――全知全能――






豪奢ではないが、大きさだけは誇るべき壁一面に取り付けられた窓から差しこむ、 暑いほどの日差しに照らされた本――軍の上層部に見つからないようにこっそりと 持ちこまれたそれには、「帝王学の基礎」といういささか堅苦しいタイトルが 銘打ってある――のページから顔を上げたベジータは、職務に励むべくせっせと 床を磨くラディッツに、ふと脳裏をかすめた素朴な疑問をぼんやりと投げかけた。
「・・・・なぁ、花火って何なんだ?」
「・・・え、お前花火知らなかったっけ?」
「知らないから聞いてるんだろ。」
「えぇ!?マ、マジで?」
大袈裟なほどさして大きくはない瞳を見開くラディッツに、ベジータの機嫌が あからさまに下降していく。しかしわずかに眉根を寄せる少年のことなどまるで 意に介さぬように、何やら棚の中をごそごそと探っていたラディッツは突然振り返り、 にっこりと満面の笑みを浮かべた。
「夜まで待てよ。そしたら見せてやるから。」
「・・・夜まで待つのか?めんどくさい。」
「そう言うなって。すっげぇ綺麗なんだからさ。」
「・・・・ふーん。」
自ら問いかけたわりには気乗りの薄いいらえを返すベジータの姿にも、 ラディッツがその嬉しそうな顔を崩すことはなかった。






バチバチと激しい音をたて、色とりどりの火花が闇へと流れていく。 わぁ!と思わず感嘆の声をあげるベジータの眼前に人差し指を掲げ、 得意げな表情を浮かべたラディッツは、更なる驚異を引き出そうと手にした ライターに火をつけた。
あれだけ興味の無さそうな反応しか返さなかったベジータも、 黒瞳をきらめかせながら一心に花火を見つめている。耳元へ唇を寄せるという いつもは嫌がる仕草も、花火に心を奪われた少年にはまったく気にならないらしい。
「夜まで待っててよかっただろ?」
「うん、すっごい綺麗だ!」
しかし上層部に気づかれぬよう細心の注意を払ってひっそりと催された一時の宴も、 フリーザ軍の徹底的な監視下においてはそう長くは続かなかった。突如唸りをあげた サイレンが小さな惑星全体を揺るがし始める。
すると瞬時に今までうっとりと 花火に見入っていた少年の眦が上がり、七色の光を放つ紙片をバケツに押しこめ、 瞬きを繰り返す臣下の腕を引いて茂みへと飛び込んだ。
「へ、部屋に帰ったほうがよかったんじゃないのか?」
「馬鹿、そんな時間ないだろ。消灯時間はもう過ぎてるんだぞ。外にいるだけで捕まる。」
「・・・そっか。」
スカウターを持ってこなかったがために監視員たちの位置を正確に 知ることはできないが、彼らもさすがに中庭とは名ばかりの、鬱蒼と茂った 木々の中にまで分け入ってくるつもりはないらしい。吐息を漏らし全身に 走らせていた緊張をほぐしたラディッツは、隣で同じように溜め息をこぼし 額を拭うベジータに悪童めいた笑みを浮かべた。
「たまにはこんなのもいいだろ?」
「いつもだったら嫌だけどな。」
「・・・正直にうんって言えばいいのに。」
「うるさい。」
ぷいとそっぽを向き、唇を尖らせる幼い姿に穏やかな愛しさが湧き上がる。 しかしそれに任せたわりにはぎこちなく少年の身体に腕を廻したラディッツは、 やはりぎくしゃくとした動きで薄い肩口へ顎を乗せた。
「もし、さ・・他に何か知らないことがあるんだったら、俺が教えてやるから・・・。」
「例えば?」
「え、例えば?・・・・・い、今は分からなくてもまた出てくるかもしれないだろ。」
「だから?」
「だから、その・・・い、一緒にいたいなって思った、だけなんだ・・けど。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・!」
掠めるように額へ触れたそれに驚き、思わず身体を仰け反らせたラディッツを前に、 悪戯っぽい笑みを浮かべたベジータはフンと鼻を鳴らし、ふわりと空中へ浮かぶ。 しかし予想すらしていなかった展開にただただ呆然とするラディッツには、 今自分が果たして夢をみているのか現にいるのかを判断する余裕さえ 残ってはいなかった。
「あいつらが戻ってくるまでには部屋に帰れよ。」
「・・・・・・え・・・え、ベジータ!?」
結局部屋に帰るタイミングが掴めなかったラディッツは、悶々とした思いを 抱えたまま野宿したとかしなかったとか。

兄弟のようなラディベジを意識しながら書いたつもりだったのですが、 後から読み返してみれば兄弟らしさに掠ってすらいませんね・・・orz こんなSSSを攫って下さった某氏には感謝でいっぱいですvv ありがとうございました!! そしてラディの口調を未だに掴めていない感丸出しですみませ・・・っ!