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「……っくしゅんッ」
「真由ッ、だいじょぶか?寒いんか?」
掘っ立て小屋、というよりは土手の窪みにむしろを下げただけの寒々しい室内には、
凍える夜気をさえぎるものはほとんどない。忍び込んでくる寒気が妹の身体に障るのではないか、
と真那は慌てて上体を起こし、暗がりの中にいる真由の様子に目を凝らした。
「大丈夫よ、お姉ちゃん。……ちょっと、風が入ってきただけだから」
「あかん、そーいう大した事無いと思うようなのがあかんのや。
ほら、ちゃんと布団被っとき……真由になんかあったら、ウチもうどうしていいかわからへん」
ほかに頼るものの無いこの姉妹にとって、互いが何よりもかけがえの無いものなのだった。

真那は自分の分の布団を真由にかけてやると、そっと伸ばした手のひらで真由の手を包み、
ゆっくりとさすりながら言い聞かせる。温かな手のひらの感触にうっとりとしながら、
それでもふと心配になって真由は姉に問いかけた。
「でも、お布団だって薄い薦を使ってるのに、私が1人で使ってたらお姉ちゃんが風邪引いちゃう」
「だいじょぶだいじょぶ、ウチは元気なだけが取り得やか…ら……ふ、ふぁっくしょんッ」
妹を安心させようと言いさした言葉の終わらぬうちに、盛大なくしゃみをしてしまっては
説得力も何もあったものではない。しばらくの沈黙の後、えへへと照れたような笑いがどちらからともなく漏れた。

「――あかんわ、うちも一緒に寝てもええ?」
「うん、一緒にお布団に入ればきっともっと暖かいわ」


いくら小柄な二人でも、一つの夜具に潜り込むには布団が小さすぎる。だから、互いの温もりを
求めて手足を絡めあった。まるでひそひそ話をするように顔を近づけあって笑う。
「あー、こうやってぴったりくっついてるとぬくいなー」
「ふふッ、温かいね、お姉ちゃん。……何だか、安心するな……」
言いながら真由は真那の胸に顔をうずめ、少し照れたような声で囁いた。
「ねえ、お姉ちゃん。何かお話して?町の話」
「ええよ、何でも話して聞かしたる」
可愛い妹を喜ばせようと、真那は今日一日の出来事を思い出しながら話し始めた。
長命寺の境内でへんな同心を見た、どこそこの長屋の玄関先に茶饅頭が落ちていた、
溜池には主がいるはずだから、いつか絶対釣り上げて真由に食べさせたる、
などなどの他愛のない日常を(一応夜具の中なので抑え気味ではあるが)身振り手振りを
交えて情感たっぷりに語って聞かせる姉の顔を、真由は少し羨ましげに見つめる。
「……いいなあ。私もいろんな所に行って、いろんな物を見てみたいなあ」
外界への憧れと、思うようにならない身体への切なさの混じった妹のつぶやきに
真那はほんの一瞬顔を曇らせたが、それには気づかぬ振りをして、わざと明るい声をだした。
「もちろん、行けるようになるッ。今は苦しいでも、ちゃーんと直るもん、大丈夫や。
ウチが必ず真由を元気にしたるから、そしたら一緒にいろんなとこ行っていろんなもん見ような、真由」
「うん……」
「――…そうや、いろんなもん見るで思い出したけど、今日食べもんを失け……
分けてもろた家で、変わったもん見たんや」
「変わったもの?」
「うん。座敷が暗くて、はじめは人おらへんのやろかと思っとったんやけど、
土間に上がり込んだら人がおるの分かってよーさん驚いて」
「おうちの人がいたの?」
自分の見た「変わったもの」に真由が興味を示したとみて、真那は言葉を繋げた。
相槌を打つように挟まれる真由の言葉に先を促されて、真那はその情景を思いだしながら
なぞり出す。それは真那にとっても初めて見る光景だった。

