頬が冷たい。きっとこの涙は途切れない。つけたい時も消したい時も、いつだって信号は俺の意思を無視して身体中に流れて くる。もうどうでもいい。一番伝えたい人に何も伝えられなかったんだから。
肺が痛い。このまま泣き続けたら本当に乾燥してしまうかもしれない。そしたらあの天の川みたいにきらきら消えていければ 良い。とても王子とは思えない死様、だけど不良品の山みたいな俺にはお誂え向き。
今までずっと兵器の真似をして生き続けてきたけれど、もっと人間の修行もしていれば良かった。なんて似合わない、脳味噌 が慣れない思考にギシギシ不平を言っている。
それでも今日で一生分の後悔を使い果たしてしまうんだ。そしたらきっと明日か らまた俺らしく生きていける。






「・・・カカロット」
この名前を呼ぶのも今日で最後だ。無理矢理出した声はひどく湿っていて、あまりにもあの男に惹かれていた自分が笑えた。
だってあんな風に強烈に人間らしい人間なんて今まで見たことが無かったんだもの。不良品に囲まれていた俺には太陽以外の 何でもなかった。
「・・・なあに」
ほら幻の中でさえカカロットはこんなにも鮮やか。
「泣くくらいなら最初から素直になれよな、バカベジータ」
優しすぎる男はその優しさゆえにけして戻って来やしない。俺は知っている。
「こういう時は愛してるって言うもんだ。ほら言ってみ?」
「・・・あいしてる」
どうせ最後、どうせ幻、そう思ったら呆気無く言葉が出た。
何の感情もこもっていない声だった。きっと機械の方がよっぽど 上手く言ってみせる。
こんな風に言いたいんじゃないの、愛してるなんて言葉じゃ納まりきらないくらいもっとずっと愛して るの。もしもその何万分の一でも伝えられたら、彼が驚いて死んでしまうかもしれないくらい。愛がどんなモノかなんて知らないけ れど、これが違うと言うのなら本当の愛なんていらない。
だけどもう何もかも手遅れだ。






「よく出来ました」
強いのに優しい声、どうやって出しているんだろう。多分瞼に口づけられた。その柔かさが妙にリアルで、思わず目を開いたらすぐそこで太陽が輝いていた。
どうして、嘘だ、信 じられない。だってお前は幻のはずで、だから俺はお前に応えて、何よりお前はこんな所にいちゃいけないじゃないか。ああもう涙まで止 まってしまった。早く偽者だって言って笑ってよカカロット。
確かめようと伸ばした腕の先、俺を引き寄せた男の身体は温かかった。
「いきなりお前の気がちっさくなったから、気がついたらここまで来てた。ゴメンな」
どうせ最後、どうせ幻、一秒後には消えている束の間の夢。
「・・・あいしてる」
「うん、本当は知ってた。好きとかそういうの、お前すげぇ苦手なんだな」
「・・・ふりょうひんなんだ、おれは」
「だったらオレが直してやるよ。今日は一個言えたもんな、偉いぞ」
偽の男はそう言って俺の頭を撫でた。他人の手のひらがこんなに気持ち良いものだなんて、お前に会うまで知らなかった。
どうせ最後、どうせ幻、一度目を閉じれば多分男は消えている。壊れた脳が見る甘い夢、きっと幻と抱きあっている俺もま た幻。昼間に見る天の川のようなもの。きらきら瞬いては消えていく。 俺ではない俺、お前ではないお前、ほんの一瞬愛しあえるならそれで幸せ。
「・・・あいしてる」
「オレも、大好き、愛してる」
息が詰まるほど抱きしめられた。男の体温がじわじわ俺に染みこんでいく。