――徒労――






戦闘民族サイヤ人の王子というかなり厄介な同居人ができてしまったせいで、一人の男の 人生は恐ろしいほど容易く奈落の底へと転がろうとしていた。彼が宇宙の果てから舞い 戻ってきたころに感じていたそれとは対照的な焦燥感に、男はここ数日ずっと苛まれて いたのだ。






ベジータがこの家に住み始めたときは、確かに自分はブルマを取られるのではないかと 危惧し、焦っていた筈だ。だらりと力なく垂れ下がった己の陰茎を見下ろし、ヤムチャは 幾度めかすら分からなくなった重いため息を再び吐き出した。
瞳を閉じれば、たちまちベジータの小さな身体を組み敷く己の姿が浮かび上がる。気を 紛らわせるように艶やかな女性が映るビデオや写真を眺めてみても、あまつさえ可愛らしい 女性を実際に押し倒してみても、一向に身体が熱くならないどころか、まろやかな女性は いつの間にかベジータへと姿を変えてしまうのだ。こんな状態でブルマを抱く気にもなれ なかった。
「・・・これってベジータに恋してるってことだよなぁ・・・・・多分。」
小柄ではあっても紛れもない男で、筋肉質で、恐ろしく我が儘で、髪は逆立っているし、 いつも眉間に皺を寄せて辺りを睨んでいるような、どこを探しても可愛さなど見つからない 上に自分を殺した奴に恋愛感情を抱くなんて・・・俺ってどこまで報われないんだよ、と自ら の考えに絶望すら感じながら頭を抱えたヤムチャは、ふと楽しげに葉を揺らす大木を 見上げ、ズボンのチャックを閉めると軽く頭を振った。
「・・・・風に当たってこよう。」
深い眠りについている小さな相棒を恨めしげに見やると、ヤムチャはまた重い溜め息を 漏らさざるをえなかった。






幸か不幸か、宇宙船と自室を行き来するだけの生活を送っているベジータに逢う確立は かなり低い。会えない方がまだマシだよな、と思わず苦笑を浮かべたヤムチャの耳に 届いたのは、しかし規則正しい小さな足音だった。
「よ、ようベジータ。」
「・・・・・誰だ貴様。」
「ヤムチャだって。いい加減名前くらい覚えろよ。」
不自然に声が裏返ったりはしなかっただろうかなどと、どうでもいいことにひどく気を揉む 自分をあっさり無視して掛けられた言葉は相変わらず冷淡で、そのくせ彼が不機嫌である ことだけはしっかりと伝えてくる。
何で挨拶なんかしたんだろう、と内心後悔しながらも必死に次の言葉を探すヤムチャに、 やはりその時間も余裕も与えぬまま無慈悲にベジータが口をきく。明るすぎる廊下の照明 を反射してキラキラと光る黒い瞳が、剣呑な色をたたえ己を射抜く様にかっと全身が 火照った。
「何の用だ。」
不愉快という感情以外のものを浮かべたことのないその瞳を、自分が与える快楽で 潤ませてやりたい。今まで修行していたのだろう、破れた青い服から覗く白い肌を貪り、 赤い痕で埋め尽くしてやりたい。湧き上がる劣情にヤムチャの陰茎はすっかり形を変えて いた。
ドクドクと恐ろしいほど早く脈打つ心拍音をどこか遠くで聞きながら、我を忘れて震える 指先をベジータへと伸ばす。小さく引き締まった体躯を強く抱きしめようとしたその腕は、 しかし彼に届く数瞬前に捕えられた。ベジータの白い指がきゅっとヤムチャの手首に 添えられる。心臓が破裂してしまうのではないかと思うほど大きな音をたてた。
「ベジ・・痛い痛い痛い痛い、離せ、ベジータ、骨折れる・・・っ!!!」
「フン、俺に攻撃しようとした度胸だけは褒めてやるぞ、クズ。」
余りの痛みに薄れていく意識の中で、ヤムチャは前途多難というおぞましい四文字が 見えたような気がしたのだった。

とある方の影響で、勝手に私自身の中でお株上昇中のマイナーカプ、ヤムベジでした。 ひたすら報われないただのいい人なヤムチャ氏と、彼を理解する気などさらさら無い 王子。とんだ茨カプですが、結構好きだったりします。