――幸福――






無様に床の上に這いつくばって、許しを請うこともせず、彼を見ることもせず、ただ何も 言わずにうなだれる。かすかに聞こえる足音が、彼が近づいてきたことを知らせた。
「・・・お前が好きだ。」
「・・・・・・・。」
何の防備もしていなかった右の脇腹に彼の脚が食いこんだ。バキッという大きな破壊音が 身体中に響き、深い痛みがじわじわと、意識をかすませながら周辺に広がっていく。彼の 部屋を汚してしまわないように、吐き出しそうになった血液を慌てて飲みこんだ。錆びた 臭いが口中でとぐろを巻く。
「愛してるんだ、お前のこと。」
「・・・・・・。」
「・・・・ぅ。」
堅く口を閉じたままの彼の脚が、左の脇腹を蹴った。オレと同じように超化した彼がもたらす 痛みは、思った以上に深く重い。再びせり上がってきた血液と嘔吐感を、手で口元を 覆ってどうにか堪える。ギリギリと身体を締めつける痛覚に、中芯が火照っていくのが 分かった。
「俺とヤりたいんだろ?貴様の薄汚い物を俺のケツに突っ込みたいんだろ? なら素直に言え。」
「・・・・・・。」
白いブーツに頭を押さえられ、侮蔑しきった冷たい声をかけられ、切り刻むような痛みに 低く呻きながら、彼にすべてを破壊される喜びに陶酔する。顎につま先を掛けられ見上げ た先には、眉間に皺を寄せる不愉快そうな彼の顔があった。
「お前、を・・犯したい。」
「下手くそ。」
言葉を吐き捨てどこかへ立ち去ろうとする彼に駆け寄り、小さな身体を押さえこんで首筋に 噛みつく。
宇宙最強という肩書きも、サイヤ人であることも、守らなければならない人間がいることも、 そんなことどうだっていい。ただ人間としての最低の扱いすらしようとしない彼が、唯一 惜しみなく与えてくれる痛みに浸っていられれば、






しあわせ。












――染色――






「じゃ、また明日な。」


そう言って首尾よく約束を取りつけ、指をかざして姿を消した男のせいで痛む腰を撫で ながらゆっくりと身体を起こす。やりたい放題しやがって、とぶつくさ文句を言いながら、 ふと、俺の部屋に違和感を感じた。
昨日の夜には何も感じなかった筈だと辺りを見回してみても、原因はちっとも分からない。 むかつきながら意地になってグルグル頭を回していると、机の上にあるそれに気がついた。


「・・・あ。」


煙草を吸わない俺の部屋には似合わない、安っぽい灰皿とライター。注意深く見てみれば、 所々に俺の知らない物が散らばっていた。持ち主なんて、考えなくても分かる。マーキング でもするつもりかと呆れながらも、自分でも気づかないくらい、奴の持ち物が俺の部屋に 馴染んでいたことが、何となくくすぐったかった。 コソコソと私物を置いていく奴の姿が簡単に想像できて、思わず小さく笑う。気づけば 呟きがこぼれていた。


「・・・バーカ。」












――だって男の子だもん!――






ゆらゆらと揺れる闇色の瞳と、鈍く光る唇から覗く紅い舌にわずかに瞠目したカカロットは、 しかし一瞬の躊躇すら見せず、にやりとその薄い口唇を歪めて見せた。






身体の奥深くで生じた衝動は、ゆっくりと蠢きながら刻一刻とその激しさを増していく。 どこからか立ち上る熱気が、理性を絡めとりながら戯れるようにベジータの視界を揺らす。 酩酊にも似た感覚にほぅ、と甘い吐息を漏らしたベジータは、体内のざわめきにうっとりと 眉根を寄せた。
突然姿を現した男にも、来るのが遅いと思いこそすれ、ベジータはけして驚きはしなかった。 彼が来ることは分かっていたのだ。これ程までに身を覆う欲望が気に影響を与えない筈が ない。恐らく今の自分の気は、ねっとりと眼前の男に絡みつきながら浅ましく彼の身体を 強請っているのだろう、そんな考えを胸に浮かばせたベジータは、珍しく内心で自嘲じみた 苦笑をこぼした。
「カカっ・・・ロット、ほしいんだ、貴様が。・・・・無茶苦茶にしてもいい。」
「いいぜ。けどオレを満足させろよ?」
「・・ん?」
「オレを満足させれたらヤってやる。準備くらい一人でできるだろ?期待してるぜ。」
耳元で囁かれぴくりと小さな反応を見せたベジータは、渇望する快楽を求め焦るように 何度も頷いた。






