうにつぶやいた。
「ごめんなさい、ごめんなさい龍麻。私、私……」
「いやだから紗夜が謝ることじゃないんだよ、悪かったのは全面的に俺なんだからさ」
困ったように紗夜の髪をなでる龍麻に、彼女は涙に濡れそぼった顔をそっと上げる。

「それで……その、その人は?」
「うん、大丈夫。ちゃんと助けた。まぁ、危ないところだったけどな……最後は」
言いかけて、龍麻は苦笑して言葉を止めた。紗夜はその彼の様子を見て暗黙のうちに
察する。おそらく、『その人』もまた、自ら死を選ぼうとしたのだ。あのときの自分と
同じように。そして、今の彼女は、その行為が、自ら命を止めようとする行為が
どれほど罪深いものかがわかる。人の命を救い、生み出す手助けをする看護師である
今の彼女になら。龍麻に出会い、仲間たちと触れ合って共に歩んできた今の彼女になら。
「その人のこと、怒りましたか?」
「はは、一発ぶん殴ってきてやったさ。思いっきり」
笑う龍麻の声に、紗夜はついとその彼の腕の中から抜け出して、一歩後じさった。
不思議そうに見つめる龍麻に、紗夜は、まだ涙の残る瞳をぬぐいもせずにまっすぐ
視線を向けて、はっきりと言った。
「じゃ、私も殴ってください」
「は!? 」
絶句する龍麻に、紗夜は強い口調で続ける。
「私も罰してください、龍麻。私は、あなたを騙して罠にかけたことは謝りました。
あなたに救ってもらったことに対してお礼は言いました。……でも、勝手に命を捨てた
ことに対してはまだ謝っていませんでした」
「い、いや、もういいんだよ紗夜。紗夜は今はもうちゃんとこうして俺のそばにいて
くれるんだし」
「でも、その人のことは殴ったのでしょう?」
「そりゃ、まあ……でもさ」
困惑したように目をぱちぱちと瞬かせる龍麻に、紗夜はきゅっと色を失った唇をかむ。
「私の、私自身の気がすまないんです。あなたを傷つけたまま罰せられもしないのでは」
「罰って言われても……」
龍麻は戸惑うように眉をしかめた。しかし眼前の彼女は一歩も引かぬ強い決意を秘めた
まなざしで彼を射すくめる。どうあっても引かないと見て取ったか、龍麻は仕方ないと
いった風に頭を振った。
「……わかったよ紗夜。じゃ、目閉じて」
「は、はい」
ぎゅっとまぶたを閉じて体を固め、紗夜は、制裁の拳が自らに炸裂する瞬間を
待ち構える。
が、その一瞬はなかなか訪れず、不審に思い始めた紗夜の耳に、なにやらごそごそと
物音が届いた。