「そうや。そこの家のおっちゃんとおばちゃんがな、ちょうど今のウチらみたいに抱きおうとって、
おばちゃんが何やえらいことになっとったん」
「えらいこと……って?どうかしたの?」
「うん……何やもうヒィヒィ言うてて、熱いーとかもっとーとか、呂律がおかしいなって
喚いとるんよ。もうウチびっくりしてもうて、しばらくそこで固まってしもた」
「何か、怖い……そこのおうちの人、大丈夫だったのかしら」
「確かに尋常やなかったけど……気持ち良いとかとも言うとったし、
大丈夫なんやないやろか。多分」
「ふうん……」
「そやけど何か分かる気ィするわ」
不意に仰向いて低い天井を眺めて言うと、また不意に真由を抱きすくめ、小さな胸に
耳を押し当てる。少し早く刻む鼓動に耳を澄ませ、これが聞こえる限りはウチも真由も
大丈夫、と真那は思う。妹を苦しめているのは病んだ心臓だが、それでもその心臓が
妹を生かしている、と思うと胸が苦しくなる。
「お姉ちゃん?」
訝しげな真由の声が頭の上でする。妹のことを思うと胸は苦しいが、
それは口にはだすまいと決めている。言葉にしてしまったらこの苦しさは何か別のものに
変わってしまい、そしてそれはまた別の苦しさを連れてくるような気がしてならなかった。
だから真那は、少しだけ笑って、応えた。
「だって、今ウチはこうして真由と抱きおうてるだけでもええ気持ちやもん。
ぬくいし、やらかいし、何よりウチは真由が一等大事やから」
だからきっと、その夫婦はそれだけで幸せだったのだろう、と真那が言うと、真由は考え考えしながら、
「――そのおうちのおじさんとおばさんも、今の私たちと同じだったのかしら」
「多分、な」

『試してみる?』

どちらからともなくその言葉が投げかけられた。二人は幼いながらも改まった仕草で
互いを抱き寄せ合うと、猫の仔がそうするように頬を寄せ合った。
「おっちゃんらは裸で抱きおうてたけど、ウチらはこのままでええよな?
すっぽんぽんになったら寒いもんなあ」
「んもう、お姉ちゃんったら」
小声の抗議に妹が少し顔を赤らめたのを感じ取って、真那はクスクスと笑う。
真由が可愛くて仕方がなかった。顔に笑みを残したまま、そっと確かめるように真由の頬に
手を添えると、そのまま唇を重ねあう。
「ん……」
「……確か、こうやってお互い唇や舌を吸うとったんや」
以前見たその行為を思い出しながらそう言うと、今度は深く唇を重ねた。小さな真由の
口腔で、互いの舌先が小刻みに触れ合う。飴細工を舐めるように舌先で、
あるいは全体を使って吸い、ねぶる。
「んぅ……ふッ…」
「んん…く……は…ま……真由…」
それは飴のように甘くはなかったけれど、その柔らかな感触は夢中になるのに十分だった。
深く絡めあった舌は時に離れて、時にすするような音を立てながら柔襞を蹂躙し、唇を舐める。
慣れない感覚が下半身を這いずる予感に二人は身悶え、そのこと少し怯えて、身体を離した。

「はァ…はァ……お、お姉ちゃん……」
「だ、だいじょぶか真由ッ?苦しいんやったら――」
「う、ううん…大丈夫……」
発作が始まったのかと慌てる真那に、少し苦しそうに息を弾ませながらも陶然とした表情で、
真由は言う。
「大丈夫だから……続き、しよ…?」
「でも――」
「私も、わかる、気がする――」
今度は真由が真那に抱きつき、先ほどまでの口づけではだけてしまった胸元に頬を押し付ける。
互いの鼓動が重なり合うように感じて、そのことにうっとりとしながら真由は言葉を続けた。
「その、おじさんと、おばさんは、本当に、相手のことが、好きなのよ……お姉ちゃんが大好きだから、こんなに」
「ひぁうッ!?」
気持ちいいのだ、と言葉を繋ぐ真由の濡れた熱い唇が、まだ未成熟な胸の先端に触れた途端、
真那の体が跳ねた。
「お、お姉ちゃんッ?」
「な、なんでもない……なんでもない、けど、……なんか今、びくっとなってもうた……」
突然の快感にやや呆然としながら答える姉を思案深げな眼差しで見上げ、真由は首をかしげる。

「気持ち、よかった……の?」
「ん……うん、なんかむずむずするような……って、真由ッ!? …や、あ……ふぁあん……」
真由の唇が先端をそっと含み、舌先で突くたびに真那の唇から漏れる吐息は甘くなっていく。
表と裏を返して吸い、転がす。無心に求められ、床に突っ張った真那の腕ががくがくと震え始め、
ついには上体を支えられずに仰向けに押し倒される。圧し掛かる体勢になった真由は完全に
相手に身体を預け、片手でもう一方の乳房を弄り、片手で背やわき腹を通って痩せた尻を撫でる。
骨ばって引き締まった男の子のような身体の隅から隅までを、小さな手が蹂躙していく。力の加減か、
身体のそこかしこに触れられるたびに真那は身をよじらせ、ひくつくような声を上げた。
「ふぁッ、やッやぁん……うぅ…ふ……ま、真由ッ…真由…ッ!!」
自分の頭を抱え込むように鳴く姉の姿に言いようのない興奮を覚え、真由は伸び上がるようにして
再び唇を押し当てた。互いの舌を貪りあいながら、汗ばんだ肌を密着させる。すでに固く
立ち上がっている真那の乳頭に触れたことが刺激となったのか、真由のそれもまた少しずつ
固くなり始めた。互いの身体に腕を回しつつ、姿勢を入れ替える。
すでに完全にはだけてしまった着物は汗を吸い、しっとりと重い。

