――青空に寄せて――
ある晴れた日のことでした。どんよりと空一面を覆っていた灰色の雲はどこかへ姿を消してしまい、 久しぶりに顔を見せてくれたお日様に小さく微笑んだベジータは、 その暖かな匂いに思わず空へ飛び出していました。 青い絵の具で塗られたような空はそれはそれは高くて、 いくら赤いマントがバタバタとはためいてみても、 いくらベジータがぎゅっと身体中に力を込めてみても、触ることもできません。 本当は空の頂上まで飛んでいきたいのに、と唇を噛みそうになった自分を、 ベジータは慌てて首を振って押し止めました。 すぅっと大きく息を吸い込んで綺麗な空気を送りこみ、 はぁっと音を立ててうじうじとした空気を吐き出せば、身体中にめぐった 懐かしいお日様の匂いが気分をスッキリさせてくれます。 こんな天気のいい日に悪いことを考えちゃいけないぞ、と強く自分に言い聞かせ、 ふわふわと空中散歩を楽しんでいたベジータは、ものすごいスピードで こちらに飛んでくる影を見つけ、俺のほかにも飛べる奴がいたのか?と 小さく首を傾げました。 ぼんやりとこちらに向かってくる影を見つめていたベジータは、 自分の前で急ブレーキをかけたそれの速さに、ただただ黒い瞳を 丸くさせることしかできませんでした。自分よりも早く飛ぶ物体を見たのは 初めてだったのです。 謎の飛行物体はベジータの驚きにかまう様子すら見せず、 にっこりと顔中に笑みを浮かべました。その瞬間なぜかとくん、 とベジータの心臓が大きく鳴った気がしました。 「会うの初めて、だよなぁ?おめぇ名前何ていうんだ?」 「・・・ベジー、タ。」 「ベジータかぁ。オラ孫悟空っていうんだ。よろしくな。」 「・・・・そん・・ごくう・・・。」 彼の名前を口にすると、先ほど高鳴った鼓動がさらにその速さを増していきます。 もう勘違いでは済まされません。握手をしようと右手を差し出す悟空を前に、 ベジータは静かに沸き起こった混乱と闘わなければなりませんでした。 |
――uncountable enemies――
重力に逆らってふらふらと不安定に浮かんでいたベジータの身体は、
抱えた袋の重さに耐えきれず、数秒で地面に引き戻されてしまいました。「・・・飛んでいくほうが速いのにな。ゴメンなさい、母上。」 さっきの衝撃で少しヒビの入ってしまったお醤油の瓶に、 自分にお買い物を頼んだときの母の心配そうな顔が思い出され、 申し訳なさに眉根を寄せたベジータは、とにかく早く帰らないと、と 小さな一歩を踏み出しました。 「・・・カワイイなぁ。手伝ってやろっかなぁ。けどあいつ 素直に手伝わせてくれなさそうだしなぁ。」 5mほど離れた曲がり角から様子を窺っていた悟空は、 ぶつぶつと独り言を呟いても自然に吊り上ってしまう頬の肉を下げるのに必死です。 カワイイなぁ、とさっきから何度も繰り返されている言葉を再びこぼし、 突然訪れた衝撃の出会いを思い出して、やっぱりニヤニヤと顔を歪ませていました。 「・・・・・!」 その時です。浅黒い肌の男がどこか紳士的な態度で、悟空の心を捉えて止まない ベジータに歩み寄っていったのです。 「手伝おうか、お嬢ちゃん。」 「何だお前。俺はお嬢ちゃんじゃないぞ、ベジータだ。」 「へー、それは悪かった。じゃぁ改めて、手伝おうかベジータちゃん?」 「ちゃんって言うな!お前の助けなんかいらない。どっか行け。」 「ヒドイなぁ。」 ベジータに何を言われても微笑みを崩さない男の姿に、 悟空の心臓が早鐘のように鳴りだします。とにかく先回りをして自分も あの場へ出ていかなければ、と額に滲んだ嫌な汗を拭った悟空は、 一目散に変な男に絡まれてしまったベジータのもとへ駆け出しました。 「・・・・・ぁ。」 「また会ったなベジータぁ。重てぇんならオラ持ってやるぞ。」 「・・・・うん。」 はにかみながら片方の持ち手を預けてくれたベジータににっこりと笑い、 ついでに浅黒い男にも特大の笑顔を浮かべ、悟空は上機嫌でベジータと 空へ飛び立ちました。 「ベジータちゃんまたねぇ。」 「ちゃんって付けるな!」 浅黒い男は追いかけてきませんし、何よりベジータと一緒にいるのですから、 嬉しくて嬉しくて、笑顔はなかなか引き込んでくれそうにありません。 ぷりぷりと怒りをあらわにするベジータを見つめると、わずかに頬を赤らめた ベジータもまた微笑みを返してくれました。 「また明日も会おうな。」 「・・・うん。」 ベジータの家に着いたときにはもう空が真っ赤に燃えていました。 大きな空腹感と明日への期待を胸に家へと帰っていく悟空の後姿を、 ベジータはただぼんやりと見つめ続けていました。 |
