神罰を頂戴



暗闇の中、人肌のぬくもりを感じながら眠る。
情事を終えた後のこの時間が、実は自分は情事そのものより好きなのではないかとククールは思っている。
ぴったりと体を寄せ、互いの溶け合った体温を感じながらまどろむ至福。
毛布一枚で外と切り離された甘い闇の中には満ち足りた幸福しかない。
こんないいことを、ここの連中は禁じているなんてね――皮肉っぽくそんなことを思いながら、ククールは隣に眠る若者の髪をいたずらに梳いたりしていた。
そこへ無粋なノックの音が聞こえてきた。
途端、同じ幸福にまどろんでいたはずの若者が慌てて身を起こし、床の上に脱ぎ散らかした衣服を拾い集め始める。
あせっているのか普段なら間違えようのない、ククール専用の真紅の騎士団服に袖を通そうとしている。
甘くはかない幸福があっけなく破られたことを悟り、ククールは内心ため息を付きながら身を起こした。
誰だ? 全く、邪魔しやがって。
「それオレの。お前のはこっちだろ」
ベッドの足に引っ掛かっていた青い騎士団服を放ってやると、若者はまだ幼さの残る顔を赤らめいそいそとそれを着始めた。
しかしノックの主は彼の身支度が整うまで待ってはくれなかった。
ドアが開き、外に掲げられた明かりの火が薄暗い室内に差し込んでくる。
毛布の次は部屋という結界まで破られてしまい、ククールはぶすっとした顔付きになった。
これで今夜の夢はおしまい。
ここはもうただの聖堂騎士団内の一室で、自分は団きっての問題児に逆戻りだ。
ぬくもり以外何もない、都合のいい繭は消えてなくなってしまった。
それにしてもこんな時刻に一体誰だろう。
ククールは服を着る気にもなれず、ふてぶてしくさえ見える態度でベッドに転がったまま訪問者を迎えた。
大方団内の誰かが酒の誘いにでも来たのだろうと踏んでいたのだが、そうではなかった。
義理の兄のマルチェロが、口元を歪めてそこにいた。
「マルチェロ、様…!」
ひっくり返った声で、ようやく服だけは身につけた若者が絶叫する。
マルチェロはじろりと彼をにらみ、片手を上げて指先をついと外へと向けた。
出て行け。
そう言いたいようだ。
「おお、お、お休みなさいません、で、では私はこれでっ」
どこから出しているのか妙に甲高い声で叫び、彼は部屋の外へと走り出てしまった。




さすがにマルチェロがやって来るとは思っていなかったククールは、一瞬毛布で体を覆おうとした。
だがそれも一瞬のことで、小首を傾げむしろ挑発するように兄を見上げる。
毛布はその腰から太もも辺りを覆ってはいるが、肩から胸とすねから足先までは丸見えの状態だ。
どれだけ自分を嫌っている相手でも、自分の容姿を「醜い」と蔑むことは出来ない。
そうと知っている青年は、自然体を装った媚態をさらしからかうような声を出した。
「何の御用で?」
マルチェロは彼の体を石ころでも見るように一瞥し、こう言った。
「噂を確かめに来たのだが、本当だったようだな」
後ろ手にドアを閉めたマルチェロがククールの側に近付いて来る。
予測しようのない素早さで片手を振り上げ、彼は弟の頬を打った。
とっさのことで避けることも出来ず、ククールは銀の髪を乱して顔を横にうつむけた。
「この恥知らずが。女では飽き足らず、男、しかも騎士団内の年端もいかぬ少年にまで手を出すとは。恥知らずが!」
恥知らず、という言葉を強く二度繰り返したマルチェロの眼は冷たい怒りに燃えている。
ククールは痛む頬を押さえ、乱れた髪をかき上げて思いきり優雅に笑って見せた。
「こんなところにあの若さで入れられたんじゃ、楽しいことなんて何一つ覚えられませんからねぇ。せめての情けをかけてやっただけですよ」
「そういうのはつけ込んだ、というのだ。己の欲のために貴様は何ということを……!」
蔑みの視線を浴びせる兄の台詞にある違和感を感じ、ククールはおやと思った。
もしかして、誤解されていないだろうか。
「団長、一応言っておきますけど、オレ女役ですよ?」
マルチェロの怒りは、戸惑いによって瞬間的に緩和されたようだった。
いつもの鉄面皮に戻った彼を見上げ、ククールは不遜な笑みを浮かべる。
「あんなガキにオレが突っ込むんじゃ、さすがにかわいそうでしょ。イイこと覚える前に壊れちゃいますよ」
くすくすと人をくった笑い声を上げながら、彼は思わせぶりにこう続けた。
「オレは適性があったみたいだけど」
その言葉にマルチェロの眉が寄る。
さも不快そうなその顔を見つめ、ククールは睦言を口にする時の切なげな表情を作った。
ふざけたような敬語口調もやめて、ささやくように彼はこう言った。
「知ってるだろ? 兄貴。オレがどんな風に……」
どれだけ長い間放っておいた女でも、あるいは男でも、この顔とこの声で迫れば許してくれる。
だがマルチェロは目元に不機嫌なしわを寄せただけだった。
「気安く兄などと呼ぶな」
この雰囲気で鼻先をぴしりとやられては、ククールも苦笑するしかない。
ああ、いつもの手は通じないのだ。
分かっている、分かっているさ、畜生め。
「……知ってるだろう、団長様。あんた見てたんだからさ。オレがやられてるの」
マルチェロがもっと不快そうな顔になった。



