「現代医療ではまだ手の届かない再生力をユニットは備えていますね」
「再生できれば、基本的にどのような病気にも対処できる。肉体ごと取り替えれば済む話だからな」
「すごいのは、脳が破壊されても問題なく再生する点にありますね。自我も脳を失った当時のまま再生しますし、個性も安定的に保たれるようです」
「全てはメタルの所作でもある。メタルの安全性が大前提であるから、本来は強固な宇宙船から外にあまり出るような仕様にはなっていないのかもしれんな」
「それでも、万が一の時の対処としては十分です。身につけた殖装体が元々強い代わりに、再生能力に欠けることが欠点であればユニットを身につければかなり完全に近いところになります」
「でも、脳以外の再生ならともかく、脳が再生されると「個」としての概念がかなり曖昧になりますね。脳を失うようなことが一度でもあれば、実質的にその殖装体は一端は死を経験するわけで。といってもその経験すら脳が破壊されては残りませんが」
「脳以外の部分で恐怖を記憶しているなら、体感的にあり得ないこともないが、今の生体学ではそのあたりの検証もまだ難しいだろう。現時点では、脳を失った=死であり、脳死と共にその経験も無くなるということになる」
「死の記憶はメタルには刻まれませんが、それ以外の個性については記録し、それに沿って再生をすることはわかりますが、実際にはどのように再生するんでしょうね」
「殖装者の遺伝子も用いるなら、人体に備わっている元々の再生力を促す程度になる。が、それすら不要である場合、完全にメタルの記憶のみを持って再生する場合、再生とは別の概念の細胞構築性能がユニットにはあるのかもしれん」
「うーん、それは強殖組織を元にして人体を培養するということでしょうか?」
「結果的にはそうだが、培養という概念とは違う。培養は飽くまで遺伝子の構造を必要とする増幅法だ。メタルが遺伝子を解さずに復元する方法は、細胞を直接的に構築させることにあると推測している」
「でも、それだと培養とあまり差がないように思うのですが、どこか違いはあるのでしょうか?」
「遺伝子を用いる場合、その破損状況によっては再生が難しい場合も生じてしまう。また、遺伝子に沿った再生では元の個体と大きく異なる成長度合いを示す場合もある。ユニットに必要なのは、肉体を失った当初の個性の復元なのだから、一辺倒に再生しただけでは機能としては完全ではなくなる」
「そう言われると確かにそうですね。考えてみれば、普通の再生ではあのように短時間で修復は難しいです」
「高速再生の面からも復元というに等しいが、いかんせんそこまで高度な再生技術はまだ概念としては把握すら難しい」
「強殖組織の高い再生機能が全体再生に何らかの影響を与えてもいそうですし、それを基礎として培養という考えもまだ捨てきれないところでもあります」