情けなく震える指には、ぴったりと身体を包む戦闘服を剥ぐことすら難しかった。滑らかな 繊維に脇腹や乳首をゆっくりと擦られるだけで火照った息が漏れる。そばにあった椅子に 腰掛けたカカロットの視線を痛いほど感じながらも、ベジータは揺れる視界の中でじっと男を 見据えていた。
「・・・は・・・・ん、ふっ。」
「・・服脱ぐだけで感じてんのか?ド淫乱。」
「んんっ・・・や、ぁ・・・。」
「オレがヤらなくてもマスかいてりゃ十分だろ。」
「ぁんっ・・お、れは・・・・おまえがっ。」
面白そうに笑うカカロットの嬲るような言葉に、身体に絡みつく視線に、後孔がきゅっと 収縮する。背筋を抗えぬ甘い痺れが伝う。切なげな表情を浮かべながら背を軋ませる ベジータを見つめ、ひどく獰猛な色をその碧眼に交えたカカロットは、全身を震わせる快楽 の前には非力な情人を苛む楽しさに、くつくつと咽喉で笑った。












――続・求愛――






ベジータは体力や戦闘力だけでなく、思考力や記憶力にも秀でている。そんなことくらい 初めて出会ったときに把握していただろうに、興奮の余り我を忘れた二、三日前の自分に、 カカロットは殴りかかりたくなるような後悔と憎悪を抱いていた。
身も心も溶けてしまうようなキスをして、思いっきり嬲って、焦らして、泣きながら快感を 強請るベジータの甘い声を聞きながら、自分もベジータもお互いに溺れていく。いつもの 情交を思い浮かべ小さな呻き声を漏らしたカカロットは、自分を求めて艶やかに潤む筈 だった漆黒の瞳が今は楽しげに、しかし冷ややかに細められている様を見やり、少しも 反応していないベジータの陰茎と、既に臨戦態勢に入っている自分の陰茎を交互に 見やり、救いを求めるようなひどく情けない顔を、組み敷いている筈のベジータへと向けた。






「なぁ、いい加減機嫌直せって。」
「いーやーだ。貴様こそいい加減新しい相手を探しに行ったらどうだ?」
先程から何度も繰り返されている言葉を嬉々として告げるベジータの姿に、思わず重い ため息がこぼれる。つい先日ベジータが住んでいる家の、それも居間で事に及んだ後、 玄関の扉が開く音に慌てて全裸でどこかの森の中へ瞬間移動してから、彼の機嫌は 一向に直らないのだ。
もともと不機嫌そうだった顔つきには拍車がかかり、変わらぬ態度で現われたカカロットを 見ただけで小さな舌打ちすらする程だった。それでも怯まないカカロットが小さな身体を ベッドへ押し倒すと、突然にっこりと笑ってのたまったのだ。「俺の穴はガバガバなんだろ? だからもう貴様の相手はしてやらん」と。
「はぁ!?何言ってんだお前・・・・・オレじゃねぇと満足できねぇくせに。」
「俺はもっとデカイ奴を探すからいい。それより自分の心配をした方がいいんじゃないのか?」
「・・・可愛くねー。」
「ほう。貴様もやっと褒め言葉を言えるようになったか。」
そんなやりとりをしてから小一時間経ったっというのに、状況は何も変わっていない。 わずか二、三日とはいえ、ベジータの精神面を慮って会うことすら我慢していたカカロットに は、ベジータの白く滑らかな肌を目にしながらも先へ進めないという状態は、生き地獄にも 近い拷問だったのだ。
咄嗟に浮かんだ無理矢理犯すという選択肢を選んでしまったのも、 致し方ないのかもしれない。しかし、ギラギラと瞳を光らせながら獲物の手首を強く掴んだ カカロットに、ベジータは凍えるような声で死刑宣告を下したのだった。
「それ以上やってみろ、貴様には一生させてやらんからな。」

やはりキワモノばかりのSSSでしたね(号泣)毎日こんなことばかりを考えて 過ごしております。そのせいか性描写の無いお話を書く方が恥ずかしい時すら ある始末です。・・・す、少しは真っ当になれるよう頑張ります!