「その方には暫し此所で待っていただこうか」
ああ、はあ、わかりましたと考えなしに反射で頷くと、二人は部屋へ入っていった。暇つぶしの道具も持っておらず、真正面に戸を見据えるように壁に寄り掛かり彼等が出てくるのを待つ。くるくる指を交わらせたり捻りを掛けていても一向に戸が開かれる気配もない。室内から漏れる音もない。話し声もなにも聞こえない。背中と壁が擦りあい、ともに視線は低く下がる。
(あたし・・なんなんだろう・・・・)
いまの日常のやるせなさ。腹立たしさ。あの人がやってきてから、屈辱感ばかり味合わされている。遠呂智が始めに現われたときにでも、こんなことなかった。なかに居るであろう人物を扉越しに睨む。光線が出せたらいいのに。

す、と戸が開かれ、億劫さを感じつつも頭をあげる。冷めた色の目に捕らえられる。なんだ、この眩暈。
「・・・なにをしている」
白髪の仙人は鼻にかけた言葉を吐き捨て、足早に去っていく。
行かないと、だめだ。立ち上がろうにも頭がくらくらしてなかなか立ち上がれずにいると、大きく、ごつい手が目の前に、にょき、と。
「すまんな、坊主が。立ちあがれるか?」
あなたに謝られても、仕様がない。召使いのような扱いから抜け出せるわけでもない。やるせない思いが晴れるわけでもない。白髪の男と同じくせに。
無性に腹がたち、左手にに触れそうになる指し伸ばされた手を無視して壁に頼る。八つ当たり。そして自己嫌悪。歩を進める脳内で黒い霧がたちこめる。