――静かな夜は――






喧騒とした星にも夜の帳が下り、いつもの繁雑さがすっかりなりを潜め、 戦士たちが束の間の休息を貪っているころ。
「・・・もうすぐ新月か。」
豪奢な窓から中空を睨み溜め息まじりに呟いた王は、 自室の扉が控えめにノックされる音に気付き、慌てて戸に駆け寄った。
「・・・・父上ぇ。」
声のする方向に目をやれば、自分の身長の半分はあろうかというほど 大きな枕を抱えた愛息が頼りなげに立っている。 黒曜石色の瞳には今にも大粒の涙が零れ落ちんばかりに潤んでおり、 王は余りの痛々しさに思わず眉をしかめながら努めて優しげな声音を出した。
「ど、どうしたのだ。誰かに悪口を言われたのか?変なことをされたのか?」
何も言わずただ首を横に振る王子にほっと溜め息を吐きながら、 王は最後に残った選択肢を恐る恐る口にした。
「ま、まさか・・・怖い夢を見たのか?」
小さく頷く愛息を強く抱きしめれば、彼の身体から力が抜けていくのが 手に取るように分かった。
「父上と一緒に寝るか?」
そう問われ、王子の悲痛な面持ちがパッと晴れやかな笑顔に変わる。
眉間の皺を伸ばし柔らかな笑みを浮かべる王の手を握りながら、 ベジータは安らかな眠りに落ちていった。












――トモダチ――






「やだやだやだ〜。」
駄々をこねる愛息を前に、王は大きな溜め息を吐いた。
「ベジータ、父上も寂しいのだ。できる限り早く帰ってくるから、 父上を困らせるのは止めておくれ。」
でき得る限りの優しい声音で言ってみても何ら効果は無い。 少し我が儘に育てすぎたかと、王は一人後悔の念にとらわれていた。
「父上と一緒に行く〜!!お留守番はやだ!!」
自分の首に縋りついて喚く姿は我が子とはいえとても可愛らしい。 宇宙中を隈なく探したってこんなに愛らしい生物は見つかるまい。 フフンと鼻高々に世の男たちに対し改めて優越感を抱いた王は、 だからこそ困ることもあるのだとその表情を曇らせた。
「いいかベジータ、よく聞きなさい。この宇宙でお前は一番可愛いんだ。 そんなお前を野蛮でがさつで、常に欲求不満を抱いている男の群れに 投げ入れたらどうなると思っておるのだ!!
あれよあれよという間に私の愛しいベジ−タは蹂躙されて、 目も当てられぬ姿にされるに決まっておるではないか!! 万一逃げられたとしても、偶然を装って助ける振りをする輩に 気を許したところでお前はひん剥かれるのだぞ!!そんなことになってしまったら、 父上はどうやって生きていけばいいのだ?
確かにお前は強い。 だがな、お前の色気にくらんだ男たちの戦闘力は恐ろしく跳ね上がるのだ。 だからもう我が儘は言わんでおくれ。父上はいつもお前のことを考えておるのだぞ。」
激しい剣幕で諭され、ベジータは渋々とではあったがやっと首を縦に振った。 小さな頭を撫でながら、寂しそうな顔をする我が子を喜ばせる物はないかと 辺りを見回す王の目に飛び込んできたのは、一粒の種子だった。
「ベジータ、お前にこれをあげよう。父上だと思って大切に育てるんだよ。」
「・・・何の種?」
不思議そうに聞くベジータに出てくるまでの秘密だと答えると、 晴れやかな顔でうん!と大きく返事をした。






「ナッパぁ、ナッパぁ?」
いつもなら探さずとも分かる巨大な体躯をもつ男の名を呼んで廻ると、 1分足らずで現れたことに上機嫌になりながら、 ベジータは早速種を植えようと期待に胸を弾ませていた。
「どうした、ベジータ。」
「ナッパ、土。」
「え、何だって?」
「だから土。」
「・・・つちっつうのは地面にあって茶色くて、場合によっちゃぁ 白かったり赤かったりするあの土か?」
うんと得意げに頷くベジータに、忠実な従者は至極真っ当な問いを口にした。
「そんなもん何に使うんだ?」
「種貰った。」
「誰に、何の?」
「父上がくれた。何なのかは秘密だって。」
「・・・へぇ。」
的を射ない答えに若干苛立ちはするが、王から貰った種が何なのかはそれなりに気になる。 ほらよと言ってわざわざ取ってきた土に種を植え、二人は頭を寄せ合った。
「何が出てくるんだろうな。」
「ま、王が下さったんだ。しょうもないもんじゃねぇだろう。」
突然ガボッと大きな音が聞こえ、地中から若木色の何かが顔を出した。 うわっと異口同音に叫び仰け反る二人の前に現れたのは、 お世辞にも可愛いとも格好いいとも言えないひどく微妙な生き物だった。
「・・・何だこりゃ。」
期待外れだとでも言いたげな表情でそれを突付くナッパの横で、 ベジータはキラキラと瞳を輝かせた。自分とさして変わらぬ大きさのそれを ぎゅっと音がするほど抱きしめ、頬を寄せる。
「コイツのことこれから栽培マンって呼べよ。 俺が飼うからお前の部屋に連れて行ったら殺すからなv」
「あ〜はいはい、勝手にしてくれ。」
いりもしない所有権を譲らないと息巻くベジータに気付かれぬよう、 ナッパは小さく溜め息を漏らした。

以上5月の日記に載せた王ベジでした。 こんなものを日記に載せる私もどうなんでしょうね・・・。 不届き千万な管理人ですが、どうかお付き合いいただければ幸いです;;