「龍麻?」
薄目を開けようとしたその刹那、龍麻の気配が不意に動き、あっと思う間もなく、
紗夜の後ろに回りこむ。驚いて彼女が瞳を開けるのと、その彼女の細い腕が背後に
回され、手首に圧迫感を覚えるのが同時だった。
「……な、何ですか、これ!?」
思わず悲鳴にも似た声を上げる紗夜。彼女自身からは見えないが、その華奢な手首には、
皮革のバンドがきつく巻かれ、スプリングで厳しく固定されていたのだった。
「ああ、例の学園で親しくなったバーのマスターにもらったんだよ、養成ギブスって
やつ。手首だけ固定させてもらったけど、バネがかなり強いから紗夜じゃちょっと
動かせないだろ?」
にこやかに言う龍麻に、後ろ手に縛められたまま、紗夜は呆気にとられる。
「そうじゃなくて、何でこういうことするのかって聞いてるんです!」
「いや、紗夜がお仕置きしてほしいって言うから、こういうプレイがお望みなの
かなって思って」
「あ、あのですね!私は真剣にッ……!」
本気で怒りかけた紗夜の体を、ふわりと龍麻の腕が包み込んだ。あくまでも
やさしく静かに。
「真剣に、俺に紗夜を殴らせたかった?……でもさ、そしたら多分、今度は
無理やりに俺に自分を殴らせたことが紗夜の負い目になるよ。しかも、あのときの
こと自体は結局忘れられないままで」
はっと顔を上げた紗夜は、やがて力なく面を伏せた。栗色の柔らかな髪が一房、
頼りなげにはらりと落ちる。
「……消えませんか。やっぱり。……ずっと、背負っていかなきゃいけない、
……そうですよね、当たり前、ですよね」
形だけ、しかも自分から願って殴られても、それは結局相互の心に別のしこりを
残すことにしかならず、そんな儀礼的な行為で贖罪がなしうると思うこと自体、
紗夜のわがままに他ならない。過去の罪は消えることなく癒されることなく
生涯にわたって彼女に心に巣食っていかざるを得ず、そしてそれこそが彼女に
与えられた罰でもあるのだと、紗夜もわかってはいたのだ、本当は。
「だけど、紗夜だけじゃない、俺も背負う。いつまでも、二人で背負う。俺たちは
それを選んだはずだ、そうじゃないか?」
淡々と、しかし力強く響いた龍麻の言葉に、紗夜はもう一度顔を上げた。静かに
見下ろす龍麻の瞳と、潤んで見上げる紗夜の瞳の、二人の視線が絡んで揺れる。
その視線の距離はいつともなくやさしく縮まり、二つの吐息がやがて一つに溶け合った。
熱い唇が重なり、求め合って強く激しく蕩けるたびに、心の距離もまた消えていく。
舌と舌がもつれてせめぎあい、泡立ちながら相互の口内を踊り、狂う。

堅く抱きあった二人の体の中で、その唇と舌だけが水音とともに狂熱的に暴れていた。
二人の前歯は幾度となくかちりかちりとぶつかり合って、言葉を超えた会話の伴奏の
役割を果たす。4ヶ月ぶりの口付けは、かつて二人ともに味わったことのないような
激しさでお互いの存在を確かめ合う。
「ん……はぁ……」
あえぎと共に長い一瞬を終えて唇が離れたあとも、長い糸となった架け橋が
名残惜しそうに二人を結び続けていた。
「……えへへ、なんか……えへへ」
頬を染め、恥ずかしそうに紗夜は笑って、蹂躙され尽くした自らの朱唇を舌で
愛おしそうに湿した。
「すごかった……ですね。素敵でしたけど」
はにかんで言いながら、紗夜は後ろを向き、かちゃりと音を立てて、その手首を
締め付けたままのギブスを動かして見せた。
「それで、あの、これ、そろそろ取ってほしいんですけど」
「だめ」
即座に拒絶した龍麻の言に、紗夜は大きな目をさらに丸くした。あわてて振り向いた
彼女は、彼の瞳が熱く燃えていることに気づいて息を呑む。まさかという思いが
脳裏を走って、紗夜は狼狽した。
「最初はただふざけてるだけのつもりだったけど、ごめん、今のキスで
スイッチ入っちまった。止まんない」
言いざま、龍麻は後ろを向いた紗夜の小さな体を抱きしめる。その手のひらが
荒々しく彼女の胸をまさぐってきたとき、紗夜はあせって口早に訴えた。
「ま、待ってください龍麻。まだお昼だし、それに、すぐそこに他の人が
いるんですよ!? 」
扉一枚を隔てた向こうには、たか子や舞子などが働いている。まさに今この瞬間に
誰かがこの看護師控え室に入ってきても何の不思議もないのだ。正直、紗夜自身も
今の激しい口付けに体がうずいてはいたが、だからといって、白昼、しかも
この場所で、その先に進む勇気はなかった。
「だめ、紗夜が悪い。こんなに柔らかくて可愛いから」
理由になりもしない理由で自らを正当化しながら、龍麻は後ろ向きの紗夜のうなじに
唇をつけた。むさぼるようになめらかな肌を吸い、食むように白い首筋を堪能していく。
龍麻の顔が見えないまま、紗夜にとっては彼の唇の熱だけが自分の体を這っていって、
その倒錯的な感覚に彼女は思わず吐息を漏らした。その瞬間に、後ろから回りこんだ
龍麻の指がナース服のボタンを素早く外して紗夜の胸元に滑り込んだタイミングは、
まさに武術の達人ならではの間合いの取り方ともいえるのだろうか。
「……だ……め、です……龍麻……お願い……んっ」

