バリン


「あ・・・・・・」あー、あ・・・。
粉々になったガラス片が散らばっている。状況を認識してやってしまった、と思う。辺りを見回して、片付け始める。誰もいなくてよかった。誰か来る前に終わらせなきゃ。先輩に怒られる。やだ。やだ。ひやり、冷たいものが体中を支配する。どうし、よう。ばれたら、どうしよう。やだ。やだ・・・。










「おはよう、。いつも早いね」
「ヴェイン先輩、おはようございます」
「そんな所にに立って、どうかしたの?」
「あ・・・・・・、いえ、別に、なにも・・・」
ヴェイン先輩に相談しようか、迷った。割ったフラスコの処理はしたけれど、補充はできてない、から。あの先輩なら絶対気付くし、他の人たちだってきっとわかる。今は誰も来てないし、この人だったら、解決してくれる可能性もあるし内緒にしてくれる、と思う。絨毯に胡坐をかいたのをこっそり一目見る。優しい人だから、きっと大丈夫よね・・・。
「あの、せん、ぱ、い」
「ん、  」
「おっはよー!」
少し開かれた唇をそのままに、元気のありあまった声の元を辿ってゆく。「ニケ、おはよう」
「あれ、ヴェインとだけ? アンナは? いつも一番なのに」
「まだ来てないみたいだよ、ね、
「え、あ、そうですね・・・。えと、すみません、講義の時間があるので、行ってきます・・・」
「戦闘学じゃないよね? 今度は一人で外に出ちゃ駄目だよ」
「ええ、わかってま す」



「君たちには、ランドーを採ってきてもらってグリーンスープを作ってもらおうかな。できたら私に見せるように」
はーい、と答えが広がる。各々早速教室を飛び出す人もいるし何人かで輪を作って話しているところもある。千年樹に行くの初めてだわ。俺ブーメラン苦手なのになあ。がやがやする教室の隅の席で一つ溜息を吐く。どうしよう、千年樹か・・・。アトリエを覗いてみようか、時間があるようだったら、言ってみよう・・・。


いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい。抉られた腕を軽く覆う。それだけで血がべっとりと手の平に染みつく。ヘルファングが追って来ていないのを確認して、膝をついた。「うー・・・」ずず、と鼻をすする。早く採取して、帰ろう。ズグンと鈍い痛みも血の波打つ音も無視していくつも梯子を上る。やっと採取場に繋がる通り穴を見つけると、お約束なのかな、分かれ道にモンスターがいる。どっかいけ、どっかいけなんて念じてもそのモンスターは少しも動かない。あれを飛び越すこともできなくて、でも出血の量が増えて視界が霞んでいく。ランドー、採らなきゃ・・・。ぐ、と足のつま先に力をこめる。行かな、きゃ。此処まで一人でこれたんだもん、あと少し、もう少し走ろう。


自分の存在が恥かしい。こんなになってまで走る姿はどれだけ惨めに映るんだろう。周りからの視線を気にしては肩身を狭めた。どうして私がこんな思いしなきゃ駄目なの?



「う・・・、あ?」
「あ、起きたよ!センセー!」「大丈夫? 傷は痛まない?」「フィロ特製のお薬飲んで早く治してね」「それでは治るものも治らないだろう」「もう、心配したんですよ!」「全くだ、世話が焼ける」「ムー、無茶ヲスルナ」
保健室で目が覚めたときはアトリエの皆が傍にいてくれてなんとなく嬉しかった。言われたことを守らなかったのに厭きずにいつもの調子で、話しかけてくれる。いまは、私だけに。申し訳ないっていう気持ちよりも、みんなが優しさが染むようにして感じられて、静かになったベッドで落涙させてしまった。
今日はよく泣いたなあ。一人ごちって瞼をおろした。