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 朧気な月明かりだけが辺りを照らす夜の帳の中──
「……ん……」
 小さく身動ぎをすると、その人影はゆっくりと身を起こした。
 小柄ながらも丸みを帯びた柔らかな曲線は、それが女である事を示していた。
 白磁のような肌を艶やかな黒髪がするりと滑り、一糸纏わぬその身を覆い隠す。
 微かに滲んだ汗は先程までの行為の名残か。
 僅かに視線を廻らすと、隣で寝息を立てる男の横顔が目に入った。
 その無邪気な寝顔に物憂げだった表情に微笑が浮かぶ。
「龍様……」
 その女──雹はこの世で唯1人、己が身体に触れる事を許した愛しい男の名を呼ぶと、薄紅色の唇
を龍斗の頬にそっと寄せた。
 そして再び身を起こすと、部屋の隅に佇む大きな人影に視線を送った。
 否。
 人に似て非なる物。
 それは身の丈1丈はあろうかと言う巨大な人形だった。
 だがそれは只の人形ではない。
 古の剣豪より取り出した心の臓を命としたその人形は、剣豪の修めた流派に因んでガンリュウと名付
けられていた。
 そしてガンリュウは雹にとってはまさに半身と呼んでも差し支えない存在だった。
「ガンリュウよ。そなたには改めて礼を言おうぞ」
 かつては凍て付く氷の様だと言われた美貌に、しかし今は暖かな笑みを浮かべて雹は語り掛けた。
「あの時そなたがわらわの下にいてくれなんだら、わらわはあの時下郎共の嬲り者となりこの命さえ失
い、そして……このように龍様の腕の中で女子としての悦びを享ける事も無かったであろう」
 自身の言葉にかつて彼女の故郷を包んだ血と炎と絶望の光景を思い出し、雹の貌が刹那歪む。
 我欲に溺れた幕閣達の所業により彼女は一族と故郷と両脚の自由を失った。
 そしてその命と貞操さえも奪われようとした時、彼女の手に飛び込んできたのがガンリュウを操る繰り
糸だった。
 そうして一命を取り留めた雹だったが、事件の衝撃から心を失い、ただガンリュウを駆って敵を殺すだ
けの存在となっていた。
 それは同じ鬼道衆の仲間をしてさえ人形の様だと気味悪がられた。
 そして雹自身もどうせ人形と思われているなら、彼女にとってかけがえの無い存在であるこの仮初の
剣士と共に朽ちて逝くのも悪くないと考えていた。しかし──
「すまぬのう、ガンリュウよ。今のわらわにはそなたよりも大切な人が出来てしもうたのじゃ」
 龍斗と出会う以前の雹は、ガンリュウを己の伴侶であると公言して憚らなかった。
 心を失くした自分には心を持たない人形こそが相応しいと考えていたのだ。
「だがそんなわらわに龍様は心を戻してくれた。わらわはそなたに命を、龍様に心を救われたのじゃ」
 他人から恐れられる存在でしかなかった自分を真っ直ぐに見つめる龍斗へ雹が心を開くのにそれほ
ど時間は掛からなかった。
 やがてそれは愛情へと変わっていった。
「じゃがのう、わらわは怖かった」
 雹は呟きながらガンリュウの冷たく硬い胸へと手を伸ばし優しく撫でた。
「長らく人と交わる事もなく、ましてや歩く事も出来ぬわらわなどを果たして龍様が受け入れてくれようか
と。その周りに集う輝くばかりに美しい女子達と比べて、わらわはあまりにも見劣りするのではあるまい
かと」
 結果的にその全ては杞憂に終わったわけだが、当時の雹は想いに胸を焦がして幾度も眠れぬ夜を
過ごしていた。
「のう、ガンリュウ。わらわは今でも不安になる時があるのじゃ。今この場にいる龍様は、わらわの想い
が創り出した幻に過ぎぬのではないかと。触れようとすれば淡雪の如く掻き消えてしまうのではないか
と。わらわはとてつもなく不安になるのじゃ。わらわはただ、浅ましくも儚い夢を見ているに過ぎぬので
はないかと」
「夢じゃねぇよ」
「え!?」
 不意に掛けられた声に驚き、雹は振り返った。

「た、龍様……?」
 自らの心中を聞かれていたと知り、羞恥に頬がサッと紅を差した。
「まったくお前は相変わらずつまらねぇ心配をしているんだな」
 龍斗は横になった姿勢のまま、目だけで雹の顔を見上げて呆れた口調で言った。
「俺がお前を選んだのは夢でも幻でもねぇ。心底からお前を護りたいと思ったからそうしたんだ」
 それは幾度と無く繰り替えされたやり取りであった。
 しかしその都度、龍斗は同じ言葉を紡ぎだす。
 雹の持つ心の傷を知るが故に。
 そして何時ものように彼女の身体を抱き寄せ、自らの下に組み敷いた。
「あっ……」
「不安になったら何時でも言え。何処だろうとこうして俺の温もりを分けてやる」
 囁く様に言うと龍斗は自分の唇を雹のそれへと重ねた。
「ん、んふぅ……ん……」