***

母親違いの義理の兄弟である二人がこの修道院で出会ったのは、二人の父親が負の遺産のみを残してこの世を去った後だった。
一度はマルチェロを後継ぎとして認めておきながら、正妻の子であるククールが生まれたことを理由に父親はマルチェロ親子を身一つで追い払った。
その後間もなく母親は失意の中で死亡。
修道院に行くことを余儀なくされたマルチェロの心の傷に、ようやくかさぶたが貼り付き始めたころだ。
わずかな持ち物の詰まったずた袋を抱え、全てを失ったククールが修道院にやって来た。
汚れた服でかろうじて身を包み、素晴らしい銀の髪もあちこちに木の葉やごみくずが絡み付いていた。
宿を取ることが出来ず、その辺りの軒先などで眠っていたためだ。
享楽家でだらしのない暮らしをしていた二人の父は、死した後残すべき遺産など何も持っていなかった。
それどころかそれまでの放漫ぶりゆえに誰の同情も集めることが出来ず、凋落を嘲笑い残された関係者をいたずらに害する者まで現れる始末だった。
ククールは逃げ出すようにして生家を後にしたのだ。
修道院長は心優しい老人であったから、ククールの父親の乱行ぶりを知っていても優しい笑顔で彼を迎え入れた。
マルチェロも彼が義理の弟だと知った瞬間怒りを隠せず、「出て行け」と罵ったが、院長の決定に逆らうことは出来ない。
表面上の付き合いだけにとどめておけばいい、そう思ってか以降これといった手出しなどしてくることはなかった。
だがそれは、院の総意ではなかった。
修道院の中にも二人の父を好ましく思っていなかった者は少なくなかったのだ。
領主として巻き上げた金を湯水のごとくに使い、時には近隣の娘にまで平気で手を出そうとしていたことなどを考えれば当然だが。
マルチェロ親子については、領主の身勝手に振り回されたのだと周囲は同情的だった。
マルチェロ自身勤勉で優秀であり、黙々と勉学や鍛錬に勤しむ姿は不幸に負けない強き者として人の目に映った。
その分ククールに対しては、あれが生まれたせいでマルチェロが、と、本人以外の人間たちの方が奇妙な義憤に駆り立てられていた。
加えてククールは美しい少年だった。
みすぼらしかった身なりを整え、きちんとした服装にさせてやると、血筋を思わせる高雅な美貌はいやでも人目を引いた。
女性との接触が禁じられた修道院の中で、彼の容姿はあまりにも罪作りなものだった。
おまけにククールは剣にも勉学にも才があり、無邪気に他の団員たちを追い抜いて得意げな顔をしていた。
冷たい目をはねのけるべく努力する姿すら、逆効果にしかならなかった。
彼らが見たかったのはおぼっちゃまが打ちひしがれ、どうか仲間に入れて欲しいとすがりつく姿だったのだ。
事件はククールが修道院に来てから三年後に起こる。
それまでにも何度か、体に触れたり卑猥な言葉を投げかけるだのといった嫌がらせはあったが、決定的なことが起こったのは団の地下にある拷問室でだ。