次第に荒くなってくる自分の呼吸を隠すように、紗夜は力なく拒む。しかしその抗いに
答えがあるはずもなく、龍麻の指は、滑らかに彼女のブラを跳ね上げて、可憐な胸乳を
白日の元にさらした。
「……あ……!」
大きくはないものの柔らかく美しいその乳房のラインを、龍麻の指がなぞるように
伝い、肌と肉に沈み込んでその形を変える。弾むように、柔らかく白い乳房が龍麻の
掌の中で踊り戯れ、その指の間から美肉がこぼれ、たわむ。自らの乳房を白昼の冷たい
外気にさらされてしまっているという羞恥が、今にも誰かが入ってくるかもしれないと
いう恐れが、紗夜の意識を混濁させていく。
「は、ああ……っ……ん……っ」
漏れ始めた甘いあえぎは、まるで彼女の『力』を使ったかのように龍麻を魅了し、
さらなる高みへと二人を導いていった。
「久しぶりだ、紗夜のおっぱい、柔らかくて吸い付いてくる」
耳元でささやく龍麻の唇は紗夜の赤く染まった耳朶を甘がみし、彼女の耳孔に
舌を這い寄らせる。冬にもかかわらず、うっすらと浮き始めた首筋の汗を丹念に
舐め取られながら、紗夜の内部が溶け出して溢れゆく。
いつしか痛いほどにしこり尖り始めた薄紅色の乳首が龍麻の責めを嫌がるように
ふるふると震えたが、そんな主張を許さぬとばかりに龍麻の指が追い、捕らえ、
挟んで転がす。乳房への愛撫のときの、むずむずするような柔らかい悦楽とは明確に
異なった、痺れるような強い刺激と快感が体の奥から激しく走り、紗夜のあえぎは
悲鳴にも似た音色と変わって艶唇からほとばしった。
「あ、ああ! ……んんっ!! 」
思わず出してしまった高い声に、外に聞こえてしまったのではないかと紗夜が一瞬我に
返ったとき、龍麻の右手が力を失った彼女の両肢の間に潜り込んだ。
「だ、め、誰か……が……来ちゃう……」
哀願しながら太股を閉じようとする紗夜だったが、その体からはすでに力が失われ、
抗いうるはずもない。捲り上げられたスカートの中、すでに熱く滾っていた自らの
体の中心に指が添えられたとき、紗夜の意識は軽くはじけ、その小さな体は最小限の
自立すら果たしえずによろよろと後ろの龍麻に倒れ掛かった。彼はその体を受け止めて、
紗夜を抱きかかえたままソファーに腰を下ろす。
「紗夜、すごくなってるよ、ここ」
からかうように言いながら、龍麻の指はその部分を幾度もなぞり上げる。下着と
ストッキング越しなのにもかかわらず、甘く切なく激しい衝撃が体中を走りめぐって、
紗夜の白い咽喉は大きくのけぞった。睫毛に涙の粒を宿しながら、それでも彼女の
羞恥は、まだ最後の砦を保とうとする。
「許して……許してください……見られ……見られちゃうの……ッ」

