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烏の鳴き声で午睡から醒めた。そろそろ探索に出かけた彼らが帰ってくるだろうか。龍斗は床の中で頭
を巡らせた。横座りの時諏佐がこちらに背中を向けて髪を梳いている。抜いた襟から覗く肩甲骨が白い
背に陰影を与え、ぽってりと肉のついた尻の線へと続く。音も無く背後に寄り、肉付きの良い肩を抱き
締め、腋の下の八つ口から手を差し入れた。椿油と白粉の甘い芳香が鼻をくすぐる。
「お止しよ、折角梳いた髪が乱れるだろ」
時諏佐が龍斗の手を払い除けようとする。化粧を済ませ、取り澄ました顔からは半刻前の痴態は思い描
けないだろう。だが、濃厚な時の名残として、寛げられた襦袢から覗く胸元に朱色の痣が散っている。
「あの長屋の男にばれるかな?」
龍斗の意図を察し、時諏佐の眉尻が上がる。櫛を置いた手が振り上げられ、白く柔らかな肘の内側が露
になる。
「馬鹿な事をお言いでないよ」
襟を正そうとする時諏佐の手を掴み、唇を吸った。口紅の味が舌に広がる。抵抗しようとした時諏佐の
足が板の間を蹴る。裾が割れてこぼれた脚が薄闇の中に白く浮かび上がった。膝頭がほんのりと桃色に
染まっている。襦袢と湯文字を捲って手を這わせると、時諏佐が身を捩った。柔らかくたっぷりとした
太腿の手触りは年若い娘の比ではない。太腿の内側に人差し指をつ、と滑らすと時諏佐が体を龍斗に預
けた。縺れ合うように床に戻り、時諏佐の裸身を西日に曝す。豊かな胸と張り出した腰骨、弾力性に富
んだ肌は龍斗がかつて知らなかったものだ。

龍斗の舌が彼女の弱い部分を探っていく。普段、先生と呼ばれている女が嬌声を上げ、彼の求めるまま
に乱れる。紅珊瑚の乳首を口に含んで転がすと、時諏佐が脚を彼の脚に絡めてきた。濃い茂みが龍斗の
腰をくすぐる。
密着した二人の間で時諏佐の重い乳房が潰れた。年増と呼ばれる年齢の時諏佐の肌からはかつての張り
が失われているが、その分しっとりと龍斗の体に馴染む。時諏佐の手が龍斗の陰茎を包み込み、自らの
中に導く。龍斗が腰を突き出す。
時諏佐の指が愛しげに龍斗の筋肉の張った背中を撫でる。最初は江戸に引き止めておく為に関係を持っ
た。若い龍斗は容易く篭絡されたが、いつの間にか時諏佐もその若い体に溺れていた。若さならではの
熱情も未熟さも好ましかった。だが時折、龍斗に抱かれながらヤニ臭い男の腕に抱かれる自分を想像す
る。酒精を漂わせたあの男の唇は退廃の味がするだろうか。
夢想を破るかのように時諏佐の乳首に鋭い痛みが走る。乳房に歯を立てたままの龍斗の目が笑っている。
「先生、今あの男のこと考えていたでしょう」
「……何で判るの?」
否定をする気は無かった。あの男の存在は二人の間では無視できない。
「よく締まっているから」
「馬鹿な子だね」
熱い泥のような時諏佐の中で龍斗の陰茎が溺れる。時諏佐が声を上げ、脚を龍斗の腰に絡めた。時諏佐
が上半身を弓なりに反らすと束ねていない髪が床に広がった。龍斗が腰を入れ、時諏佐の口からあられ
もない声が上がる。決して振り向かない男への後ろめたさは快楽をいや増すだけだった。


時諏佐が鬢のほつれを直しながら、行灯に火を入れる。さすがにその表情からは疲労の色が隠せない。
「連中遅いね。全く、何処ほっつき歩いてるんだか」
「案外その辺にいるかもね」
龍斗の言葉に時諏佐が笑う。が、庫裏の裏側には帰るに帰れない龍閃組の面々が座り込んでいた。各自
説教案を練っているが、苦虫を噛み潰したような男二人よりもにこやかな藍の笑顔の方が恐ろしい。
「……三歩下がって師の影踏まず、と言うべきか、いや、解脱門に通ずる菩提路上にあって、淫虐の振
舞いとは何事かッ!……の方が相応しいか、だが……」
「あの野郎、人が留守の間に宜しくやりやがって……腎虚で死にやがれ。しかし、蝦夷まで聞こえそう
なダミ声だな……」
「………………………………………………………うふふ」
「龍斗クン、不潔だよ!!……って言うか、この犬何処から来たの?」
「ワオオオォーン」
江戸の闇を犬神の悲痛な叫びが切り裂くのだった。