***

「オレ、あの時兄貴の名前で呼び出されたんだよ」
マルチェロ様が呼んでいるぞ、来い。
そんな言葉に不審は感じたが、それよりも彼の方が自分を呼んでくれたことが嬉しかった。
顔を合わせれば顔を背けられ、話しかければ無視されるといったことが出会って以来ずっと続いていた。
やっと和解の糸口を掴めたのだ、とうとう認められたのだと、心が躍ったことを覚えている。
「そしたら数人がかりで押さえ付けられて、これは神罰だって、何度も、何人も」
「よさないか、汚らわしい」
冷え冷えとした声でマルチェロは義理の弟の言葉を遮った。
ククールは取り付く島もないその顔を見つめ、かすかに瞳を細めた。
いつの間にかその瞳は熱を帯び始めていた。
「目隠しされたままだったし、混乱してたから、オレ、最初は本当に兄貴がオレを犯してるんだって思ってたんだ」
マルチェロがまずいものでも口にしたような顔になるのに構わず、ククールは兄を見上げて語り続ける。
「あんたは何にも言わなかったけど、あんたが兄貴だってことはいつの間にか知ってた。おにいちゃん、なんてとても呼べそうになかったけど、あの時は何度も呼んだ。おにいちゃん、おにいちゃんって。そしたらいろんな声が笑いながら言うんだ。ああ、おにいちゃんだ、お前のおにいちゃんだってさ」
裸に剥かれ、視界を閉ざされたまま、一方的に繰り返される陵辱。
やがてこちらも何も知らずに呼び出されて来たマルチェロが見たのは、精液にまみれ半分意識のないまま団員たちに取り囲まれているククールだった。
すでに目隠しは取り去られていたが、空を見つめる虚ろな瞳は何も見てはいなかった。
汚い布の上に仰向けに寝かされ、がっくりと後ろに頭を垂れた状態で揺すぶられ続ける銀髪の少年。
当事まだ青年、と呼ばれる入り口の年齢だった団長見習を見て、その弟の中に突き入れたまま年かさの団員が得意げに言う――
ほら、本物のおにいちゃんが来たぞ。
その言葉に半ば閉じられていたククールの目が開く。
涙にはれたまぶたの下、瞳を壊れそうなほどに大きく見開いて。
おにいちゃん。
呆然と立っているマルチェロを認め、そう言った。




「兄貴、なんであの時オレを犯してくれなかったの?」
あの時のように、黙ったまま自分を見つめるマルチェロを見上げククールはそう彼をなじった。
「あんた、見てるだけだった。ずっと。あの聖像みたいに、あいつらにめちゃくちゃにされてるオレを見てるだけだった」
悲鳴も枯れ果てたはずだったのに、義理の兄の姿を認めた途端ククールは大声を上げて泣き叫んだ。
体をよじり、抵抗する少年を左右から捕らえて足を開かせ、団員たちは凍り付いたように立つマルチェロの前へと差し出した。
お前の番だ。
やってやれ。
神罰を与えてやるんだよ。神罰を。
だがマルチェロは首を振り、黙ってそこに立ちつくした。
団員たちは彼が観戦に回った、そういう責め方を取ったのだと見て、下卑た笑い声を上げながら再びククールを取り囲んだ。
ほら、おにいちゃんによく見てもらえよ。
そうして白濁に満たされた最奥をまたえぐられながら、ククールはマルチェロの冷めきった視線を感じていた。
彼は全くの無表情で、けれど出て行かずにそこにいる。
分かっている、彼の気持ちなど。
憎い義理の弟が自らの手を汚さずに貶められていく過程には興味がある、その程度のことだろう。
でも兄が見ている。
顔を合わせず、言葉も交わしてくれなかった兄が見ている。