「ん…ふ、お、姉……ちゃん…」
「ま、ゆ……ふぁ…ふ……今度は、ウチの…番や……」
胸への刺激が少なくなったためか、真那が少し余裕を取り戻す。
逆に、それまで攻勢だった真由は身体をまさぐられ、少しずつ乱れ始める。
「やぁ……はぁッ…ぅん……おねえちゃ……」
「まゆ……真、由…」
舌と唇とで胸を優しく苛めながら、わき腹の辺りを軽く触れるようにさする。
拙いが真剣な愛撫に真由の身体は何度も跳ね、身悶えて真那の腕から逃れようとする。
それを無理に引きとめようとはせず、ただ愛撫だけを続けていた真那の唇が、
やがて真由の核に触れた。
「ひゃあんッ!はっ、はぁんッ……やッ…」
それまでとは比べ物にならない快感に貫かれ、真由が大きく弓なりに仰け反ったことが
返ってそこを押し付ける結果になった。真那の舌と歯列に芽を押し潰されて、幼い腰が
勝手に踊る。二人の荒い息遣いが部屋に満ちる中、ぴちゃり、と水音が響いた。
「ここ……なんや、ぬるぬるして……真由……」
「お…ねぇ……だめ、そこぉッ……き、たな…ッ……いぃッ、か、ら……」
羞恥と快楽に押し流されそうな妹の言葉に、真那はそんなことない、と口の中で呟いて首を振る。
その、ほんのわずかな動きが刺激となり、さらに強い快感として真由の奥底を灼きつけた。
急激に燃え上がった欲望の炎に抗する術はいまだなく、
真由は激しく髪を振り乱して全身を突っ張らせ、
「あ……あぁッ…ぅ……ぅあッ、いやッ…あッ、ああぁあッ」
――そして、一気に登りつめた。

「はッ、はァッ、ふ……ふぅ……」
大きく目を見開いたまま、しゃっくりあげるような呼吸を繰り返す真由を抱きしめ、
真那は何度も大きくその背中を撫でてやった。熱く火照る身体は快楽の余波に震え、
歯の根が合わないのかカチカチと音を立てている。つい先ほど小さな肢体に漲っていた力は
完全に抜け、手足は気怠げに投げ出されていた。
――ややあって、それまでぼんやりとしていた瞳に力が戻る。
「わ、私……?」
「――真由、ごめんッ」
今一つ自分の状態が理解できていない風の真由に、真那は勢いよく頭を下げる。
本心からすまなそうに詫びる姉をみて、真由は再び目をぱちくりとさせた。
「ごめんな、真由ッ。苦しかったんやろ?ウチ、その」
「んっ……」
「ッ!?なッ……んぅ…む……ま、真由ッ!?」
言いさした唇を塞がれ、軽く舌を吸われて、今度は真由が目を白黒させる番だった。
「ま、真由、何ッ!?」
「違うよ、お姉ちゃん」
よほど慌てたのか、右手で唇を押さえながら仰け反る真那に、
滅多に見られないものを見たと声をあげて笑ってから、真由は言った。
「私、苦しかったんじゃないの。――ううん、息は苦しいし胸もどきどきいってたし、
ここ……も、なんだかぎゅっとなってて、本当に自分がどうかなったんじゃないかって
思ったけど――私、嬉しかったの」
「嬉しいて……真由…」
「本当に嬉しかったのよ、お姉ちゃん」
もう一度、心底楽しそうに声をあげて笑うと、
「だって、今までよりもずっとお姉ちゃんを感じたんだもの」
と、悪戯っぽく片目をつぶって見せた。

「あ……そ、そうなんか?まあ、真由が喜んでくれたならええんやけど……
せやけど、これはもうしばらくやめとこな。思ったよりよーさん身体に負担かかるみたいやし」
「そうね、残念だけど」
「――?真由……?」
大して残念というわけでもなさそうな口ぶりで同意する妹に引っ掛かりを覚え、
訊ねるように呼びかける。どこか恐る恐るといった姉の様子に真由は可愛らしく笑って見せ、
そして――
「でも、お姉ちゃんは元気だから大丈夫よね」
真那の腰が砕けるようなことを言ってのけたのだった。
「なッ、ちょ、ちょっと待ッ」
「ふふッ、私のほうが妹なのに、変ね。さっきから時々、お姉ちゃんが可愛く見えちゃうの」
「やッ、やめッ……あ……あぁんッ、やぁ……ッ…ひぃんッ」






その後、河原の掘っ立て小屋からは猫の甘えるような鳴き声と、
少しとろりとした水音が時折漏れてくるようになったのだが、それはまた別の話。