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上を向いて歩こう 5

実験屋◆ukZVKLHcCE氏

「ほれ。」
「・・・・ありがとう。」
辰斗にコーヒーの入ったカップを渡される巽。
「・・・・・・・・」
だが巽はそれに手をつけずジッとカップの中身を見つめていた。
「どうかしたか?」
疑問に思った辰斗が問いかけた。
「あのさ・・・やっぱり・・・話した方良いよね・・僕の事。」
「ん?・・・あぁ。」
最初は何を言われたのか理解出来なかったが、すぐに巽が男のふりをしている事に
ついてなのだと理解する。
「でも、無理に言いたくなかったら言わなくても・・・」
理由があるのだとは思う。しかし、根掘り葉掘り聞いて巽を苦しめたくないと思った。
「ううん。騙してた訳だし・・・怒らせたりしちゃったし・・・」
巽の手が小さく震える。
「巽。」
辰斗は自分の手を巽の手にかぶせた。
「言えば巽はスッキリするか?」
「・・・・・・ウン。」
「よし、俺も覚悟を決めた。話してみ?」

「あのさ、『草薙財閥』って知ってる?」
「工業、農業分野問わずに参入して成功してるトコだろ?・・・ってまさか!?」
「アソコの当主は僕の父親。」
「じゃあ巽って良いトコのお嬢様?」
「それは無いよ。本妻の子じゃないんだもん。」
「え?」


「僕の母さんはあの家の使用人だったんだ。父親・・・僕はそう思っちゃいないし向こうも今は
 そう思っていないだろうけどね。その人は本妻との間に子供が無くて手当たり次第に女の人に
 手を出してたんだ・・・・そして、その結果が僕。」
はぁ、と小さなため息をつく巽。
「その時点では唯一自分の血を引く子だからって僕のことを可愛がったんだよ。
 でも一つだけあのひとが気に入らなかった事がある・・・僕が女だったこと。
 男尊女卑も良いとこだよね。結局僕は男の子として育てられる事になったんだ。
 そして・・・・」
自嘲とは言え笑っていた巽の顔が曇りだす。
「父親と本妻との間に男の子が生まれた・・・・・僕は要らなくなった。」
「巽・・・。」
「それからは手のひらを返したかのような扱いさ。僕に関ることに一切お金を払わなくなった。
 あからさまに母さんと僕を追い出すような態度をとり始めたんだ。」
辰斗の中に怒りがこみ上げてくる。自分の子供を物扱いするその父親に対して憎悪の感情が
生まれてきた。
「当然すぐに二人して屋敷を出て行ったさ。本妻の人と母さんは学生の頃からの友人で
 最初のうちは援助もしてくれたんで生活に困ることはそんなに無かった。でも、その人は
 身体が丈夫じゃなくて・・・しばらくして帰らぬ人になったんだ。
 それから母さんは生活のため、僕を学校に行かせるため昼も夜も関係なく働いた。
 そうして・・・・母さんも死んだ。」
「もう言わなくていい。」
辰斗は巽をそっと抱きしめた。
「もう・・・・僕には誰もいない。何もかもが嫌になってた所で・・・辰斗にあったんだ。」
辰斗はあの日の巽の姿を思い返した。
「あんなに優しくされた事無かったし・・・・だから・・・だから・・・」
「悪かった・・・ゴメンな巽。」
巽を抱きしめる力を強くする。巽のそんな気持ちも知らずに自分の怒りを一方的に
ぶつけた自分に辰斗は罪悪感を覚えた。


「いいの、何も言わなかった僕がいけなかったんだし。」
そう言いながら辰斗の視線の先に顔を向ける巽。
「でも、辰斗には僕を受け入れて欲しかった。」
辰斗の手をとり自分の胸へと押し付ける。
「僕をこんなにドキドキさせてくれる辰斗に・・・僕の全部をあげたかったの。」
言い切ると巽は顔を真っ赤にさせて俯いた。
「でも・・・こんな軽薄な男女じゃイヤだよね・・・だから辰斗怒ったんだよね・・・あっ!!」
涙声になりながら縮こまる巽を辰斗は半ば強引に押し倒した。
「た、辰斗?」
「今の俺の気持ちを教えてやろうか?」
「え?」
「男だろうと女だろうと関係ない。草薙巽を俺のものにしたい。」
「辰斗・・・」
辰斗の指が巽の唇に触れる。
「この唇にしゃぶりついて・・・」
首筋にキスをする。
「首だけじゃない。体中に俺の物だって証を刻み込んで・・・」
髪をすき自分の口に近づけて。
「この髪の一本一本に俺を知らしめて・・・」
服の上から胸を揉みしだき。
「俺以外にココがときめかない様にしたい。」
正面から巽を見つめる
「その瞳に俺だけしか映させない。」
「たつとぉ・・・・」
歓喜に震える声で巽が擦り寄る。
「一度傷つけちまったお前の心を一生かけてなおしてやりたい。」

「僕でいいの?」
「拒否権は無いぞ。もう離すつもりは無いからな。」
「うれしい・・・辰斗・・うぅむ」
巽が言い切る前に辰斗は巽に口付けた。
「あぁぅあ・・・うぅぅん。」
先ほど宣言した通り荒々しく吸い付く辰斗。
「この間は途中でやめちまったっけ・・・今夜は最後までやるが、覚悟は?」
「はぁ・・はぁ・・もちろんOKだよ。」
「ハハ。」
「エヘヘ。」
いつもの調子に戻った二人はそのまま身体を重ね合わせていった。


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