◇既視感◇Act01


 カレンダーに書き込まれた花火大会の印。友達から誘いを受けたのに、行く気がしなかった。憂鬱な気分のまま、当日を迎え断ってしまったけれど。何だか、家にいる気もしなくて、結局、一人で見に行くことにした。
 言い訳が上手く思いつかないまま、そこに行くのも気が引けてしまったので、遠くから花火が見える位置を探すことにした。夜だからか、あまり一目につかない公園を見つけ、一組の親子と同じ空間で見る花火は、どこかいびつな感じがした。
 散る花よりも遅く打ち上げられる音が聞こえるのが不思議で、目を凝らして見てしまう。
最後まで見ていけば良いのにと思いながらも、どうしてもその場にいることが出来なかったのは、浴衣の女の子の嬉しそうな顔を見てしまったせいだろうか。懐かしさから逃れるようにして、程遠くない店に入る。
−この時間にやってるなんて・・・ね
 花火大会の日は夜店が出るから、どこも普段より店じまいが早いのに。隠れ蓑のように、外から見えないような場所を選んで、ゆっくり腰を下ろした。こんな時間に食べるようなものでもないものを食べ、アイステイーを飲む。

カランッ

 閑散とした店に自分以外にも客が来るのかと思って見てみると、どこかで会ったような不思議な既視感を感じた。
「アイスティー、一つ」
 低めの声で、そう言うと、何故か自分の隣の席に座った。不思議な面持ちで見ていると。
「花火。見に行かなかったんですか?」
「あ・・・いえ。見ました。けど、何か・・・」
「そうですか」
 淡々と紡ぎ出された言葉。それっきり、その客は何も言わずに会話を続ける雰囲気ではなくなってしまっていた。
 奇妙な時間が流れていき、その客が去ろうとしたとき。
「また、会いましょう」

カランッ

 聞き返すタイミングを与えないように消えてしまった。
「また・・・・」
 誰も聞いてない言葉を呟いて・・・・
−書かなきゃ
 手帳には花火としか書かれていないから。今日の不思議な出来事も、寝てしまえば夢だと思ってしまうから。
 形にしておこう。


2008/10/15