「そうだな、見られたら困るかもな」
紗夜の切々とした訴えを聞いた龍麻はくすくすと笑いながら、彼女の小さな腰を
抱え上げるとぐいと持ち上げ、戸口のほうに向けなおした。紗夜が事態を把握する
間もなく、ビリビリと音を立てて白いストッキングが引き裂かれ、荒々しく下着が
取り去られる。まったく無防備となってしまった紗夜のその部分に宿った露が、
陽の光を受けて艶かしくきらめいた。
「そ、そんな……いやッ!! 」
泣き声で抗う紗夜の白い両肢を、龍麻はさらに思い切り割り広げる。今や、
秘めやかたるべき彼女の体の中心は完全にあらわとなってしまったばかりでなく、
よりによって扉の方向へ向かって見せ付けるように開かれてしまっていた。
「いやです……龍麻……こんな格好ッ」
「ほらほら、大きな声出すとほんとに誰か入ってきちゃうよ? 」
龍麻の言葉に紗夜ははっと唇をかみ、身をすくませた。抵抗が収まったと見るや、
龍麻は紗夜の秘唇に指を這わせ、濡れそぼったその部分を激しくえぐり、暴れさせる。
その乱暴なまでの指使いに、紗夜の肉はあまりにも素直に反応し、彼に絡み付いて
くわえ込む。膨れ上がった肉の扉から淫らな水音が室内に響き、桃色の花弁に白い蜜が
溢れて零れ続けていることを示す。
(あ……ああ……こんな……ことって……)
紗夜は声を立てないように必死で自分を押さえようとするが、それがまた彼女の
意識を砕いて混迷させていく。
(私……犯され……てる……龍麻に……こんな時間に……こんな場所で……)
職場で、手を縛り上げられ、制服のままで、鍵もかかっていない戸口に向かって
恥ずかしい格好にされ、思うままに弄ばれている。どれひとつとっても今まで経験した
こともない異常事態に対する羞恥と屈辱が、いつしか被虐の悦びとなって彼女の精神を
支配し、その肉体を反応させていた。それは、彼女が望んでいた『罰』が与えられた
ことに対する悦びであったかもしれない。
(こ、腰が……歓んじゃう……止まらない……のッ)
紗夜の小さな腰が艶かしくいやらしく動き、自ら龍麻の指を迎えようとする。
龍麻はそれを聡く感じ取ると、ひくひくと物欲しげにうごめいていた可憐な突起を
つまみ上げ、強引に剥き上げて捻りつぶした。
「ッ!! ……ぁ……ぁぁッ!!! 」

快楽とすら呼べない純粋な刺激、激しすぎるほどの衝撃が紗夜の全身を貫いて
蹂躙し尽くす一瞬。心と体が爆発し、躍り上がるようにその体躯が跳ね上がる。
声にもならないかすれた悲鳴が紗夜の朱唇からほとばしった。大きく見開かれた
紗夜の瞳からはどっと涙が溢れ、突き出した舌からしぶきのように唾液が飛び散る。
玉肌から噴出した汗と、秘壷から湧き出る淫液が混ざり合い、閉じた室内に牝の匂いを
漂わせた。
滴り落ちるほどに湿った自らの指を紗夜の唇に塗りつけながら、龍麻は彼女の耳元に
ささやく。
「どうして欲しい? 言ってごらん紗夜」
「あ……あ……」
犬のように舌を出してあえぎ、泣きじゃくりながら、紗夜は自分自身の欲望の液を
舐め取る。もう何もわからない。すべてが愛しい男の望むままに、その欲するままに、
溺れていく、流されていく。
「くだ……さい……龍麻を……ください……ッ」
その言葉の終わりもしないうちに、熱くたくましい戦慄が紗夜の体内奥深くまでもを
貫いた。
「んああああッ!! 」
悲鳴か嬌声か、歓喜か驚愕か。誰がその声を発しているのか、なぜ叫んでいるのか、
もう紗夜には理解できない。ただひたすら、自分の肉体を責めさいなみ、陵辱の限りを
尽くすその鋼の屹立を、より深く導こうと身をよじるのみ。激しい突き上げを迎え
受け入れる肉の壷は、溢れる蜜を撒き散らしながら貪欲に収縮し、えぐり上げられる
襞から発せられる歓喜の衝動は、腰の奥から脳の頂までをまっしぐらに駆け上がって
彼女の意識を破壊し焼き尽くす。信じられないほどの官能が嵐のように体内を渦巻いて、
至福の極みへと紗夜を連れて行く。
「ひああ、あ、あ、あああんッ! 」
艶やかな栗色の髪は振り乱され、澄んだ瞳にもう焦点はなく、ただ愉悦と歓喜の
リズムのみが彼女の肉体を支配し、踏みにじる。打ち付けられるたび、貫かれるたびに
彼女の背中は弓状に反り返り、束縛された手首がガチャガチャとスプリングを鳴らして
たわむ。肉唇ははしたなく秘蜜を溢れさせ続け、より奥へ、奥へと、男の昂ぶりを
引きこむべく収斂していく。
「俺がいない間、どうしてた? 紗夜。ここはどうしてた? 」
意地悪く訊く龍麻の言葉の意味がもうほとんど理解できないまま、紗夜は、熱に
浮かされたような口調で答えた。
「自分で……自分でしてました……自分で……何度も……」
「どっちがいい? 自分の指と、俺のと」
「龍麻です! 龍麻がいい! 龍麻がいいのッ! 一番、一番いいのぉ!! 」

