夕方の山手線から見える高層マンション達は蟻の巣みたいだ。あの中はいくつ
もの仕切りで区切ってあって、そこで人が住んだりセックスしてる。
そういうふうに考えると、もしかしたらこの世界もマンションの部屋みたいに沢
山あって、そのうちのひとつなのかも。とかって思って。なら大家さんは淳だといいな。
神様ってそれかもしれないから。
隣りの淳は試合でくたびれたのか目を伏せてこくこくしていた。
「寝てる?」
彼の瞼にかかる深い黒髪をかきわけて、その顔を見つめた。この人は純潔だ。
「あ、!、寝てない」「嘘だね」
私の冷たい指の感覚で飛び起きた淳は欠伸をして涎を拭った。
夕焼けは淳を赤くした。皆は太陽からの光を反射してしまうけど、淳は、
淳なら、それを取り込んでしまうんじゃないかっていうイメージと心配。
「君はいつも何を考えてる?」
「主に政治のことかな。最近は心理学に凝ってる。数式がいつも邪魔をするの」
「ふふ、あっそう」
本当は世界の始まりと終わりのことを延々と考えてるの。淳の精液の成分とシ
ロツメクサから出る汁は同じかもとか、考えてるの。気付いて淳。そして気付
かないで一生、淳、自分が綺麗だってこと。まっさらな自分ってことを。
「今日の夕ご飯、おいしいと良いね」
「寮のご飯はいつもおいしいよ」
「そっか、いいね」
「多分今日アジだな夜」
淳の眼球に貼り付いた薄いプラスチックはとてつもなく邪魔だと思う。
とっぱらってしまえばいいのに、化学繊維の服も全部。
存在当初の裸になって、天使の迎えに頷くのね。とかっていう、淳への勝手な期待と願望。
「ついたよ駅」
「座席から離れると絶対忘れ物した気分になる」
「君は本当餓鬼だね」
優しい瞳で私にそんなことを言う。淳が言ったって、皮肉になんないよ。知ってるのよ私。
君が記憶を無くした天使だってこと。分かるのよ、私には。でも誰も知らないのよね。
淳の造る世界、早く実現するといいね。早く神様に、出世できるといいね。
黄金の月がチェシャの猫だけど、ドジソンはそれに気付いたかしら?アリスはい
つまでそうでいられた?何故ロリーナじゃいけなかったの?アリスはセックスしただろうか。
淳はいつ15じゃなくなってしまうの。
11月の金色
(2008/11/21)