「下らない、汚らわしいことだ」
マルチェロは毛ほども表情を動かさず、一言そう吐き捨てた。
「あいつらは元々素行が良くない連中だった。私のことにかこつけて、見目がいいお前をもてあそんだに過ぎん」
「そうだよな。あんた、あのことをぼかして報告してあいつらを修道院から追い払っちゃったもの。うまいことやるもんだよ。腐っても貴族の子弟、よっぽどのことやらかさなきゃ出て行けなんて言えないもんな」
すねに傷持つ彼らは、散々に悪態を付きながら修道院を出て行った。
うち何人かは出て行きざまにまた――思い返して、ククールは奇妙なうずきを覚え小さく唇をなめる。
「あれ以来、オレ、男とも女とも何人も寝た。でもあの、一番最初のアレが忘れられないんだ」
「そんなに奴らが良かったのか?」
蔑むその目。
その口調。
いよいよたまらなくなって来て、ククールはぎゅっと毛布を握りしめた。
「あいつらなんかより、あんたのその冷たい目が最高に燃えたんだよ。あんたが見てる、それだけで興奮した」
長い銀のまつげを震わせて、彼はうっとりと兄を見上げる。
敬虔で従順な信徒さながらのその姿を、マルチェロは黙って見下ろしていた。
「あれで分かった。あんた、オレの神様なんだ」
何の感情もなく、ただ見ているだけ。
泣こうが喚こうが見ているだけ。
聖堂内のあちこちに掲げられた石像と同じ存在。
「なあ、神罰を与えてくれよ。オレ悪いことしてたんだ。罰してよ、神様。そしたらもうガキを誘惑したりしないからさ」
悪びれない顔で言っておいてから、挑発的に付け加える。
「……それとも、もしかして神様って童貞?」
そう言った途端、ククールは引っぱたかれてベッドに沈んでいた。
「ってぇな」
毒づいて身を起こそうしたのも束の間、重いものが体の上に乗り上げて来る。
それがマルチェロだと悟った時には、ククールの体からは毛布がはぎ取られていた。
マルチェロは自らの手首にかみ付くようにして手袋を取り去り、それをククールに向かって投げ付けた。
「淫売が」
毛布をベッドの下に落としたマルチェロが、ぐいとククールの足を開かせその奥へと指を差し入れてくる。
先の若者との行為によってまだ潤っていたそこは、前触れがなかったに関わらずスムーズに彼の指を飲み込んだ。
んっ、と声を詰まらせたククールを眺め、マルチェロは淡々とした声で告げる。
「そんなに罰が欲しいのならくれてやる」
「んっ……、ちょうだい、神様……」
早くも息を荒げ、ねだるように言う弟の中をマルチェロは乱暴に探る。
通常ならただ痛いだけのはずのやり方に、ククールは信じられないほど昂ぶる自分を感じていた。
もっとと言うように、右手を彼の手に添え催促する。
マルチェロは侮蔑のまなざしで彼の痴態を見つめ、空いた片手をその胸へと伸ばした。
容赦のない力で乳首をひねってやると、ククールは歓喜の声を上げて兄にしがみつこうとして来る。
その手を払い、マルチェロは彼を完全にベッドに倒してしまった。
程よく筋肉が付き、すんなりと伸びた足を抱え上げ、その奥を指先でこね回す。
「ああ……神様、いい……ね、来て……!」
「まだだ」
我慢出来ないと誘うククールを無常に突き放し、マルチェロはなおもそこを攻め続ける。
ククールはとうとうすすり泣くような声を上げ、早く、早くとねだった。
「こんなことで感じるのか? 最低の淫売だ、貴様は」
あきれ返ったように言うのを聞くたび、背筋がぞくぞくする。
ククールは苦しそうに眉を寄せたまま、あえぎに乗せてつぶやいた。
「ん……、オレ、悪い子……です、罰して……神様ぁ……」
彼のものは後ろの刺激と乳首をひねられたことだけで完全に立ち上がり、マルチェロの眼前にはしたない姿をさらしていた。
解放を待ちわびるそれを一瞥し、マルチェロはククールの腰を抱え上げた。
「ああ……んッ」
服の前を開いたマルチェロの、逞しいものがククールの濡れそぼった入り口をなぞる。
あやすように数度そこを通過した後、ぐちゅりと音を立てて太い先端が中に埋まった。
「あはぁっ! あん、いいっ…!」
「自分で足を抱えていろ」
一突き目で達してしまいそうな快楽を感じているククールに、マルチェロは冷たくそう命じた。
ククールは言われるままに自ら足を持ち上げ、動き始めた兄を助けた。
「あッ……あッ……すご……すごい、神様ぁ……」
腰を打ち付けられるたび、ククールはびくびくと全身を震わせてよがった。
ぬめったいやらしい音が二人の間で響く。
マルチェロも段々無表情ではいられなくなってきたようで、時折小さなうめきを漏らしながら弟の体を攻め続けた。
「ああ……あっ……神罰、神罰を……ちょうだい……」
抱えていたはずの足を離してしまい、うわごとのようにそう繰り返すククール。
その更に奥へとマルチェロは腰を進めた。
ひくつく内部がそれに応えるようにきつく締め付けてくる。
マルチェロもとうとう快楽を堪えきれなくなったのか、ククールに覆い被さるようにしてその中に熱を解放した。
「ああッ……おにい、ちゃん……」
身の内に広がるものの感触を味わいながら、ククールはここぞとばかりに兄にしがみつき、そうつぶやいていた。 



