下着のままでベランダに出て、俺の洗濯物を干している君。
その後姿に俺は窒息寸前。太陽が君の体に温度を刻む。


「服を着なよ、ちゃん」

「誰も見ちゃいないわよ」


大きなサングラスの奥に君の笑った瞳が見えた。
俺は煙草をふかしながら、君の姿を見つめてた。


クーラーの冷風は開け放たれたベランダに逃げていく。
テレビはくだらないニュースや大衆的な昼番組を垂れ流してる。
おいおい、ここは便所じゃないぜ。だなんてジョークも言ってみる。


「キヨお腹すいたでしょ」

「ああ、カップラーメンあるから作って」


君はサングラスを外して台所に立った。すぐにカップラーメンはできた。
当たり前だろう、インスタントなんだぜ。アハハ。

カップラーメンを啜る君を見つめてみる。君は何と無しに笑って俺の視線を
すり抜ける。何も手ごたえを感じ無いんだ。空気に覆われてるみたいに。

開け放たれたベランダから、正午の鐘の音が飛び込む。あ、もうお昼だったのか。
君はカップラーメンを半分位残して、席を立ち、其処らへんに脱ぎ捨てられてた
衣服を纏ってゆく。鞄を持って、最後にあのサングラスをかけて。


「そのサングラス、阿久津も同じのしてたね」

「、そう?」


何も手ごたえを感じ無いんだ。空気に覆われてるみたいに。
君は無実の微笑を残して、俺の部屋を去った。
マンションの廊下を進むヒールの音が遠ざかっていった。


部屋は静まり返り、ただ外のじとりとした空気だけがクーラーを止めた部屋を支配してる。
ハトが鳴く声がする。ベランダの向こうに広がる空は青く透き通っており、
真白な雲が控え目に主張してる。連休だというのに、何もする事がない。時が白い。

ちゃんは学校に部活をしに行ったのだろう。俺は、学校なんて暫く行ってない。

開け放たれた窓の向こうに鳩が飛んでる。もうすぐ夏が始まる。

君の去った部屋には、君の残像と虚無感が、夏の始まりの陽気と共に漂っていた。
どこかへ連れ出して欲しい。一人ぼっちの孤独はたかが知れてる。



ナッシングネス


(2008/06/10)