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独白

◆aPPPu8oul.氏

先生が思ってるより、俺はいろんなことを知っている。
先生が俺のどういう仕草が好きなのか。どういう反応が嫌なのか。
どんなに先生が俺のことを好きなのか。
今がどんなに幸せなのか。

それがいつか消えてしまうってことも、俺は知っている。

どんなに激しくて、熱くて、強固な思いでも、いつかは消えてしまう。
ある日突然形を変えて、そこからは簡単に。
想いなんてものは、時間の波にさらわれる砂の城なんだ。

俺は知識ではなく、それを知っている。

だからときどき、泣きたくなる。
無性に泣きたくなる。

同じベッドで眠りについて、ふと目を覚ますと隣でタバコを吸っているその姿を見ると、泣きたくなる。
手を伸ばせば届くその距離がどうしようもなく遠くて、泣きたくなる。

それでも、泣けばきっと優しく慰めてくれるから、泣かずに目を閉じる。
優しくされたら、きっともう止まらないだろうから、目を閉じる。

俺はいろんなことを知っている。



隣で眠る司のあどけない寝顔を眺めていると、どうしようもない愛しさがこみ上げてくる。
誰かを愛しいと思うのはもちろん初めてではないし、いくつかの恋の終りも経験してきた。
ただ、いままでと違うのは保護者としての目が見せる部分があるところだ。

求めるというよりは、手元に置いておきたいと思う。
甘えて擦り寄ってくるくせに、時折ふと寂しそうな目をするから。
何かきっと大事な思いを隠しているから。

遠くに消えていくタバコの煙を眺めながら、ぼんやりと思う。
これからさき、自分と司はどうなるのだろうか。

半年後。自分は司の担任になれるだろうか。文型コースを志望しているから、その確立は高いだろう。
一年後。司は受験生で、お互いずっと忙しくなるのだろう。今のように会うことも出来なくなる。
二年後。司は大学生で、男装はやめているはずだ。どこか遠いところに行ってしまうかもしれない。

三年後まで考えて、自分の歳を数えなおす。
そのころには自分は三十手前で、司は二十歳。
今は現実味の薄い、結婚という単語がちらつき始める頃だ。

苦笑してタバコを灰皿におしつける。
幼い寝顔は、大人の事情など知らなくてもいい。
ただもうしばらく、自分の手元で笑っていてくれれば。
そして、惜しみない愛を注いで、それを少しでも返してくれれば。



あどけないはずの司の寝顔に、隆也が涙の跡を見つけることはない。
ただそっと頭を撫でて、細い身体を抱きしめる。
先のことはわからない。ただこの瞬間、目の前の相手だけを。

「愛してる」

耳をくすぐるその言葉が、どちらのものだったのかも判然としないまま。
二人は肌を重ねて、深く心地よい眠りへと落ちていった。


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