(おに・・・)
信じられない。夢、として処理したいような光景。私の前にオニが立っている。二本の角、醜い容姿、人の三倍はあろうかという巨躯。恐ろしい。褶曲した大きな爪が伸ばされてくる。殺されるんだろうか、連れてかれるんだろうか、喰われるんだろうか。いずれにしろ断固、受け入れたくない未来。逃げなければ。しかし足が竦んで動かない。気持ち悪い色をした腕が頭上にある。―――捕まる。頭を握り潰されて、脳みそが飛び散って、それもお構いなしに鬼は私の腕を喰い、脚を喰い・・・。悪戯でもなんでもない、死を間近に感じる。この先を想像することをやめた。少しも望めない生。どうしたって無事などなく、死がある。自然に生の望みが絶たれるとき、なにかを切り裂く、鋭い音がした。
「やっと見付けたぜ」
ぼとん、と呆気もなく切断され宙を舞った腕が地に落ちた。目の前に立っているのは、学ランを来た少年。握られているのは、ギラギラと黒光る液体を滴らせる刃の・・・、日本刀。
(なに、この人・・・)
見つけた? 鬼に言い放われた言葉。この少年はオニを追っている?
「あんた、早く逃げな。とばっちり受けても知らねえぞ」
警告されたって、既にへたりこんでしまった。脚に力がはいらない。直ぐ近くには不気味におにの腕がひくひく痙攣している。切り裂かれたのは、これか。ああ、あの、刀で。
「きみ! 待ちなさいってば、説明して!」
若い女性が破れ乱れた服を寄せ合わせて、駆け寄ってくる。服の一部は赤黒くて、隠しきれていない服の合間にあるはずの肌色は抉られているように肉が見えている。非現実の連続。これは一体、
「・・っなん、なの・・・!!?」
オニも、オニを切り裂いて少年も、少年を追う腕の抉られた女性も。
現実として受け入れたくないのに、やはり悪夢とも言いがたい禍禍しい空気の感触。一瞬、意識が飛びそうになるのをなんとか堪え、この場から逃げたくてお尻を擦らせつつ後ずさる。徐々に遠ざかる日本刀の少年と女性と、オニ。はやく安全なところに、家に帰らなきゃ。力を込めて下がった瞬間、なにかに頭をぶつけた。擦り切られた意識は、あっさりその衝撃で崩れ落ちた。