「他人に関しては一切関知しないユニットですが、こと殖装者に関してはかなり綿密に治療していくようですね」
「長期間身につけられるものだから、殖装者に大きな恩恵がなければなるまい。心理的な不具合への治療効果も、高度な生物では多くの場合必要になるはずだ」
「実際にトラウマを解消するといっても、記憶を改ざんしたり、人格を変えたりするわけじゃないんですよね」
「それは個性の損失になるから、まず無いと考えて良いだろう。殖装者の個性の範囲内であれば、多少の干渉で変化させることはあるだろうがな」
「トラウマを感じさせないようにするわけですから、何らかの心理的変化があるはずですね。それがどういうものかはわかりませんが」
「一番簡単な方法としては、父親の記憶を遠い過去のように感じさせることだな。無論、それをそのままやったら記憶の改ざんになるから、そう感じさせるようにトラウマに対する反応を神経生理学の面から薄くさせるように運ぶのだろう」
「確かにそれなら無理なく治療効果も望めそうですね」
「さらに、深町の場合は幸か不幸か瑞紀が傷つくことでトラウマを乗り越えるきっかけを得られた。これをユニットが利用しない手はない」
「アプトムから瑞紀を救い出すために再殖装したのは、深町独自の心理的行動ではなかったのですか? ちょっとショックです」
「確信を持って言えるわけではないが、ユニットの心理作用がそこに全く及ばないとも考えにくい。無論、深町が瑞紀を大切に思わなければ始まらないから、それによって父親の死のショックをかき消すのは、ユニットを殖装していようとしていまいと、長い目で見たらあり得ることだ。ユニットが干渉してないように見えても、実のところはどうなっているかはわかっていないから言い様は色々あるということだな」
「深町は自力でトラウマを解消したと思いたいですが、脳の記憶まで再生してしまうユニットが何もしないとも考えにくいですね。瑞紀のことをきっかけに、一種にトラウマから解放された深町をそのままぶり返さないように固定させ維持した、そう解釈もできます。それを固定させることは心理干渉にあたりますが、その選択をしたのは深町自身なので文句の言いようもありません」
「干渉と見るか恩恵と見るかは意見が分かれるところだな。ユニットを身につけた以上、その影響下にあることは否めない。殖装者は、リムーバーを使われるまでは納得するしかない。ユニットと共に生きるというのは、人間の立場から解釈の難しいところに位置しているようだな」