乱れたシーツの上。
荒く呼吸を繰り返す自分より一回りも大きい身体の下で
閉じていた瞳を薄く開く。
短い吐息を漏らして、
彷徨う視線が辿り着いた先は自分の手首。
薄く残る手形。
俺を押さえ付ける為に出来た痕。
擦り傷だらけの白い手に、
花が咲いた様に張り付く赤。
冷めない熱。


馴れない行為に何度も抵抗した。
包み込む両腕に噛み付き、広い背中に爪を立て、
見つめてくる瞳を憎しみを込めて睨み返した。
お前なんて、大嫌いだ、と。


・・・・・・・でも、今は?


自ら相手の太い首に両腕を回し、
誘う様に微笑んで、
耳元で呟かれる甘い言葉に胸を躍らせているのは、
紛れもない俺自身。


・・・・一体いつから?


身体の底から沸き上がる何かが怖かった。
ソレに溺れてしまう前に。
きっと、俺は何処までも沈んでしまうから。




結論を下した。















さぁ、もう終わりにしよう。
ここから飛び出せば、
また昔の無慈悲な自分が
だらしなく地にへばりつくこの身体を
心地よい無関心さで支えてくれるだろうから。


怖いのなら、最初から変わらない生活の中で
じっとしていればよかったのに。
背中にかかる彼の髪の毛が、まるで鋭い針の様に
身体の奥底まで深く突き刺さる。
染み込んでくる。





『俺を閉じ込めて放さない そんな存在なら』


『いっそのこと殺してしまおう』


と。





ただ


この手に残る熱と痕が冷めきって消え失せたのなら。









気だるい疲労感に包まれながら
錆び始めた脳に下した結論を焼き付け
眠りについた。















暗闇の中、
立ち尽くす側で声が聞こえた。

「昔はそんなではなかった」


「貴様は変わってしまった」


「貴様は、貴様との約束を破ったんだ」


そうだろう?


隣にいるのは懐かしい過去の自分。
着慣れた戦闘服を赤く汚し、
目を細めて嘲笑いながら言い放つ。
誰も信じない。
全ては自分の為。
弱き者には死を、屍の山を踏みならし、
更なる強さを求める。
誇り高いサイヤ人の王子として、
この宇宙に君臨する。
歯向かう者は皆殺し。
それが、お前だっただろう?
それが信念だっただろう?
血生臭い匂いをまとわりつかせて
擦り傷だらけの手を頬に添える。
目を覚ませ。
思い出せよ。
こんな所にいていいのか?
最初からここにお前の居場所はないだろう?
もっと冷たい心地よい場所のはずだ。





「還ろうよ」





差し出されたその手を、
握ろうと。
した。


そうしたら、






















「お前の居場所なら、最初からここにあるだろう?」



オレの隣に。







誘いかける白い手を握ろうとした俺の手首を熱い何かが掴んで、
振り向けば、異様なぐらい無邪気な笑顔を浮かべて立っている奴の瞳とぶつかって。


「オレの側からいなくなるなんて、絶対に許さない」





と、
動けなくなった俺の身体を抱きしめた。
強く
強く
強く
つよく
抱きしめられて。
掴まれた手首が痛くなって。



いつの間にか血まみれの俺はいなくなっていた。



嗚呼、
あぁ畜生。
余計な事しやがって、クソ野郎。
お陰で消えかけた痕が更に赤くなってしまったじゃないか。
冷め始めた熱も再び体中を駆け巡ってしまった。


これでは、とうぶんの間お前から離れられない。
だって、そう決めたのだから。
なんて曖昧なんだろう。



乾いた笑い声が響き、その時ようやく自分が笑っているのに気が付いた。










暗い室内に朝日が差し込む。


目が覚めて、重たい頭を隣に向ければ、
「おはよう」と言われ、
微笑む姿に溜息が漏れた。

マイハニーことアダン様から二本目のSSをいただきました・・・っ!! 切ないのとラブラブの狭間ですよ、狭間!!狭間萌えな私には堪りませんですvv 拝読したときには昇天致しました!死んだ祖父と王子が 視界の端にちらついております(危)まさにオアシス、枯れきった当サイトが 潤いを取り戻していくようです・・・vvこんな素敵なSSを本当にありがとうございました!!