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Z〜第1話〜 (1)

実験屋◆ukZVKLHcCE氏

『Z〜第1話〜』

「・・・燃えろ」
男が呟くと同時に周囲に立ち上る業火。その炎の中には多くの人影が見える。
炎の勢いが強すぎてよく見えないが地獄絵図となっているのは間違いなかった
「コマンダー。」
男の傍らに控えていた別の男が声をかける。
「あのような雑兵、私でも十分でした。」
「そう言うなドラン。俺は自分で戦うタイプだといつも言ってるだろ?」
「そうでしたね。」
炎の中から鳴り止まない悲鳴や絶叫をBGMに何事も無いかのように
二人は語り合っていた。

そこに。

「こっちも終わりました。」
「・・・ただいま戻りました。」
「手ごたえが無いッすね。」
新たに3人の男が加わった。
「ご苦労。・・・じゃあ後始末は俺がしよう。」
コマンダーと呼ばれた男は炎の中を睨みつける。


ドドドドドドドドドドドド!!!!

炎の中を突っ切るような音。何者かがこちらに近づいている。
「はっ!!」
炎の中から飛び出た高熱波が男を襲う。
「・・・・・」
しかし、一瞬にして男の前面に展開された光の光壁が高熱波を遮る。
熱源を見るとそこには火だるまになった馬を乗り捨てた甲冑に身を包む騎士の姿があった。
「『独立開放組織オズマリア』のゼット・ルーファスだな?」
「いかにも。」
「『ベルタ王国白騎士団』のエリック・ジーンだ!!」
エリック、と名乗った騎士は憎悪の視線を俺にぶつける。
「よくも、私の部下たちを・・・この反逆者!!」
「千人近い頭数でたった五人を囲んで倒そうとする連中に言われたくないな。
 まぁ・・・その五人に壊滅されてるようじゃ何言っても笑いのネタにしかならん。」
「貴様!!」
エリックは長剣を構え俺に向き直る。
「俺がやる。お前らは手を出すな。」
仲間たちに手出し無用の意を伝え、俺も構える。

「丸腰か?」
「弱い物イジメは嫌いでね。」
「私を愚弄するか!!」
エリックは大きく振りかぶり突っ込んできた。


エリックの太刀を回避しながら魔法を練り上げる。
「雷よ。」
手の平から放たれる電撃がエリックに襲い掛かる。
「甘い!!」
電撃をかわし切りかかるエリック。
「それはオマエの方だ。」
俺と刃の間に光壁が展開する。エリックの太刀は光へ気に阻まれこれ以上
先には進めない。
「くっ・・・なめるなぁぁ!!!」
強引に光壁を突き破ったエリックが俺を切りつける。
「やった!!」
「残念。」
真っ二つに切り裂かれた俺・・・いや、”俺であった者”はドロドロと溶け出し
中からは人型に掘られた小さな人形が出てきた。
「傀儡だったのか!?」
「そのとおり。」
エリックの背後に現れた俺はその両肩を握り、電撃を放つ。
「かっ・・・は・・・」

意識を刈り取られたエリックは力なくその場に失神した。


エリックを担ぎ上げ仲間の元へと戻る。
「お見事です。圧倒的でしたね。」
賞賛の声をかけるドラン。
「手ごたえが無い。白騎士団ですらもはやこの程度か・・・」
「コマンダーが強すぎるのです。」
「フランの言うとおりです。」
「そうそう。」
続けて俺の不満を受け止める仲間たち。
「そうか?そう言われると嬉しいかも。」
ガラにも無く照れてしまう。
「ところでコマンダー。その者は?」
フランが聞いてくる。
「つれて帰る。」
「捕虜ですか?」
そう聞いてくるのはキノイ。
「いや・・・玩具だ。」
「なるほど。」
四人とも納得したように頷く。
「ウルフ。こいつを頼む。俺は上に報告して帰る。お前らは先に帰れ。」
「わかりました。」
ウルフと呼ばれた男は俺からエリックを受け取った。
「じゃあ屋敷で。」
「「「「はっ!!」」」」
部下の声を聞きながら俺は足元に移動用の魔方陣を展開し消えた。