***

「いいか、何度も繰り返すがここは修道院だ。お前はここでは一人の僧侶に過ぎない。おとなしく皆に混じり、職務をこなすんだ。分かったな」
「……」
「男遊びも女遊びも控えろ。だが、他の団員たちに手を出すぐらいなら私のところへ来るがいい。ただし次はこの程度では済まさんぞ」
「……はあい」
一度目の絶頂も覚めやらぬまま、立て続けに二度抱かれたククールの口からはもう素直な返事しか出て来ない。
素裸でうつぶせにベッドに横たわり、普段の格好付けもどこへやらすっかりぐしゃぐしゃになった銀髪をシーツの上に投げ出している。
お説教を終えたククールの神は、自分だけさっさと身支度を整えて振り返りもせずに部屋を出て行ってしまった。
ククールはベッドに横たわったまま、返事はないと分かっている「おやすみ」の言葉をつぶやいて彼を見送った。
床に落ちていた毛布に手を伸ばし、拾い上げる。
そこには本来の今夜の相手だった若者のぬくもりはもう残っていない。
ククールはそれにくるまって、自分一人の力で甘い幸福の繭をもう一度作った。
度重なる行為にさしもの彼も疲れきっている。
すぐにとろとろと眠りが押し寄せ、ククールは無意識の内に毛布を抱きしめて目を閉じた。
彼の神は口説き文句など言ってくれない。
優しい愛撫でとろかせてもくれない。
汚れた体を拭いてもくれない。
終わった後いっしょに眠ってもくれない。
あの時と同じだ。
まだ、まだ自分は団員たちに犯されているというのに、もう十分だとでも言うように引き上げていく兄。
終わりの見えない陵辱の中、彼の視線だけがどこかでククールを支えていたのに、彼はそれすらもあっけなく取り上げてしまった。
いい子でいても神様は助けてくれない。
幼い日にそれを知った。
物心付いて間もなく父が死に、訳も分からない内に四方から責められて、食べる物もなく独りぼっちでさまよい歩く羽目になったのだから。
やっと見付けた居場所には血の繋がった兄がいて、けれど彼はいつまでも果てしなく遠く冷たかった。
勉強しても、剣の稽古をしても、認めるどころかこちらを向いてもくれない。
他の団員たちも彼にならえの状態で、がんばってもがんばってもほめてくれるのは院長だけ。
いい子でいても神様は認めてくれない。 
けれど悪いことをすれば、神様の存在を一瞬でも間近に感じることが出来る。
団の地下、兄の名を騙り笑う男たちに汚されたあの時、やって来た兄の目は確かに自分を見ていた。
さっきまでも。
だったら悪い子になろう。
もっと、もっと悪いことをしてから彼のところに行けば、もっとひどくしてもらえる。
もっと長い間してもらえる。
神罰をちょうだい。
神罰をちょうだい。
神罰でいいからちょうだい、神様。


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