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僕があの子の家に行くと、あの子は大抵暇そうな病人のように上半身だけを起してベットにいる。まさか、一日中、二十四時間同じ体勢で居るとは思えないけれど、僕が見れるのは彼女の着流し姿の、それだけだった。 はぽつりと未来を云い零してしまうことがある。それが気分を害すことばかりだからと話そうとする人はそれから聞いたことがない。望ちゃんも、用がないから、と言い訳して此処にくることは全くない。前に一度、君を訪ねる人はいるの? と訊いたら、「居るわよ」と答えていた。それが誰なのか、気になったけど干渉しすぎるのもどうかと思ったし、失礼な尋ね方をして悪い気がしたから追求はできなかった。こんにちは。彼女からもこんにちはと挨拶。 「外に出ようよ。今日は特に風が気持ちよかったんだ」 「・・・そうね、久しく起きるのも、いいわね」 じゃあ、行こうか。手を差し出してが立つのを手伝う。立ち上がった瞬間少しふらついていたから心配になってそのまま手を引いて歩き出す。彼女の足取りはまだ覚束ないようで、ゆっくりだった速度を更に下げたとき、突然が足を止めた。 「あなた、もう来なくていい」 「どうして?」 「私、もうすぐ死ぬから」 それを聞いて疑問が浮かぶ。あれ、って仙人じゃなかったっけ。 仙人界に居住している以上仙人、又は道士であることは間違いないだろうとおもっていた。そうでなくても、は七十くらいの容姿にしか見えなかった。僕とも望ちゃんとも、たいして変わらない。なのに死ぬ、なんて。冗談を言える間柄じゃないし、がそんなことを言うイメージなんて持っていない。はなにを言っているんだろう。わからなくなって無言でいると彼女は僕を納得させようとする言葉を紡ぎだした。 「私が人になにか云い与えると、私の生きる時間は大幅に減ってしまうの。でもどこかからイメージが送られたとき早く言葉にしなければならない気持ちになるの。私の中に溜めてはいけないものたち。貴方にも何度か先のことを伝えたことがあるわよね。それが高く積もったの。私の母はね、下界で数えて二十五までしか生きられなかった。あの人、死ぬ間際、私に云ったわ。『次はあなたよ』、って。母のものだったこの能力が私に移ったように未来が見えるようになった。あなた、私と居ては駄目よ。看取りに来ては駄目よ。あなたはもう来てはいけない」 大きく息を吐いて、はベッドへ踵を返す。僕はいまのことを整理していた。話自体は難しくもなんともない。そこじゃない。やっぱりわからないんだ。が死ぬなんて。タオルケットを膝にかけるをぼんやり見つめて、まさか、と考えた。まさかが死ぬことなんてない。彼女は僕が嫌いでそんなことを言ったんだ。彼女が自分の未来を予言するなんて、今まで聞いたことがないもの。ああ、なあんだ、そうなんだ。嫌われているという事よりも、が死なない事の方が大事だった。そうなんだ、と一人で頷くと、が怪訝そうにこちらを見た。そういうことなんだ。 「僕、今日は帰るよ。また、明日くるから」 哀しそうな表情に替えた僕を見るを気にせずに扉を開いた。 そういうことなんだ。 |