ベルタ大陸を数百年にわたって統治する『ベルタ王国』。
しかし、長きに渡る栄華の裏側には王国の光当たらず影へと追いやられる者も多かった。
特に商業や農業を生業にする者にとって出来高に関わらず一定、場合によっては
それ以上の上納金や年貢を取っていく王国に不満を持つものも少なくなかった。
また、下位貴族の中には上位の貴族の怠慢や汚職の実態に嫌悪の意を持つ物もいた。
そんな中、王国から独立し大陸の『王国統治外地域』での共和国成立の運動が活発化した。
中心となるのは先にあげた商家や下位貴族たちが中心である。彼らは王国の庇護に
当たらぬ者や外される者達を引き受け新たな国作りをするという名目で王国に掛け合った。
しかし、
そんな彼らを王国側は『反逆者』として廃絶に乗り出した。
理由は簡単。”気に入らない”のだ。王国は最強の呼び声高い『白騎士団』を
筆頭に共和国設立派討伐を開始した。
独立を訴える為、終始交渉の声明を発していた共和国設立派を王国軍は次々と
討っていった。王国軍は人々が生活を営む町や村を次々と戦場に変え、障害となるなら
民間人をも平気で手にかける者までいた。

どうにかして逃げ延びた設立派の人間は自分達を支持するものを集め
『王国統治外地域』に『オズマ共和国』を立ち上げた。さらには王国軍に
対抗するために『独立開放組織オズマリア』を組織し現在に至る。


「・・・と言う訳で王国軍は壊滅、捕虜を一人捕らえました。」
ここは共和国の議事堂。共和国評議会議員やオズマリア幹部が
集結し俺の報告を聞いてた。
「よくやったコマンダーゼット。」
設立時の生き残りで実質最高権力者のオズマ議長から賞賛をいただく。
「捕虜の扱いですが・・・」
「おぬしに一任しよう。」
「はっ。」
「ではこれにて閉会。」
閉会と同時にオズマリア幹部の姿が一瞬にして消える。幹部のほとんどは
前線にいるため魔道投影機での参加だったのだ。

「ゼット。」
後から声をかけられる。そこにいたのは初老の男性。
「・・・テクス議員。」
テクス・ケース。評議会議員の中堅で俺のオズマリア幹部入りに際し
設立派討伐時に死亡した友人『ルーファス』の姓をくれた恩人である。


「さすがだな。」
「これも全てアナタのおかげです。」
王国に全てを奪われた俺をオズマリアに参加させてくれたのはテクス議員。
いわば彼は父も同然だ。
「もはやお前の力はもはや白騎士団をも凌駕しているだろうな。」
「言いすぎですよ。まだツワモノが残っているかもしれない。」
本当はそう思ってなどいないが謙遜はしておく。
「ふむ・・・そうだな。しかし、今はお前を褒め称えさせてくれ。」
「ありがとうございます。」
彼の嘘偽りない賞賛は真っ黒に濁った俺の心には有難い癒しだった。
「では・・・これで。」
テクス議員に一礼し魔方陣を展開する。
「あぁ。四天王にもよろしくな。」
「はい。」
そう言い魔方陣は俺を自分の屋敷へと転送した。


「お帰りなさいませ。」
屋敷に戻り俺を迎える使用人達。
「出迎えご苦労。仕事にもどれ。」
そう言うと仕事に戻る使用人達、残ったのは四人。
「お疲れ様でしたコマンダー。」
単独でしか動かない俺が唯一公私共に部下にしている四天王、
ドラン、フラン、ウルフ、キノイの四人が出迎えた。
「報告は俺の仕事だ。お前らにさせるわけにもいかんだろう。」
「そうですね。」
「エリックだったか・・・?あいつはどうしてる?」
「拘束し地下につないであります。しばらくすれば意識も取り戻すかと。」
「そうか・・・。」
「ところでコマンダー。お耳に入れたいことが・・・。」
「ん?」

ドランが話した内容に俺は自然と引きつるような笑みを浮かべていた。


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