――無条件降伏――






物心がついた頃からずっと、フリーザが三時のお茶を忘れたことなど一度も無かった。例え 嵐が宮殿を襲おうとも、革命に燃える若者たちが宮殿に押しかけようとも、彼の支配下に ある惑星が何者かによって破壊されようとも、彼は午後三時になれば必ず紅茶で喉を 潤し、ほっと小さな息を一つだけ吐いた。そしてそれは、広大そのものである宇宙を掌握 する彼の愛を一身に受ける相伴者についても言えることだった。






「ベジータさん、今日は貴方にお見せしたい物があるんですよ。」
優雅な弧を描きながらゆっくりと動かされる青みがかった唇を見つめ、ベジータはただ何で しょうかフリーザ様、という問いを眼差しに乗せてみせた。二人にとって必要以上の言葉は 邪魔なものでしかなかった。そこには一方の深い愛と、一方の生理的とさえ言える激しい 憎しみ以外には何も無いのだから。
「ペットをね、飼い始めたんですよ。・・・・出てきなさい。」
フリーザがぽんぽんと軽く手を叩くや否や、恐らくはペット専用だと思われる小さなドアから 現れた何かに、ベジータはわずかに目を見張った。全身を長い毛に覆われた小さな それは、四本の足で自身の体重を支えながら、しきりにその体毛を主人の脚に擦りつけて いる。フリーザは変わらぬ微笑みを浮かべながら、どこか満足げにそれを眺めていた。
「どうです?可愛らしいでしょう。」
ええとても、とベジータはやはり無音で答えた。






ポットを温めていた紅茶を残らず胃に収め、幾分か緊張を解いたベジータの意識は、今や 完全にペットに支配されていた。絶対の信頼を胸に静かに追従する愛らしい存在。ほしい、 何でもいいからほしい。自身と同名の惑星にいた頃とは比べ物にならないほど粗末な椅子に 腰掛けたベジータは、ペットへの思いの深さを再確認し、かっと目を見開いてスカウター越し に臣下の名を呼んだ。
「ラディッツ、今すぐ俺の部屋に首輪と鎖を持ってこい。」
「首輪と鎖・・・?何のために?」
「・・・・・・。」
何度問いかけようと何の反応も返さなくなった相手にやれやれと疲労混じりの溜め息を 吐き出しながらも、悲しいかなすっかり若い上司の奇行癖に慣れてしまったラディッツは、 理解不可能な下命を遂行するべく物置と化した一室へと足を運んだ。






「脱げ。」
「え!?い、今ここで俺が?」
「お前以外に誰がいるんだ。早くしろ。」
案外早く見つけられた捕虜用の首輪と鎖を手に、ラディッツは今度こそ首を傾げなければ ならなかった。何故白昼堂々職務中に上司の自室で裸体にならなければならないのか。 大体恋人としての夜の営みすら最近はご無沙汰なのだ。思わず愚痴をこぼしそうになった ところで、ラディッツははたと手を叩いた。
そうかベジータも欲求不満なんだ、たまには気分を変えてベジータがご奉仕してくれるって ことか、などと勝手な妄想を巡らせ、感動に打ち震えながらプロテクターを剥ぐように脱いで いく。初めてはっきりと示されたベジータの可愛らしい性的要求に、目前の小さな身体を 思い切り抱きしめたくて仕方がなかった。
「何をニヤついてる、さっさとしろ。」
「ハハッ、そういうお前も好きだぜ。」
「はぁ?・・・あぁ、下は脱がなくていいぞ。」
「そっか、これはベジータの役目だもんな。」
「・・・・頭でも打ったのか?まぁいい、今日からお前は俺のペットだ。いいな?」
「・・・・・へ?」
残念ながら今のラディッツには耳に届いたその言葉を理解する余裕など微塵もなかったが、 テーブルに置いていた筈の首輪が自身の喉仏に当たる感触と、向けられたベジータの 黒瞳のきらめきに、自分は不名誉極まりない肩書きを付けられるのだと判断せざるを 得なかった。がっくりと肩を落とし、半ば放心したラディッツが何も返してこないことに 苛立ったベジータが、若干低くなった声で再度同じ言葉を繰り返す。
「・・・いいな?」
彼を前にして、他に何ができると言うのだ。ガンガンと脳味噌を響かせる凄まじい頭痛に 耐えながら、涙をこらえて御意と頷くこと以外に。

予想以上にフリーザ様の日常を妄想するのが楽しかった思い出があります。 もうお馬鹿な王子にも兄やんにも、言うことは何もございません(号泣)