口角からよだれを溢れさせ、激しく首を振りながら紗夜は悶え叫んだ。かつて
味わったことのない快楽に体の中が痙攣し、痺れて壊れる。
だが誘導されたのではなく、それは事実。彼女の心も体も埋めて溶かしてくれる、
誰よりも何よりも愛おしいもの。もう二度と離さない、離せない、その存在。
半年にも満たない間の別離であっても思い知らされた、それは改めての、想いの丈。
「俺もだ紗夜。紗夜がいい、紗夜じゃなきゃだめだ」
今はもう龍麻も息を荒げながら、強く激しく、打つ、打つ。全身が炎となって
燃え上がり、溶けてしまうようにさえ思える刹那の永遠。二人の吐息と喘ぎがもつれ、
ひとつになって絡む。もうじき、もうすぐにでも、昇り詰めたその先に行き着く予兆が、
二人の体の奥から流れ出る。
「抱っこ……抱っこ……して……お願い龍麻……抱っこぉ」
舌足らずな幼児のように、紗夜は最後の哀願を口にする。顔を見たい、抱きしめたい、
抱きしめられたい、甘えたいと。龍麻もその願いに答えて、反対向きだった彼女の
華奢な体をくるりと入れ替えて向かい合った。途端、安堵の声を上げて紗夜は彼の胸板に
すがりつく。腕はまだ縛られたままだが、その脚を彼の腰に回してしっかりと抱きつき、
可憐な乳房をつぶして自分の体を彼のたくましい身体に押し付ける。1mmでも離れて
いたくないと全身で訴えるように。
下腹部が激しくこすれ、もつれ合う。二人のひとつになった部分が相互に絡み、
締め付け、つきぬけて、二人を粉々にしていく。
「だ、め、もう……だめ……えッ……!! 」
息も絶え絶えな切々とした訴えがこぼれ、すべてが決壊する解放の一瞬が訪れる。
「あ……んッ……あ、あ、……はあああッ!!! 」
自分の悲鳴とともに、紗夜は己の体内深く、龍麻のすべてが熱く流し込まれたのを
感じながら、ゆっくりとその意識を白い閃光の中に薄れさせていった。

★☆ ★☆ ★☆

「んもう、手首に痣できちゃってるじゃないですか」
身支度を整えながら、紗夜は可憐な頬をぷっと膨らませた。
「制服は汚れちゃうし、ストッキングは破くし、酷いです龍麻」
幸いにも、制服やストッキングの替えは用意してあったので大事にはならずには
済んだとはいえ、今の行為はやはり一言、龍麻に釘をさしておかずにはいられない。
「もうだめですよ、あんなこと」
「はは、反省してる」
自分でもやりすぎたと思っているのか、苦笑を浮かべて龍麻は答えた。その彼の様子を
安らいだ心地で見やって、紗夜も微笑む。帰ってきてくれたこと、そしてお互いが
お互いをどれほど強く想いあっているかを確認できたこと、それが彼女の心を
暖かいもので満たしていた。
「今日は早番なんです。だから、帰ったらいろいろ聞かせてくださいね、その
『学園』のことや『遺跡』のこと。きっともう二度とない経験ですよ、
二回目の高校生なんて」
穏やかに言った紗夜に、なぜか龍麻は居心地悪そうに顔を背けた。不審そうな目を向けた
紗夜に、龍麻は、もじもじとしながら、視線をそらしたままで、答えた。
「えーと、実はだな。その、言いにくいんだけど……」
不吉な予感にピクリと紗夜のこめかみが痙攣する。
「次の指令ってのが来ちゃってだな、その、北海道の新しい『遺跡』に……」
その言葉が終わる間もなく、紗夜の最大出力のドファファが天地をどよもして
こだましたのは、無論、改めて記すべきことでもなかった。