「殖装時に呼気の排出がこの開口部から行われますが、不要な成分をこの時点で排出しているのでしょうか?」
「生物は基本的に代謝が必要で、常に排出物は生産されている。殖装時点で不要な物質を呼気として排出するにしても、結局は別に排出を続ける必要がある」
「殖装前後で肉体に貯まった物質を除外し、肉体を最適に保つという考え方はどうでしょうか」
「そういう考え方もあるが、呼気にはそれとは別の要素もあるように思う」
「殖装状態を思い起こすと、激しい運動にも関わらず呼気を荒げることがなかった。このことから考えられることは何だろうか」
「ユニットが効率良く酸素供給を行っているということなのでしょうか?」
「そうかもしれないが、液体で満たされた状態でも平然と行動できたことを考えると、最低でも皮膚呼吸、もしくは全く呼吸が不要なのかもしれない」
「生物の常識を考えると、無呼吸化するのは驚きですね。やはり宇宙で行動するための措置として必要な機能ということでしょうか」
「仮に無呼吸状態となっているとするなら、ユニットが真空状態でも酸素呼吸を何らかの形で代替していることになる」
「もしくは、殖装状態で中の人は酸素が不要なように改変されている可能性もありますね」
「そう考えられなくもないが、生物体を効率良く保つには、無理な改変は負担にもなる。そこまでできるなら、素体を基礎とした殖装ユニットであるなら、素体をそこまで変化させるというのも問題がある」
「殖装状態は色々考えられるので、このことは憶測の領域を出ませんね」
「そうだな。無呼吸化については、外部環境から殖装者を守るためには必要になる。環境適応もユニットの大事な役割で、殖装するだけで人間には不可能な領域での活動が可能になる」
「そうですね。口による呼吸は、目や耳以上に致命的になる恐れがあります」
「人間は、酸素が20%が最適であるが、80%が窒素ではなく二酸化炭素なら死んでしまう。人間が普通に呼吸できる環境は、地球表面以外では確率的に低いことでもある」
「ゾアノイドになれば、未調製時よりも耐性は上がるのでしょうが、それでも限界はありますね」
「惑星侵略においては、準備としてテラフォームをし、大気の状態をまず改変せねばならないのだろう。その役割をワフェルダノスのような植物生命体に任せようとしたとも思われる」
「もし調製体の殖装実験が成功していれば、テラフォームの手間が省けますね」
「そうだな。根本的に活動範囲が広がる意味では、ぜひ殖装は成功して欲しかったことだろう」
「まとめると、最初の呼気は無呼吸化の第一歩であり、呼気の排出口として口部に穴を作るが、環境適応のためにここから吸気は行わないということになりますね」
「いや、吸気も行われて可能性もある。殖装状態で普通に話すときは、吸気をしないと声を出すことができないからな」
「なるほど、そうなると吸気では物質代謝のためではなく、声を出すことで使用するということですね」
「ただし、外部スピーカーで話す場合、思念を音声に変換するだけだから吸気の必要はない。どっちの仕様になっているかは、今後の展開でわかるかもしれないな」