鳳の大きな背中は無限に広がってるみたいだなって思うの。

まんまる夕焼けを眺めながら、チョコレートラズベリーパイを囓るのに夢中だった。
鳳のごつごつとした、だけど色の白い指先が、私のパイを横取りするの。
「甘いものばかり食べてると、もっと頭が悪くなるよ」
鳳は笑ったけれど私にとっては笑い事じゃ済まされないのよ。
私はこうやって糖分摂ってなきゃ、すぐイライラして、首のところが苦しくなるんだもん。だから私は悪くないわ。
鳳は、私に対して、中途半端に優しい人だ。私の事を何も知らぬから、平然と傷つけることができるね。
私のこの、オレンジみたいなハートに。

毎日、悪夢がやってくる。鳳の形をしたジンジャーマンクッキーが、私に食べられてしまうだとか、そんな夢。
朝起きれば、喉には引っ掻いた傷痕があるし。
ああ、近々、私か鳳かのどちちかが死ぬのだなあ、と、夢見心地に考えた。

いつもみたいに私が、甘いホイップクリームカップケーキに夢中になってると、
悪夢は正夢となって目の前に現われた。鳳は寂しそうな面持ちで、ホイップを指ですくって舐めた。
「私のケーキ」
「知ってた?もうすぐ世界は終わるんだよ」
「それってあなたの妄想?」
「夢であるならばまだ良かったさ」
ひっそりと、私の額を撫でた、彼の、彼の指先は震えてた。

重たい眼球をぐらぐらさせて、鳳はまんまるお月様に溶けていった。
今きっと、彼は溶けて混ざってる。夜色のブルーベリージャムとなり、アラザンの星達の密かな悲しみをまとって。

だって私はあなたのこと、なんにも知らないんだもん。
終わらなさそうな悲しみなら私が食べてあげたのに。

あ。鳳の背中はどこまで続いているのだろう。きっと宇宙の果てとか、不思議の国にまで、広がってるに決まってる。
そうじゃなきゃ許さないよ。私のラズベリーパイ、食べたクセに。


ブルーベリーナイトで待ってる
(2008/09/13)