14の私なら答える事ができたのだろう。
記憶の残像がソーダ水みたいに溢れているんだね。
それは目に見えなくて、拾うことも、飲み込むこともできない。
ああ。白いね。空の白は時間を表わしている。この地球には
多分何にも無かった。私たち以外何も無かったと思う、結局。
これ以上探す事は無意味だと思うの、分かって、君。
うわあ。綺麗だった。観月君は男でも女でもない。
観月君は観月君っていう人で、私は、きっと女だったのだろう。
性の境界線の間に君はいる。これからもきっと変わんないんだね。
ヒドラになれれば良かったのに。私たち何故同じじゃないの。
観月君には性器が無い。15で悪いの見つかって、
とらないと死ぬので今、手術は終わった。私は林檎を剥いたこともないのに
ナイフもって頑張ってる。冬の冷気をいっぱい含んだ林檎は私が買った。
「これで本当に終わりですね」
アハアハ。本当ってどこにも無いのにこの人は私に何を言うのだろうかね。
うわあ。ほらね。観月君すごく、綺麗だよ。きっと私は醜いのだ。
私は彼の召使。彼は従順な私だから隣に置く。私なんてどこらにでもいるもの。
女なんて観月君は欲しくないよね。ごめんね私。きれいじゃなくてさ。
「歪な林檎」
あアあア嗤わないで。やめて。私泣きたい。私観月君になりたかった。
なのにきっと、観月君は、林檎になりたかったよね。そんな観月君に、
私はなりたいよね。
寄越してと、観月君の人間離れした手が私の腕をひんやり掴んだ。
汚い林檎は観月君の食堂を通って行っただろうか。観月君の体は、
林檎を吸収しても、大丈夫だろうか。観月君にはまだ内臓があるだろうか。
観月君が消えていくような気がしていたけど私はそれに気づいていないような
素振りを見せてそれに気づいた観月君はきっと気分を害しただろうな。
全て気持ち悪い。頭痛いのに。
「もうそれ以上何も言わないで」
私のセーラー服を転がった林檎の皮は床に溜まってばかりだ。
責める目。彼は私を責めている。私が人間で、女であることを
憎んでる。それくらい私になら分かる。私は観月君に選ばれた一人の女だ。
観月君の好きな人は私じゃない。観月君の欲しい人は私じゃない。
観月君に性は無い。観月君はエクスタシが分からぬからセックスと
キスの間が曖昧。観月君の好きな人は私のことを好きだって。
そんなのが嘘であれば良かったでしょ?私なぞ、死んでしまえば
この世のためでしょ?世界は観月君で廻ってる。廻って廻って廻ってる。
何で観月君はあんな男の何処がいいの。何で私じゃないのって。
私だって女だけどあの男だって男なのに。別に魅力も無い。
どこらにでもいる普通の男。私に好意を抱くような、浅はかな男。
それでも観月君にとって、最高の人なのだって。
そんなのズルなのに。私がずっとそばにいたのに。あアとられてゆく。
ソーダ水を舐める覚悟も無いし。息をしたとして泡沫が取りこめられるの?
きっとこの後、観月君は自分の存在意義についてほざきだすのだろう。
そんなの質問されても私答え忘れたよ。観月君の隣にいるためにずっと、
頭の中に答案用紙を作ってた。でもそれにものってないような、
もしくは私が忘れたのだ。最低。死ぬ価値すら無いね。精々臓器でも
売って献血してから日本海のおいしいお魚達の餌になれるかなれないかって
とこだよね。ごめんね。アハアハ。私は耳を閉じ、目を塞いだ。
見えるのは暗闇、聞こえるのは虹色の何か。ハア。
「 」
巻き戻したい、再放送で構わない。間違っていたところをひとつずつ
完璧に修正して、再生するのだ。それが一番良いに違い無いだろうに。
(2008/12/26)