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魔王の恋 2

実験屋◆ukZVKLHcCE氏

−成人になる前日−

「おぃーっす。」
「ジェイドさん!!」
遊びに来た俺を魔王は笑顔で出迎える。
「いい子にしていたか?」
「はい。・・あぅ。」
俺が頭を撫でてやると魔王はよく今のような声を上げる。感じやすい体質のようだ。
それを分っていながら可愛いと思いワザとやる俺、タチが悪いな。

そういう趣味はないんだが・・・。

「明日だろ?成人になる日は?」
「ハイそうです。」
「じゃあコレ、プレゼント。」
そう言いながらラッピングされた箱をさしだす。
「私にですか?」
「あぁ。」
「・・・・」
黙り込んだ魔王に不安になる。
「あれ?こういうのイヤだった?」
「ジェイドさん!!」
魔王は感極まった表情で俺に抱きついた。


「オイオイ。」
「ありがとうございます。私・・・すごくウレシイです!!」
「そうか、そう言ってもらえて俺もうれしいよ。」
「開けてみてもいいですか?」
「ドウゾ。」
「・・・・わぁ!!」
箱の中から出てきたのは翡翠で作られたブレスレット。
「本職は物造りなんでな。勇者じゃ生活はしていけない。」
「えっ!!じゃあコレ、ジェイドさんが?」
「・・・まあね。」
魔王は目を輝かせながら俺を見つめる。
「・・私、コレ大切にします。」
「そうか?サンキューな。」

ブレスレットをウットリと見つめる魔王にまた俺は胸の高鳴りを感じた。

(どうしたんだ俺は?ましてや子供、男だぞ。)

しかし、鳴り止むことのない高鳴りはいつまでも俺の心を締め付けた。


魔王の自室に通された俺は共に他愛の無い話を語り続ける。
ここに来るようになって俺がする事といえば、魔王と一緒にこうして
話をしたり、城の手入れを手伝ったり、ちなみに魔王は本当に城を
掃除していた。これには俺もビックリ。
無論、魔王としてちゃんと執務(?)もこなしている。

・奥さんとケンカして家から追い出されたベルゼバブのグチを聞いたり
・ヘルニアで満足に動けないベリアルの治療
・高所恐怖症のガルーダの克服大作戦

魔王はナンデモ相談室じゃ無いんだぞ!!と言いたくなったが親身になって
力になろうとしている魔王を見てそれを押しとどめた。
「ほんと、オマエさんは偉いよ。」
「そんな・・・私なんか父に比べたら・・・」
顔を真っ赤にしながら謙遜する魔王。人間の王様にもこの位真面目なら・・・。

「・・・話は変るけど、ひとつ聞いていいか?」
今更ながら俺はずっと気にしていた疑問を口にした。


「何でしょう?」
「あのさ、オマエ名前なんていうの?」
実は俺、魔王の名前を知らなかったりする。
『何じゃそりゃ』とツッコミたくなるかもしれないが聞く機会が無かったんだしょうがないじゃん。

「名前ですか・・・」
「そう。ずっと呼び方オマエばっかだったし・・・ね?」
よく考えたら名前も教えてない奴にオマエ扱いされて、俺って結構失礼だな。
「・・・・・・」
魔王は少し困った顔をして俺を見る。
「どうした?」
「あの〜・・・・」
「ん?」

「実は私・・・・名前が無いんです。」
「はっ?」
どういうことだ?


「生まれた時から父には『わが子』って言われてましたし、
 魔族のみんなにも『二代目』とか『魔王様』としか言われてなくて。」
「親父さん、名前用意してなかったのか?」
「魔族は名前や家族の概念が薄いんです。なので名前はあとで自分でつける人の方が多いんです。
 こっちで暮らしてる魔族くらいですね名前を生まれた時から持ってるのは。」
「呼びづらくない?」
「魔界の魔族は一人立ちが早いですから。群れで生活していても、大将がいて
 『子分A』『愛人28号』みたいに大将が決めた役割が名前になるんです。
 名前が欲しくなったら自分で考えて勝手に名乗ると言うのが現状なんです。」
「なるほどね〜。」
ちょっとしたカルチャーショックだ。名前の概念なんて考えもしなかった。
「でも、名前が無いのは呼んでもらうとき不便ですね。」
魔王は真剣に悩みだした。
「う〜ん・・・名前・・・名前。」

・・・10分
・・・20分

プシューーーーー!!

魔王の頭から湯気が噴き出した。オーバーヒートしたな。


「ジェイドさ〜ん、一緒に考えてくださいよ〜。」
魔王は半泣きになりながら俺に訴えかける。
「オイオイ、自分の名前だろ?」
「うぅ〜」
魔王の視線が痛い。
「あー!!分ったよ考えればいいんだろ!?」
「お願いします!!」
「とは言っても、ペットの名前考える訳じゃないんだし。」
まさか名付けをするなんて考えもしなかった。
名は個人をあらわすモノだ。適当に考えるわけにはいかない。
魔王の名前になるわけだしな〜・・・。


あー。俺もオーバーヒートしそう。

魔王だろ・・・
魔王・・・
まおう・・・

「・・・・・・・・・・・・・マオ?」


「え?」
「イヤ、魔王だから、あんまし弄ってもなと思ったんだが、ストレートすぎるな。」
「・・・マオ。」
「ワリィ、他のを考えるわ。」
「待ってください!!」
「え?」
「私、マオがいいです!!」
「・・・ホントに?」
「ハイ、ジェイドさんが付けてくれた名前です。そう呼んでもらいたいです。」
「いいのか?一応、一生モンなんだぞ?」
「一生マオって呼んでください。」
そう言う魔王の・・・いや、マオの瞳は真剣だった。
「・・・分ったよ。じゃあ、改めて・・・よろしくな、マオ。」
「ハイ、よろしくお願いします。」
マオは勢いよく頭を下げ・・・・
「わぁぁぁ!!」
そのまま転んだ。
「ったく。何やってるんだ。」
マオに手をさしだす。
「ゴメンなさい・・・。」
両手で握り返すマオ。立ち上がってもマオは手を離さない
「オイ・・・」
「ジェイドさんにはお世話になってばかりです。でも、私嬉しいです。」
マオが笑顔で俺を見つめる。胸の高鳴りがいっそう高く鳴り響いた。

(・・・心臓爆発するんじゃないか?)


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