――変貌――
偶然雲の上で逢ったあの日から、ベジータと悟空は毎日暇さえあれば顔を合わせ、
お互いのことを語りあっていました。勿論饒舌ではあっても単語をあまり知らない
悟空と、語彙は豊富でも恥ずかしがり屋なベジータのことですから、話が弾むとは
お世辞にも言えない状態ではあったのですが、二人には沈黙すら
何の障害にもならないようで、はにかみながらゆっくりと言葉を紡ぐ、
そんな穏やかな時を過ごしていたのです。いえ、過ごしていた筈でした。「オラのこと、好きか?」 「・・・・・・うん。」 この何気ない言葉が危機的状況をもたらすだなんて、一体誰が予想できた でしょうか。恐らくは当の本人である悟空にだって、夢にも思わない展開で あったことでしょう。 気づけばベジータを、押し倒していただなんて。 「ご、悟空!?」 何ということでしょう。地面に押し倒すなり無言で顔を近づけてきた悟空に驚き、 ベジータはしてはならない間違いを犯してしまったのです。身の危険を感じた ベジータは、反射的に右ストレートを盛りのついた悟空へと繰り出してしまいました。 あれだけ母上に右手でパンチを撃ってはいけませんよって注意されていたのに、 父上だって絶対に気をつけるんだよって言っていたのに、などと今更後悔したところで どうにもなりません。 俺のバカ!!と珍しくベジータが自己嫌悪に陥っていたその時です、どこからともなく 壮年の男の声が聞こえてくるではありませんか。恐る恐る瞼を上げると、 そこには見たことのない毛むくじゃらの男がベジータを見下ろしていました。 「だ、誰だお前!!」 「酷ぇな、ちょっと姿は変わっちまったけど、お前がよく知ってる孫悟空じゃねぇか。」 「嘘だ!悟空は毛むくじゃらじゃないし、赤くもないし、しっぽも生えてないぞ!!」 「だから変身できるんだって。」 「そんなこと言ってなかった!」 「言ってなかっただけだ。」 「そんなっ。」 そう言って普段のにこやかな彼からは想像もつかないような笑みを浮かべた 自称孫悟空の姿に、ベジータは生まれて初めて血の気が引いていく感覚というものを 覚えました。しかしすっかり大人しくなってしまったベジータに、好都合と 手前勝手な判断を下したのでしょうか、孫悟空を名乗るケダモノは首筋に顔を埋め、 軽快な音とともに唇を寄せてきます。 それでも言い知れぬ恐怖を抱え身を 竦めるばかりのベジータが快感に甘い声をあげる筈もなく、目尻に涙を溜めながら 必死に顔を背ける幼い姿に、ケダモノはようやく理性を取り戻しました。 「・・・・ゴメンな。」 「・・・あ、悟空!」 ふと鼓膜を震わせた聞き慣れた声に視界を彷徨わせれば、やはり眼前には 見慣れた悟空の姿がありました。ベジータがにこっと微笑めば、申し訳なさそうな 表情を浮かべていた悟空の顔にもいつもの笑みが戻ります。 「別に謝らなくていいんだぞ?」 「うん、けど・・・悪かった。」 そう言ってベジータの額に口づけを落とした悟空は、これで十分かな、と口中で呟き、 ひどく大人びた笑顔を浮かべていました。 |
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既にキモイという言葉しか発せないようなSSSばかりですみません!!
すべては徹夜明けで狂っていた私の脳の産物です・・・orz
意外とご好評をいただいておりますので、これからも突発的に
日記内に現われると思われます;;乙女な王子がお嫌いな方、
本当にすみません!! |