 間髪入れずにぬめる舌が彼女の口腔に滑り込んでくる。
「んんっ、ん……んちゅ……んふ……ぅむぅん……」
 驚いたように一瞬身を強張らせる雹だったが、すぐにその全てを愛しい男へと委ねた。
「んふぅ……ん……んむ……ちゅっ……んくぅ……んん、ぷふぁっ!」
 長い口付けを解くと、二つの唇の間を唾液が糸引いた。
 龍斗はそのまま濡れた唇を雹の首筋に寄せ、自らのものであると印でもつけるかのように啄ばんだ。
「あ、んっ、くぅ……た、龍様……わらわが其処……弱いのを知って……んああぁぁっ!!」
「相変わらず感度の良い身体だな」
「な、何を他人事のように……んふ、あはぁっ……ハァハァ……誰の所為でわらわがこのような……あぁん、くふぅっ!!」
「俺の所為なのか?」
「ふぁ、あぅっ!……あ、当たり前……じゃ、ああっ!あ、ハァハァ……わ、わらわは……龍様しか知らぬ
……ふぅ、んく、あはぁ……というのに……ぃああんっ!!」
 何時の間にやら首筋を這う唇に加え、白く豊かな双丘と慎ましやかなその頂までが龍斗の手で捏ね
回されていた。
「お前の胸は何百回揉んでも飽きがこねぇな。こんなに揉み心地の良い胸は初めてだぜ」
 そういう龍斗の声にも興奮の色が滲み出ていた。
「あ、は、ああっ……た、龍様……あん……ダメ……んあっ、つ、強すぎ……ん、んんん──っ!!」
 唐突に雹が引き攣る様な声を上げて身体を突っ張らせた。
 龍斗の愛撫がもたらす快感に、軽い絶頂を迎えたのだ。
「ハァハァ……龍様……?」
 荒く息を吐きながら、雹が上目遣いに龍斗を見上げた。
「分かってるさ。この程度じゃ満足できねぇんだろ?」
「……」
 恥ずかしげな表情で小さく頷く雹。
「俺もそろそろ我慢できなくなってきたしな。……いくぜ?」
 そう宣言すると、龍斗は雹の答えも待たずに猛った分身を彼女の内へと潜り込ませた。

「ああぁぁ──っ!」
 肉を抉り熱い塊が侵入してくる感触に、雹は声を上げ身を震わせた。
 やがて最奥まで埋め尽くされたところで肉茎の動きが止まる。
「あ……ハァハァ……わ、わらわの膣内が……龍様でいっぱいに……ハァハァ……」
「ああ……俺も感じるぜ……俺の全てがお前に包み込まれているのを……」
 暫くの間そうして抱き合う2人だったが、やがて互いの息が整ってきたのを見計らい龍斗が腰を前後
させ始めた。
「あ、あ、ああっ、はぁぅ!そ、そんな、あぅ、いきなり、激し、ふぁああっ!!」
「悪ぃ……ちょっと抑えが利かねぇ……」
 普段は飄々としている龍斗だが、愛する者との行為はやはり彼自身の興奮を煽るのだろうか。
 先程までと比べてその口数は明らかに減り、ただ荒い吐息と共に腰を送り出していく。
「あ、あ、いいっ、あん、龍様、そこ、ああっ、いいっ、凄くいいっ!!」
 部屋の中に聞こえるのは2人の息遣いと雹の嬌声、そして肉がぶつかり合う際の淫猥な水音だけと
なっていた。
「ん、ん、あ、あは、ああん、ふぁ、た、龍様、ああっ、んふ、わらわは、もう、ん、んんっ、くは、あふ、あ
あぁっ!!」
 切羽詰った雹の声に、彼女が再び達しようとしているのだと悟る。
 そしてそれは龍斗自身も同様であった。
「俺も……イクから……なっ!」
 最後の瞬間へ昇り詰める為、龍斗がこれまでに無い速度で動く。
 パン、パンと腰を打ち付ける音が響き渡った。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、龍様、龍様、龍様ぁっ!!」
「雹、出すぞ……うくぅぅっ!」
「ああああぁぁぁぁぁぁ────っ!!」
 龍斗が全てを雹の中に解き放った瞬間、雹もまた頭の中が真っ白になるほどの快感の坩堝に飲み込
まれていた。
「あぁ……ハァハァ……龍様の精が……わらわの膣内を……満たしているぞえ……」
 媚肉震わせ愛する男の子種を最後の一滴まで搾り出そうとしながら、雹は心から満足そうな笑みを浮
かべて呟いた。
「暖かいのう、龍様のは……。このまま……このまま新しい生命となって、わらわの中に宿ってはくれぬ
ものかのう」
 愛おしそうに下腹部を撫でながら言う雹に、龍斗は優しい目を投げ掛けながら答えた。
「出来るさ、きっと。そして俺達の仔が、孫が、そのまた子孫まで、代々コイツに生命を吹き込んでくれる
だろうさ」
 その言葉と共に龍斗は傍らの木偶人形を叩いた。
「そうじゃのう。──ガンリュウよ、どうかわらわの子孫達を見守ってくりゃれ?あの夜、わらわを炎の地
獄から救ってくれた時の様に──」
 そうして雹は最も大切な男の胸に抱かれてまどろみの中へと意識を落としていった。
 物言わぬ剣士はその様子を虚ろな瞳に映し、ただ静かに佇んでいた。
 手を離れて巣立つ雛鳥を見守るかのように。